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1-13:冒険者ミア

 スケルトンから逃げていたのは、2人組の女の人だった。

 1人はすらりと背が高く、革鎧に身を包んでいる。日焼けした顔が、にっと力強く笑った。


「助かったよ、ありがとう!」


 赤毛を2つに結っていて、猫の耳みたいだった。きりっとした印象だけど、アーモンド形の目もどことなく猫に似てる。

 歳は僕より上で、たぶん17歳くらいだろう。


「あんな援護しかできなくて悪いね。投擲には自信があるんだけど」


 差し出された右腕には鎖がぐるぐると巻かれている。鎖は、腰に吊った手斧に結ばれていた。

 ……武器は鎖つきの斧――『鎖斧』かな。

 握手をかわすとまた爽やかな笑みが咲いた。


「あたしはミアだ。君と主神に感謝を」


 ぶんぶん振られる腕は、力と余裕があふれている。こっちは体ごと揺れてしまう。

 ソラーナの声が聞こえた。


『斧使いか、戦士といえば斧だな』

「スキル<斧士>なんだと思います」


 僕はソラーナに囁いた。

 ミアさんはすごく強そうだし、落ち着いてる。

 探索で悲鳴をあげるようには見えない。

 その疑問は『もう一人』で氷解した。


「ど、どどど、どうも……」


 ミアさんの後ろにもう一人の女の子がいた。

 長い銀髪と白い肌に目が行く。瞳は吸い込まれそうな空色だった。


「た、助かりましたぁ……」


 オドオドしているのがなんだか小動物みたい。

 一方で装備は整っている。

 白い法衣に神官を示す帽子。手にはロッドを持っていて、荘厳な飾りが涙目とアンバランスだ。


「大丈夫でしたか?」


 僕が声をかけると、女の子はばっと顔をあげた。目がきらきらしている。


「すごいです! あれだけの数のアンデッドを! わ、私なんて、足が震えて……」


 尊敬の眼差しに頬が熱い。

 遠目にはスケルトンを一蹴したように見えたのかもしれない。けっこうギリギリだったんですけどね。

 ミアさんが困り眉で肩をすくめた。


「このとおり、連れが居てね。腰抜かして叫んで、魔物を呼び寄せてしまった」

「やっぱり……」


 初心者どころか本当の素人みたい。注意しないわけにはいかないだろう。


「あの……ここ、戦闘層ですよ。初心者じゃ危険です」

「おう、そうだね。しかも助けられたんじゃ……面目ない」


 ミアさんは、銀髪の女の子に目を向けた。


「ただ東ダンジョンの戦闘層を見たいっていう、当人たっての依頼だったんだ。あたしはそのために雇われた。このダンジョンならソロで深く潜ったこともあるし、問題ないと思ったんだが……」


