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1-4:女神の加護……?

「ガァッ」


 飛びかかってくるコボルト。動きが、なぜかひどくゆっくりだ。

 水中を泳いでいるようなもの。汚れた牙の一本一本、相手のナイフに刻まれた刃こぼれさえ数えることができる。

 空気の揺れ、地面の振動、すえた臭い。

 何もかもを鋭敏に感じて、僕は感覚が研ぎ澄まされているのだと気づいた。


「僕が、速くなってるんだ……!」


 後の先。

 懐へ、飛び込む。

 相手よりも早く、相手よりも強く、自分の武器を押し付ける。

 要は力押しだけど、外れスキルの僕には信じられないことだった。

 手にしたばかりの青水晶の短剣が、相手の喉をとらえた。ぐりりとひねり、横合いに切り裂く。水のようになんの抵抗も感じなかった。


「グア、グ……」


 コボルトは地面で少しもがくと、すぐにボロボロの灰になって崩れた。爪くらいの大きさの石が、きらりきらりと数個散らばる。

 これが魔石。いわゆるドロップアイテムだ。

 魔物を倒すと、魔力が得られる。倒した人間に吸収される魔力もあれば、こうして魔石として現れるものもあった。


 人間に吸収された魔力はその人の力を高める。レベルアップだ。

 一方で魔石となって散らばった魔力は、保管したり交換したりできるようになる。ポーション作成や武器の強化から、照明や動力源になったり、魔石は世界中で使われる。

 レベルアップのためにも、魔石のためにも、魔物退治はやっぱり冒険者の花形だった。


「勝てた……」


 ほうっと息をつく。

 周囲を見回すと、冒険者の1人が壁にさっと隠れた。それでも驚いたようにこっちをうかがってくるのは、外れスキルが魔物を倒したのが信じられないのかもしれない。


 多分、あの人が下層でコボルトに追いかけられたまま上に戻ってきて、それがうろついていたのかな?

 事故だと思うけど、行き過ぎた嫌がらせという可能性も捨てきれない。

 移動する前に、僕は魔石を拾い集めた。



 ――――


 極小魔石 5個 を入手しました。

 (やったな!)


 ――――



「……あれ?」


 アイテム入手を知らせる神様の声。意識して聞かないようにしない限りは、入手したアイテムの種類を伝えてくれる。

 でも、今……神様の声に、変なのが混じっていたような。


「気のせい……かな、うん」


 足を回してその場を離れた。

 念のため入口近くにいる衛兵さんにコボルトの出現を伝えてから、僕は採集を再開する。

 薬草を一つ引き抜いた。



 ――――


 マナ草を入手しました。

 (早くまた起こして欲しいな!)


 ――――



 ……。…………??

 ……また、だ。

 な、なんか、神様の声が、変だ。いつもは無機質なのに、今は待ちきれない子供みたいなのが重なる。

 というか声はあの子――ソラーナにそっくりなんだけど。

 隣の薬草を抜く。



 ――――


 体力草を入手しました。

 (聞こえてるのか?)


 ――――



 気のせいだ、気のせいだ、と言い聞かせながら、採取を続ける。



 ――――


 マナ草を入手しました。

 (あ、あれ? もしもし?)


 体力草を入手しました。

 (……聞こえてない……?)


 解毒草を入手しました。

 (せ、せっかく信徒だって思ったのに……)


 体力草を入手しました。

 (う、うう……! これじゃわたし……寂しくて……真っ暗になってしまう……よ……)


 ――――



「わ、わかりました!」


 跳び上がる。

 周りにいた採集冒険者がびくっとしたけれど、どんどん暗くなっていく声に胸が痛んで仕方がない。


「わかりました……! 一回外出ます、出ますから……!」


 自分でも何に向かって囁いているのかわからない。

 僕はその日の探索を切り上げることにした。異変の原因ははっきりしている。ポケットに入れたままの金貨だ。


 家に戻ろう。

 スキルのこと、金貨のこと、考えることが多すぎるもの。

 冒険者ギルドに帰還し、薬草入りのリュックをどん!とカウンターに乗せた。


「り、リオンさん……今日はずいぶん早いですね」


 係りのお姉さんに目を丸くされてしまった。


「コボルトがいて、魔石が手に入ったので戻ってきました」

「えええ! だ、大丈夫でしたかっ? 探索用の浅層(せんそう)には、スライム以外がいかないように管理されているはずなんですが……!」

「はい、倒せました」


 倒したと口に出すると、なぜだかいつもより自信が出てきた。


「冒険者が魔物に追いかけられたまま上に戻ってきたのだと思います。厳密には危ないですけど、東ダンジョンの現状なら……仕方ないとも思います。でも一応、下層から魔物を連れてこないよう呼びかけてもらうことはできますか?」

「それは、もちろん!」


 平謝りするお姉さんを止めて、僕はギルドを後にした。


 ついでに、半年ぶりにレベルが上がっていた。


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新作始めました! もふもふ可愛く、時々アツい、王道ファンタジーです!
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― 新着の感想 ―
[一言]  まだ主人公は自分の能力を自覚できていない状況ですね。  ここから巻き返しになるのでしょう。  楽しみにしております。ではまた。
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