1-11:連戦、そして成長
角から現れたのは、子供みたいな背丈に、緑色の肌。
左右に飛び出た耳が角みたいで、小悪魔って呼び方がちょうどいい。
『ゴブリンか!』
ソラーナが金貨の中から言った。
必ず3匹以上で現れる魔物で、たまにベテランでも足元をすくわれる。
『こやつらも、この時代にまで封印されていたのだなっ』
相手は、槍が2体と剣が1体。
先に気づいたのはこっちだった。
一気に前へと、踏み込む。
槍が振り下ろされるけど、懐へ入れば怖くない。槍一体を切り倒して、勢いのまま次の槍持ちへ向かう。二撃目をかわして、すれ違いざまに胴をないだ。
最後に残ったのは、剣のゴブリンだった。
僕がソロだから、きっと楽勝だと思ったのだろう。想定外の事態に怒ったようで、僕に突っ込んできた。
心臓はもう慌てない。
剣筋を見切り、すれ違いざまに首をなでる。
崩れた相手は振り返るときにはもう灰になっていた。
『……強くなったな、リオン。たった数日だが、見違えるようだ』
懐に収めた金貨から、ソラーナがそう褒めてくれる。
「加護をもらってから、能力があがってる。それに、レベルもあがっているし。だから、ソラーナのおかげだよ」
『む……こればかりは君の力だ。基礎を学んであるから、加護を使いこなせる』
「そう、かな」
『継続が力になっている。リオン、努力は誇るべきだ』
スキルには、常に保持者の能力をあげるものがある。というより、大体の戦闘スキルがそう。
スキル<剣士>のレベル5と、スキル<鑑定士>のレベル5だと、剣士の方が圧倒的に強い。同じレベルでもスキルによる恩恵で戦力に大きな違いが出る。
ソラーナがくれた<太陽の加護>は、まさにこの戦闘系のスキルだ。
僕はステータスを確認する。
――――
リオン 14歳 男
レベル5
スキル <目覚まし>
『起床』 ……眠っている人をすっきりと目覚めさせる。
『封印解除』……いかなる眠りも解除する。
スキル <太陽の加護>
『白い炎』 ……回復。太陽の加護は呪いも祓う。
『黄金の炎』……身体能力の向上。時間限定で、さらなる効果。
――――
レベルは4から、5に上がっている。
今の目標は、自由。
標的はギデオンからの借金だ。ダンジョンに潜って稼げるようになれば、貯金のスピードは向上する。
それに、家族を、妹を守れるような、強い冒険者に早くなりたいんだ。
『リオン、次が来たようだよ』
見慣れた犬面の悪鬼、コボルト。
ただし今回は――
「よ、4体っ?」
ゴブリンよりも強い魔物が、いきなり4体も出てくるなんて。
頭に叩き込んだ東ダンジョンの情報を思い出す。
コボルトの集団はもう一つ下の階層からだ。
「東ダンジョン……なんか、難易度が上がってる?」
先頭の一頭が吠え立てた。
「ガアッ!」
僕には神様がついている。
――――
<スキル:太陽の加護>を使用します。
『黄金の炎』……時間限定で身体能力を向上。
――――
体を輝くオーラが包んだ。
制限時間は、測ったところきっかり3分。起こし屋の時間感覚だから間違いない。使用回数は、1日で4回が限度だろう。
短剣の鍔でコボルトの攻撃を受ける。
だけど軽く止めたつもりが、弾くようになった。僕の膂力は2倍、3倍にもなっているかもしれない。
尻餅をついた相手を踏みつけると、ドン!と胸の辺りがへこむ。ぱらぱらと埃が天井から落ちてきた。
恐いくらい能力が上がってる。
これじゃ蹂躙だ。
せめて一撃で終わらせよう。
残りの3匹は一斉に襲ってくる。
でも動きはゆっくりに見えた。恐れず、動じず、ぎりぎりまで引き付けてから、青水晶の短剣を振りぬいた。
もし遠くから誰かが見ていたら、僕とすれ違ったコボルトが勝手に倒れたように見えただろう。
「……ふぅ」
コボルト達が灰になっていく。
卵くらいの魔石が残ったので、腰のポーチに入れて回収した。
……この魔石で、起こし屋50件分、薬草半日分くらいで悲しくなります。
『このダンジョンについて少し思い出したよ』
3分が経過し、身体能力向上が切れた。
慎重に元の順路へ戻ると、ソラーナが呟く。
『この迷宮は、確かに神々がまだいた頃に作られたものだ』
ポケットの金貨から小さなソラーナが飛び出してきて、きょろきょろと辺りを見回す。
あ、戻った。
「……本当に、神話時代の遺物なんだね」
『うん。当時は避難所、シェルターのようなものだった。劣勢の時、地上は魔物が多かったんだ』
サビ塗れの武器も、当時の貯蔵武具だったのかな。
「じゃ、これも――? 神話時代の、武具……」
青水晶の短剣が、応じるようにクリスタルをきらりとさせた。
『おそらくね。他の神々が眠っているというなら、こうしたダンジョンの最奥にこそいるかもしれない』
僕はごくりと喉を鳴らした。
『ふふ。君の家が、神々の家になる日も近いかもなっ?』
「そ、そんなことになったら母さんがぶっ倒れちゃうよ……」
それと、とソラーナは金貨の中から付け足した。
『なぁリオン。この闇の気配はなんだ? 初心者向けダンジョンと聞いたが、いつもこんな魔物が出るのか?』
その時、遠くからうなり声が聞こえた気がした。戦闘が終わって、まだ人も少ない迷宮は静かだ。
だから耳を澄ませると、ときどき遠くの魔物の声が聞こえる。
風のように微かで、でも地獄の底から聞こえてくるような、暗くて低い、怨嗟の声。
寒気が全身をはい回った。
コボルト、ゴブリン、ワーグ、そのどれとも違う。
生気をまったく感じない、未知の何かだ。
『……これは、死者。アンデッドの気配だぞ』
びくりとした。
「へ。ま、まさか! このダンジョンに、そんな強い魔物いないよっ」
うなり声の先から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
『リオン』
「……う、うん!」
僕はほっぺたを叩いた。
「父さんなら、きっと見捨てないよね……!」
再度、『黄金の炎』を発動した。