 そのまま泣き出しそうな少女に訊く。


「これで満足かい?」

「は、はい!? はい! もう十分です! ありがとざっした!」


 嚙みすぎてすごいことになっている。頭を下げるスピードで顔が見えない。

 女の子はやっとミアさんの前に出てきた。帽子を直して、ロッドをつき、居住まいを正す。

 そうすると――本当にきれいな人だ。


「こ、こほん。名乗るのが遅れまして」


 胸に手を当てた優雅な一礼。仕立てのいい、真新しい手袋が目に入った。


「私はパリネ、オーディス神に仕える者です」


 なるほど。

 主神オーディス様をまつる、オーディス神殿。

 ダンジョンに封印を施したのはオーディス様だから、神官がダンジョンに潜ることも多い。


「わた、私は、神殿の修行で各地のダンジョンを回っております。王都のダンジョンも目的の一つでした」


 なんとなくだけど、ソラーナが興味深そうに聞いているのを感じる。

 オーディス神殿はダンジョンの根幹にかかわる存在だけど、秘密も多い。


 世界を覆う封印の力。

 それが古代アイテムを保管し、魔物をダンジョンに閉じ込めている。


 この『封印』に関連したスキルが、王族の一部に宿るみたい。

 建国神話でオーディス様は、ダンジョンを恵みとして与えたというけれど、その恵みを受け取った人こそ王族なんだ。

 噂では封印そのものを左右するスキルだとか。ただ、詳しくはわからない。


 スキルに目覚めた王族を迎え入れ、ダンジョンの根幹を管理しているのが、オーディス神殿だ。

 日々の動きにも目を光らせている。『(カラス)の戦士団』と呼ばれる神殿だけが動かせる特別な冒険者がいるらしい。


 冒険者ギルドが冒険者を管理して、オーディス神殿がダンジョンを管理する。ダンジョンに衛兵さんがいるのは、つまり『王国のものですよ』ってこと。

 まぁ東ダンジョンは、王様の下、貴族が支配してるんだけど……。

 父さんからは、そういう、持ちつ持たれつの関係だと教わっていた。


 だからパリネさんのような神官が、ダンジョンにいるのはおかしくない。


「やば、やば、やばば……!」


 う、うん。

 でもなんでこんなに初心者みたいなんだろう。

 ミアさんが腕を組んだ。


「しかし、この東ダンジョンでアンデッドが出るなんて聞いたことがないな」


 僕が頷くと、ミアさんは口を斜めにした。


「なぁ、ちょっとした緊急事態じゃないか? 初心者用の迷宮にいていい魔物じゃない」

「そう思います。一度、外に出ましょう」


 僕たち3人は連れだってダンジョンの外へ向かう。

 その間、ほとんど誰ともすれ違わなかった。探索層への階段を上りながら、ミアさんは不思議そうにする。


「東ダンジョンは朝遅いんだな?」

「はは……魔物も弱いし、人も少ないので、取り合うほど仕事がありませんから」


 魔物が弱いから大した遺物は出てこないし、魔石も知れている。けれどギデオンの取り巻きになれば、貴族からおこぼれが出る。

 ダンジョンで必死に稼ぐよりもギデオンの取り巻きになる方がいいんだ。


「ミアさんは、普段は別のダンジョンに?」

「ああ」


 東ダンジョンに潜ってはいないだろう。

 淀んだ感じがしなくて生気に溢れているから。


「あたしは西ダンジョンだ」

「……すごい」


 王都でも上位の迷宮だ。東ダンジョンで物足りなくなった冒険者は、最終的には一番難易度が高くて、実入りも大きい西ダンジョンへ向かう。

 僕は改めてミアさんを見た。

 使い込まれた斧。緊張のない、それでいて隙のない歩き方。

 実力者なんだろう。


「僕も、いつかは……」


 憧れにぎゅっと蓋をした。まずは家族を自由にしてからだ。

 探索層を抜けて地上へ上がる。

 真っ先に向かったのは、冒険者ギルドの受付だ。

 強い魔物がいたことを報告すると、係りのお姉さんは眉をひそめる。


「あ、アンデッド?」

「間違いないです」


 冒険者ギルドには貴族の圧力がかかっている。それでも、係りの人は真面目で親切だ。

 お姉さんはすぐに表情を引き締める。


「……わかりました! 上に報告し、戦闘層は調査しましょう。スケルトンを見た位置などは?」

「ここと、ここです」

「ダンジョンに入っている冒険者に警報を出します。衛兵も入ることになるかもしれません」


 ダンジョンの地図へ印をつける。


「ご協力ありがとうございます」


 お姉さんは丁寧にお辞儀をしてくれたけれど、僕が次の話題を出すと表情が変わった。さっと青くなったんだ。


「魔石があります。買い取っていただけますか?」

「…………こちらへ。今、係の者を呼びます」


 隣は素材を買い取る受付になっている。

 魔石へ提示された値段に、僕は目が飛び出しそうになった。


「え。たった、これだけ……?」


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