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1-12:精霊を目覚まし

 能力『黄金の炎』は体を強化する。淡い光に包まれて、聴力も、視力も、全てが強化されていた。

 踏み出す一歩で、僕は風になる。


「ギャッ」

「グワッ」


 通りかかる魔物を瞬殺する。

 女神様の力はすごい。

 五感まで強化されるということは、相手が気付く前にこちらが気付けるということ。だから先制攻撃ができるんだ。


『気配は近い』

「でも、見つからない……!」


 焦っちゃだめだ。

 迷宮で叫ぶなんて、魔物を呼び寄せる大黒星。

 つまり初心者パーティーか、最悪の場合は迷い込んだ薬草専門の冒険者。

 見つからないってことは、たぶん、走って逃げてる。


『そろそろだ、アンデッドの気配がする』


 ソラーナの言葉にぐっと顎を引く。壁を蹴るように角を曲がった。

 まさにギリギリだった。


 魔物はスケルトン。


 人骨の虚ろな眼窩に青白い炎を宿した、不死の戦士だ。

 数は5体。ガイコツ達は錆び付いた剣を振り上げて、誰かを追いかけている。ダンジョンで悲鳴をあげながら逃げるなんて、居場所を教えているようなものだ。


「間に合えっ!」


 踏み込み、前へ。

 体当たりを受けたスケルトンがバラバラになって吹き飛んだ。

 残りは4体。いや、スケルトンはあれくらいじゃ復活するから、まだ5体か。


『リオン! スキルには制限時間があるよ』


 『黄金の炎』の制限時間は、3分間。起こし屋の時間感覚では、あと1分と少しで切れてしまう。

 スケルトンはゆらゆらと揺れながら僕を囲う。

 待っている時間はない。一番手近なガイコツに肉薄し、力のままに短剣を振った。

 構えた盾を吹き飛ばす。

 がら空きになった胴体を穿つと一体がばらばらになった。


「すごい……!」


 スケルトンが間合いを広くとった。

 油断はできない。人間と同じように、彼らは技を使う。だからゴブリン達よりも強敵なんだ。

 視界の隅で、最初に吹っ飛ばしたガイコツが再生を始めていた。


「させないっ」


 飛びかかり、胸骨を踏み砕く。スケルトンの急所は胴体だ。ここががなくなると手足を結びつけることができなくなり、自壊する。


「逃げていた人は?」

『大丈夫。奥に下がるのが見えた』


 ソラーナが言うとおり、悲鳴も止まっていた。


『2人連れだった。片方がパニックになって、逃げるしかなくなったのかもしれない』


 言い合ううちに、2体のスケルトンが盾を捨てた。

 剣を持った右手を頭蓋骨の高さに掲げ、切っ先は下向き。

 父さんが残した書置きに同じ構えがあった。


「カウンター狙い……!」


 やっぱり、スケルトンは強い。<剣士>のスキルを持った人みたいに、技術を使ってくる。

 にらみ合った。

 速度はこっちが圧倒しているけど、剣のリーチは向こうが上。それが2体も相手だと、攻められない。

 仲間がいないソロって、できることが限られるから相性差に弱いんだ。

 じりりと下がると、2体の隙間から3体目が切りかかってくる。


「っ!」


 短剣で受け、鍔にひっかけてはじき返す。体勢を崩した胸へ、僕は刺突を繰り出した。

 あとはカウンターを狙う、最後の2体だ。


「よし……! って、あれ?」


 体から光が失せた。

 身体能力向上スキルが、時間切れ?

 さあっと血の気が引いた。


「わ、わわ!」


 2体のスケルトンが続けざまに襲いかかった。

 回避、回避、とにかく回避!

 ダンジョンに潜って、鍛錬を欠かしたことはない。でもスケルトン2体からの連撃はかわすのが精一杯だった。


『リオン、わたしを封印解除してくれっ』


 『黄金の炎』をかけなおす隙、あるいはソラーナを封印解除する隙。

 隙――ど、どこだっ?


