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4-56:救済


 神殿へと通じる大階段。

 雪が舞う中、ルイシアの前でフレイが膝をついた。豊穣神は少女の手を取り、青い目で見つめる。


「……いいのだな?」


 ルイシアは顎を引いた。

 豊穣神フレイに遺された力で、ルイシアの体から、フレイヤを解き放つ。フレイヤが天界に魔力を運べば、神々は力を取り戻すかもしれない。

 しかし、それだけのことをすれば、弱った兄神は――。


「信じます」


 フレイは瞑目し、ルイシアの手を額に当てた。

 緑色の魔力が青年の全身を包み込む。それはルイシアの手から腕を伝い、だんだんと少女に流れ込んできた。

 応じるように、ルイシアの胸にも緑色の光が宿る。魔力は温かい輝きを強めながら、胸から肩、そして全身へと広がっていった。

 やがてフレイからの緑色の魔力と、ルイシアの胸から生じる同色の魔力が、混ざり合う。

 フレイが空を見上げ、叫んだ。


「オーディンよ!」


 声はわんと響いて、雪原に溶けていく。


「見ているなら、応えてほしい! フレイヤを救い、絶大な魔力を天界まで届けるため、この少女からスキル<神子>を外してほしい!」


 フレイは叫び続けた。


「お前も知ったのだろう!? 冒険者の強さを! 私はフレイヤを救い、冒険者リオンに報いるため、最後の力を使う!」


 鴉が一羽、鳴き声をあげながら神殿の上空を横切った。


「――代償は、私自身だ」


 かちり、と鍵が外れるような感覚がルイシアの胸で起こる。瞬間、急速に視界がぼやけた。目がくらみ、立っていられない。


「……っ」


 倒れそうになるルイシアを、ミアやフェリクスが支えてくれた。

 大勢がフレイに声を張っている。ルイシアの異変を見て、やめさせようというのだろう。

 ルイシアは必死に声を絞った。


「……私、まだ、我慢できます!」


 目が霞む。

 そんな視界でも、仲間達が――ミアやフェリクス達が息をのむのははっきりわかった。

 お兄ちゃんの仲間はいい人だな、とルイシアはぼんやりと思う。

 これくらい、王都で病に苦しんでいたのに比べれば、なんてこともない。

 フレイの声が聞こえた。


「オーディンが、君に授けたスキル<神子>を弱めた。鴉か、あの水鏡で神々は地上の様子がわかるのだろう」


 ルイシアは、大階段に腰かけた。

 胸から熱い何かがせり上がってくる。スキル<神子>という守りがなくなり、フレイヤの魔力がルイシアを飲み込もうとしているのかもしれない。

 フレイが囁く。


「……これから、君とフレイヤの心を切り離す。だが――」

「やってください」


 失敗したら、フレイも、フレイヤも、ルイシアも、等しく壊されるという。それでも気持ちは揺るがない。


「――わかった」


 フレイは頷き、ルイシアへ告げる。


「目を閉じてほしい」


 言われるままに瞼を下ろす。

 視界が失われたはずなのに、暗くはない。緑色の光が2つ、暗闇に浮かんでいた。光は徐々に強くなり、内側から2人の姿が現れる。

 一人は、長い金髪に、緑のドレスをまとった美しい女性。こぼれそうな青色の瞳と、花びらのごとき唇が、息を忘れるほどきれいだった。

 もう一人は、凛々しい剣士。なびく金髪と、すっと通った鼻筋は、2人ともよく似ていた。


「フレイ、フレイヤ……」


 ルイシアが呟くと、2神は微笑する。

 フレイは妹の手を取って、噛み締めるようにその姿を見つめた。

 兄妹の間に言葉はない。涙が兄と妹の頬を伝った。

 ルイシアは、なんとはなしに思う。

 フレイは、またこうして妹と会いたかったのだろう。だから妹を犠牲にするオーディンを受け入れられず、妹と会いたいからこそ、自分もまた生き残らなければならなかった。

 フレイが、フレイヤの腕を引く。

 暗闇の端に光が差した。


「いってらっしゃい」


 ルイシアは言った。

 頬を涙が濡らした。

 

「もう、ずっと一緒だね」


 フレイは寂しげに手をあげ、フレイヤと共に明るい出口へ向けて歩いていく。

 強まる、光。

 気づくとルイシアは瞼を開けていた。

 胸にあった緑の光も、体を蝕む熱さも消えている。

 冒険者達が空を見上げていた。ルイシアも、夜明け前の空へ目を向ける。

 緑の軌跡を残して、空をフレイとフレイヤが支え合うように飛んでいた。向かうのは大階段のさらに先、雪に煙り、今にもかき消えそうになっている虹の橋(ビフレスト)

 兄妹神が地上に向けて手を伸ばすと、大階段の下で光が散る。世界蛇(ヨルムンガンド)とフェンリル――伝説の魔物の魔石も砕け、光の粒となり、2神が放つ輝きに交じり合った。

 フレイの体は光の粒となって、徐々に崩れてゆく。

 それでも2神は、フレイヤ自身が創世に使い残した魔力を持って、天界へ向かう。


 フレイの体が光に溶けきる瞬間、ルイシアは、不思議な声を聞いた。

 頑張ったな、そんな父親ルトガーからの声だ。

 涙を払ってルイシアは兄妹神の終わりを見守る。2つの神が虹の橋(ビフレスト)にたどり着いた瞬間――七色の光が、再生する。

 神が存在をかけて運んだ魔力が天界へと届き、消えかけた道をもう一度結び直させる。

 膨大な光が黎明の空に渡る中、ルイシアは祈った。


 みんなが帰ってきますように。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は11月21日(月)の予定です。

(1日、間が空きます)


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