1-10:小休止
借金返済のお金稼ぎは、僕とソラーナの間で『修行』と呼び合うようになった。
ダンジョンの戦闘層に潜るようになってから、3日目の朝。
どんどん効率があがってきていた。
ソラーナは、基礎がしっかりしているからだと誉めてくれる。
毎日の短剣修練や、父さんの書置きを活かした復習、そんな積み重ねを認めてもらえたようで、うれしい。でも体幹っていわれると、起こし屋で脚を鍛えたのが一番きいてる気がする……。
「ガァ!」
今、相対するのは、一体のコボルト。
目は血走り、だらりと下げた腕には短剣。低い唸り声は、気を抜くと震えてしまいそうだ。
魔物とは対話も和解も不可能なんだって容赦なく分からせられる。
もう倒せる相手のはずなのに、息が乱れた。
「ふぅ……」
深呼吸する。
他の冒険者はどうかわからないけど、魔物の恐ろしさはいつも肌で感じる。『いつかダンジョンから出てくるんじゃないか』――そんな恐怖だ。
たまに思ってしまう。
どうして神様は魔物を残したんだろう? 封印するだけ? すべて倒すわけにはいかなかったの?
『素材のため』、『戦う術を忘れないため』、神話にはいろいろな説があるけど、僕は実はどれもしっくりきていない。
ルゥが体調を崩したのは魔物のせい?
父さんだって、魔物との戦いで――
『リオン』
金貨からソラーナの声がした。僕は注意をコボルトへ戻す。
相手はまだ切りかかってこない。僕は短剣を腰の高さで構えたまま、目線でけん制した。
「グゥゥ……」
低く唸る相手を、見つめ返す。
「来いっ」
相手がぴくりと動いた。
その一瞬前に、こっちは動作に移っている。
先の先だ。
懐に飛び込み、相手の攻撃範囲をすぐさま突破。
青水晶の短剣で喉を穿つ。
コボルトは灰と魔石になって崩れた。
「勝てた……」
今日、何体目のコボルトだっけ。
来たときは息が白くなるほどだったのに、今は汗で暑かった。
そろそろ、一息入れよう。
「休憩します」
『わたしもそう言うところだった』
比較的安全な階段付近まで戻ってくる。地べたに腰を下ろして稼いだ魔石をカウントした。
今日の成果はワーグが1匹とコボルトが4体、それからスライムを何匹か。
頬を触るとぴりっと痛い。血が出てる。
「……飛ばしすぎたかな」
初日は、一体と闘ったら休み、また闘って休み、を繰り返した。
でも、予想外なことが一つ。
コボルト魔石の買取値が思ったよりも低かったから、返済のために修行の効率をあげないといけなかった。いつもよりほんの少し低いだけだったけど、なにか引っ掛かる。
ダンジョンは他にもあるから、魔石の値崩れって確かに起こるんだ。
だから今日から安全地帯に戻らず、ダンジョンを一周して戻るやり方に変えた。
――――
<スキル:太陽の加護>を使用します。
『白い炎』……回復。太陽の加護で呪いも祓う。
――――
能力『白い炎』が全身を包んだ。緊張がほどけ、疲労が抜けていく。回復ポーションの節約にもなるし、魔力を使うトレーニングにもなった。
きら、と視界の端が光る。ソラーナが金貨から飛び出してきたんだ。
「け、ケガをしたのかい?」
手のひらサイズの神様は、僕の肩口でわたわたする。
僕は水筒に蓋をしながら苦笑いした。
「ちょっとだけ」
『白い炎』で傷はすぐ治る。
ソラーナは安堵したみたいで、妖精のような姿をすぐに金貨へ戻した。
『む、むぅ。いっそ常に外へ出られたら、君をしっかり守ってやれるのだが』
「はは……」
気遣いがうれしい。
ふと、僕は考えてしまった。
たとえば魔物が現れた時、神様を封印解除して魔物を倒してもらう。
ソラーナは僕の考えたことがわかったみたいだ。
『もちろん可能だ。そうしようか?』
「うん……」
勢い込むソラーナだけど、僕は生返事を返してしまった。
漠然と、それは違うと思う。借り物の強さでも、いつか本物にしたいと思うから。
「まずは、僕が強くなります」
そう応えてから、僕の方からも尋ねた。
だいぶ呼吸は整ってきたけれど、まだ休んでおきたい。
「その、封印ってどんな感じ……なの?」
あ、危ない。また堅い口調になるところだった。
ソラーナ『さん』とか呼びかけてしまうことがあるんだけど、そのたびにむっとされる。
『ふむ、そうだな。君たちでいうと――高い山に登った感じ、だろうか? 高い山に登った時、肌寒く、空気が薄いということはわかるかな』
高い山に登った経験はないけれど、同じような話は聞いたことがある。
『同じだ。だんだん寒くて、苦しくなってくる。いるべきでない場所にいるような気分だ。小さな姿で外へ出ると、限界を少しは先延ばしにできるが、限界があることは変わらない』
「なるほど……」
『しかし、強力な封印なのはわかるが……目覚めた神まで影響を受けるほどとはな』
ソラーナが思い出せた記憶は、まだ少ない。
世界を覆う封印についても、わからない点が多いみたいだ。当時の魔物や、それらを率いていた存在とかにも、細部にはもやがかかったままだ。
――神が魔物と戦い、ダンジョンへと封じた、大封印時代。
そんな大筋は一緒なのだけど。
『ダンジョンにいると、何か思い出せそうな、そんな気がするんだが』
でも、封印か。
僕の能力『封印解除』には同じ文字がある。
他に封印がかかわるスキルといえば、主神オーディス様に仕える神官とか、王族とか、とにかく雲の上の人くらいしか思い浮かばない。
ギルドの人にそれとなく聞いてみたのだけど、結果は同じだった。
ぽつりとこぼしてしまう。
「……能力のこと、あんまり人に言わない方が、いいよね」
でもそうなると、ますますルゥや母さんに僕のスキルを明かせない……。
階段が騒がしくなる。朝一番も過ぎたから、東ダンジョンの冒険者が下りてくるのだろう。
「そろそろ、行くよ」
『わかった』
ダンジョンを進んでほどなく、次の魔物の冷気が僕をとらえる。
今度は、複数だ。
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