「くっ」


 油断していた。そんなつもりなかったけど、普段ならスケルトンの群れに一人で突っ込むなんて絶対にしなかっただろう。

 追い詰められているのを感じる。

 スケルトンの顎が、カタカタと笑っているように動いていた。

 その時、スケルトンの頭に何かがぶつかった。


「こっちだ、ガイコツ!」


 鋭い声と共に投げつけられたのは、石だった。逃げていた人が、自分でガイコツ達の注意を引いてくれた。


『リオン!』

「うん」


 ソラーナを呼び出そうとしたけど、なにかに体を引っぱられた。

 投げつけられた石が、輝いてみえる。

 青水晶の短剣を封印解除した時と同じように、胸に熱を感じた。

 あとは直感だ。


「目覚まし!」


 『石』よ、目を覚ませ!



 ――――


 <スキル:目覚まし>を使用しました。


 『封印解除』を実行します。


 ――――



 突風。

 ガイコツ達の足元で風が爆ぜた。骨の魔物はバラバラになり、天井付近まで打ち上げられる。落ちてきた骨がまばたきする間に黒い灰へと散っていった。

 まるで、魔法。僕の生活魔法とは隔絶した、本物の魔法だ。

 呆然と天井から視線を戻すと、緑色の光が浮いていた。大きさは卵くらい。恐る恐る左手を伸ばすと、ちょんと手の甲に載ってくる。


『精霊だな』


 ソラーナが金貨から言う。封印解除されなかったせいか、ちょっとむくれてる気がした。


『あの石に精霊が眠っていたのだろう。ダンジョンと一緒に封印されていたのだね』


 精霊はわん!と吠えると、僕の短剣へ飛び込んできた。青水晶の短剣、そのクリスタル部分がゆっくりと光を発し、やがて元に戻る。

 青いクリスタルをなぞると封印解除できそうな――古代の気配を感じた。


『ふむ。起こしてくれたお礼に、そこに宿ったみたいだね』

「そこって」

『君の短剣だ。そのクリスタルは単なる飾りじゃない、精霊に力を貸してもらうために用意された、精霊用の家なんだ』


 投げつけられた石も、いつの間にか透明なクリスタルになっていた。長い年月で風化していたけれど、もともとは水晶だったのかもしれない。

 突風が起こした破壊に、僕は呆然とした。


『今だと精霊は珍しいのか? 神々がいた時代にはどこにでもおったが』

「……すごく珍しいです。ダンジョンで発掘されるクリスタルに稀に精霊が入っていることがあって、そういう精霊石は高値で……」


 はっとして僕は辺りを見回した。このエリアに、同じように封印解除できそうな石がたくさん転がっている。

 見かけはただの石ころだ。

 でも試しに一つ手に取って、『封印解除』してみると、翡翠色に輝いた。


「……ただの石が、精霊石になった……?」

『目覚ましが、クリスタルと、内側の精霊、二つを目覚めさせたのだろう』


 ソラーナは言った。

 新しく目覚めた精霊石にも、精霊が入っているようだ。内側から緑にきらめいて、傾けると光が揺らぐ。


『リオン、ここは古代、精霊を休めませておく場だったのかもしれない。クリスタルが長い年月で石へと風化しているだけで』


 ……あ、あれ?

 毎日ここにくれば、借金返せない!?


「それに……」


 僕は青水晶の短剣を、そっとなぞった。

 薄々気づいてはいたけれど、スキル<目覚まし>による封印解除は魔力を消費しない。本当に起こすだけ。なのに精霊の攻撃は、生活魔法とは別格の攻撃魔法。


 同じように精霊を起こして、仲間にしていけば、他の魔法もどんどん魔力消費なしで――。

 いや、それをいったらすでに、ソラーナという神様も魔力消費なしで金貨の外へ出せている。


「封印解除って……力を貸してくれる存在さえいれば……」


 果ては、無限。

 ぞくりとしてしまう。

 後ろから声がして現実に引き戻された。


「すごいです、あれだけのスケルトンを!」


 岩陰からひょっこりと女の子が顔を出している。僕は本来の目的を思い出した。


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