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4-25:不思議な共闘


 僕とフレイは、魔物を退けながら進む。

 能力『黄金の炎』を使いながら、僕は飛びかかる狼を切りつけた。

 そんな風に戦っていても、この神様には気が抜けない!


「……フレイ!」


 僕が言いかける間に、フレイもまた大蛇を両断していた。

 ソラーナは僕とフレイの間に入っている。万が一、攻撃をしかけられた場合の警戒だ。

 横合いから、また別の狼による飛びかかり。スライディングでかいくぐり、すぐに反転、すれ違いざまに切り裂く。


「なんで、あなたまでここに!?」


 ようやく攻勢が止んだ。

 僕はほっと息をつき、汗を拭う。

 半ば崩壊した迷宮には、野生動物がもともと住み着いていたみたい。ユミールはそうした生き物を、魔物に変貌させて、ここに残していったようだ。

 フレイは剣の血を払いながら苦笑する。


「私は魔物ではない。ゆえに、フェンリルとハティの連携に、入っていないのだ。勝手に動ける分には気楽だが、裏切者は苦労するな」


 この人はまるで息を切らせていない。2人それぞれ10体以上倒したと思う。けど、フレイはまるで散歩でもしているみたいだった。

 魔物ではないから、僕らと同じく襲われるらしい。

 ソラーナは腕を組み、フレイを睨む。


「……ユミール陣営も、一枚岩ではないということか」

「ああ。わざわざ追ったのは、リオンの強さをより知りたかったから」


 フレイは続ける。


「あわよくば妹を返してもらおうと思ったが……さすがに大胆だったね」


 ぞっとした。やっぱり、ヘイムダルをルゥの守りにつけてよかった。


「納得してもらえたかな?」

「……一応は」


 受け入れられるかは別だけど。

 ルゥが本当に危なくなったら、いずれかの神様が迷宮の壁を突き破ってでも助けにいく手はずだった。階層が崩落して、ユミールの手がかりも失うことになるから、本当に最後の手段になる。


 同じ理由で、フレイとここで本気で戦うことも、しない方がいい。僕は結局、フローシアの塔でも壁や天井を大きく壊してしまった。今回、もし同じ規模の戦いになったら――迷宮を調べるという目的が達せられなくなる。

 ソラーナが言った。


「リオン、今は――」

「わかってる」


 ヘイムダルに言わせれば、『攻められ方』がわかっていないということは、『守り方』もわからないということ。

 王都に冒険者や騎士を集めても、ユミールがどんな力を身に着けたかによって布陣が変わる。

 だから、僕は攻められない。フレイも神様が大勢いる今は、仕掛けられない。

 男はそんな僕の迷いを見透かすように、微笑した。


「ふふ、結論は出ただろう?」


 余裕ある態度。

 むっとなる。

 ……一緒に閉じ込められてるくせに。

 フレイは片手をひらひらと振って見せた。


「そう睨まないで。生きるか死ぬかの戦いは――終末で好きなだけやることになる」


 もちろん、言葉を丸ごと信じるわけにはいかない。

 僕は『黄金の炎』を維持しながら、フレイと距離をとって歩く。間にはソラーナ。

 僕が右側の壁沿い、フレイが左側の壁沿いを進むんだ。

 迷宮で左右を庇いあって進むパーティーみたいだけど、この男とは絶対に『仲間』と呼ばれたくない。僕は――ルゥを狙い、神様を裏切ったこの人に、とても怒っている。


 やがて、僕らは大きなホールのような空間へ出た。

 奥の暗がりに、魔物を示す赤い光が探知できる。

 ソラーナが前を指さした。


「敵だ」

「――うん」


 僕は腰を落とす。フレイは剣先を右後ろに向ける構え。

 暗がりから巨大な魔物が現れた。


「フゴッ! フゴォ!」


 姿はイノシシといっていいだろう。

 大きさは、5メートルほどもあるけれど。

 馬車並みに体が肥大した、とんでもない大イノシシだ。

 背中からはヤギのようにねじくれた、禍々しい角。額には、人間のような『口』が3つ横並びになっている。口はどれも激しく歯ぎしりして、凄まじい怒りを示していた。

 目は赤々と燃える。鼻からは蒸気のような鼻息だ。

 4つの牙が口からはみ出し、2つは真上に、もう2つは正面に向いている。


 魔物の近くには、同じように目を血走らせた小イノシシもいた。家族でここに暮らしていたのかもしれない。

 ソラーナが辛そうに顔を伏せた。


「……かわいそうに」


 女神様は唇を噛む。


「これも、王都に現れた魔物と同じ。やはりユミールはここにいて、普通の獣を歪め、混ぜ合わせ、魔物に変える練習をした」


 大昔、他の魔物もこうして生み出されてきたのだろうか。

 僕はフレイへ問いかける。


「……フレイ。ユミールはここで何をしてたの? 王都へ、どうやってこんな魔物を送り込んだの?」


 男は切れ長の目でせせら笑った。


「答える義理が?」


 大イノシシが突っ込んできた。

 狙いは、僕。野生の勘で、弱そうな方を狙ったのかも!


「はっ」


 でも、僕だって負けない。

 横に跳んで避けながら、分厚い毛皮に刃を立てる。


「ブゴォォ!」


 呻きと共に、イノシシが体を倒した。背中の角で地面をえぐり、速度を殺して急旋回。

 額に刻まれた3つの口が開く。

 長く、鋭い舌が飛び出した。

 まるで触手。地面を切り裂きながら、刃のように迫ってくる。

 でも、それは警戒済み。構えていた短剣で、長い舌を切り落とした。


「目覚ましっ」


 右手の籠手(ガントレット)から水の精霊(ウンディーネ)を呼び出した。

 人魚の姿をした精霊は、魔物を睨む。直後、地面から水が吹きあがった。


「地下水か」


 フレイの感心した声。

 水撃に脇腹を撃たれ、大イノシシが体勢を崩す。

 僕は顎下へ潜り込んだ。



 ――――


 <スキル:魔神の加護>を使用します。


 『精霊の友』……精霊達の力を引き出す。


 ――――



 この能力には、複数の精霊の力を組み合わせる効果もある。

 僕が組み合わせたのは、炎の精霊(サラマンダー)と、風の精霊(シルフ)だ。


「ぴいっ!」

「わんっ!」


 空中へ飛び出した2種類の精霊。僕が短剣を振るうのに合わせて、風と炎を巻き起こす。


「ガッ……!」


 風で強められた炎が、斬撃に乗り、爆炎に。

 巨体のイノシシが浮き上がる。喉元で爆ぜた風と炎に、魔物の命も断ち切られたみたいだった。


「……すみません」


 元々は、ここで暮らしていた普通の獣なのに。

 黒灰となって消えていく姿に、胸が痛む。

 フレイの戦いも終わっていた。足元には、いくつかの魔石が転がっている。小イノシシも倒したのだろう。

 不意に、羽音。

 僕は叫んだ。


「次がくる!」


 魔物化したコウモリの群れが、僕らの方へ向かってくる。まるで真っ黒い雲が覆い被さるみたい。

 ソラーナが浮きながら前に出た。


「……リオン」


 一時的に、フレイから警戒を外すって合図だ。


「うん、お願い!」


 ソラーナが腕を振るった。黄金の光が解き放たれて、コウモリ達を洗う。

 目を真っ赤に光らせて狂暴化していたコウモリ達だけど、光を受けた瞬間、体から黒いもやが噴出した。

 光が収まり、もやが晴れていく。

 すでにコウモリ達の目に狂暴な輝きはなくなっていた。天井を一周して、また迷宮の奥へ帰っていく。

 フレイが目を丸くした。


「……魔物から、普通の生き物に戻しただと?」

「うむ。体を混ぜ合わされていたり、時間が経ちすぎていたりする魔物は無理だがな」


 ソラーナは去っていくコウモリ達に目を細めた。


「彼らはまだ助けられた。ユミールが魔物を生み出している時、たまたま近くにいて、影響を受けたのだろう」


 僕はふと、女神様の能力を思い出していた。

 回復の『白い炎』は、呪いも払う。魔物の魔力による異常を治せるんだ。

 ソラーナは笑いかけてくる。


「以前は、ここまでは無理だった。君との絆が成長したおかげだと思う」

「……うん!」


 フレイは青い目を見開いていた。<狩神の加護>のおかげで、小さな呟きも聞こえる。


「成長だと? これほど……」


 その後、僕らは静かに迷宮を進んだ。

 魔物の襲撃はひと段落したみたい。ひゅうひゅうと風が迷宮を抜ける音だけが、延々と続いていた。

 反対の壁沿いを進みながら、フレイがぽつりとこぼす。


「……フレイヤは、目覚めたのだな?」


 唐突な言葉に、僕は気づいた。

 この人が迷宮までついてきた理由は、意外とシンプルかもしれない。


「そっか……」


 遠く離れて、言葉も交わしていなかった妹。今どうしているのか、無事なのか――純粋に気になったんじゃないだろうか。


「……少し、フレイヤ様のことを話しますか?」


 僕はそう返した。


「あなたに答えてもらいたいこともあるから」

「……駆け引きか。まぁ、いいだろう」


 不思議な流れで、情報交換が始まった。

 暗い迷宮に僕とフレイの足音が響いていく。


お読みいただきありがとうございます。


次回更新は9月14日(水)の予定です。

(1日、間が空きます)

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