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婚約者が入学式の代表挨拶でやらかしました

作者: たなか

「……歴史ある本学園の生徒であるという自覚を欠かさず、一つ一つの行動に責任を持ち、自立した学園生活を送るよう心がけて下さい」


 はあ……安心しました。婚約者のアラン第一王子殿下が新入生歓迎挨拶をなさると聞いてヒヤヒヤしていましたが、私の心配しすぎだったようです。さすが、未来の王太子というべき見事なスピーチでした。


「ところで、私事で恐縮ですが……」


 ……幻聴でしょうか。新入生歓迎挨拶に私事なんて必要ありませんよ! 何だか嫌な予感がして途端に胃が重たくなりました……


「皆様ご存知の通り、私、アラン第一王子の婚約者であるイザベラ公爵令嬢も本日からこの学園の生徒となります。そして、至極当然ですが、私は心の底から彼女を愛しています!」


 水を打ったように静まり返る講堂。一方で張り裂けるほどに高鳴る私の鼓動。アラン様は一体何を仰っているのですか?


「水が高い所から低い所へ流れるのと同じくらい当り前のことです。彼女ほどの美貌、知性、優しさを兼ね備えた完璧な女性を前にして、夢中にならない男など存在するわけがないのですから! だからこそ、私は彼女のこれからの学園生活が心配で不安で堪らないのです!」


 そういえば、確かに入学前に何度も公爵家に説得のために訪れていましたね。学園にも直訴のため乗り込んだという噂を聞きました。せめて後者はデマであってほしいと願っていたのですが、おそらくそうではなかったのでしょう。


「私は彼女が学園に通わずにすむよう、既に自らの王太子教育に加え、彼女が身に付けなければならない王太子妃教育まで修了し、専属の家庭教師になるための準備を終えていました」


「……しかし思慮深い彼女は言うのです。『学園で教養を身に付けるだけが大事なのではありません。同級生たちと友情を育み、見識を広げることも、また将来国を導いていくために必要な経験なのです』と」


「私は彼女の含蓄のある言葉に感銘を受け、渋々入学を認めざるを得ませんでした。勿論、学園生活を送っている間は常に彼女に複数人の護衛を付けるつもりですし、出来得る限り私自身が彼女をエスコートします」


「……ですが、何より大前提として、皆様には彼女に極力近づかないようにしていただきたいのです! 何か用件があるのならば、私を通してください! 特に男子生徒の諸君! もし命が惜しいのであれば、軽率な行動はくれぐれも慎むように! 生徒だけではなく、先生方にも失礼ながらご忠告差し上げます!!」


 まるで色見本のように真っ赤に染まった顔を手で覆い、意識を失いそうになるのを何とか堪えました。


 それから更に数十分以上、王子の演説は続きました。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アラン様の挨拶が長引いたせいで、一旦休憩が挟まれることになりました。私はすっかり燃え尽きて灰のようになってしまっていたのですが……


「アラン王子の噂は聞いておりましたが、まさかあれほどまでとは……イザベラ様もさぞご苦労なさっておられるのではないですか? もしよければ僕が美味しい紅茶でもご馳走しながら愚痴でもお聞きいたしましょうか?」


「……てっきり耳元で羽虫でも飛び回っているのかと思ったら、あなたが話しかけていたのですか」


「えっ……」


 目を丸くして、呆気にとられたような間抜け面をする不調法者。


「あなたのような下劣な人間が殿下の御名前を口にすること自体、王族への侮辱と心得なさい。どうして私がアラン様と過ごす貴重な時間をどぶに捨てて、全く興味も関心もないうえに、あの方の1億分の1の魅力すら持ち合わせていないあなたとのお茶会に足を運ばなければならないのですか?」


 出来るだけ我慢しようとしましたが、一旦心に火がついてしまったら止めようがありませんでした。


「たとえあなたが生涯働いて貯めた全財産を捧げられたとしても、アラン様から頂くたった一言の褒め言葉に及びもしません。これから二度と話しかけないでいただくのは当然として、本来殿下のことを考え愉悦に浸っているはずだった至福のひとときを私から奪った罪、一体どう償うつもりですか?」


 腰が抜けて尻餅をつき、真っ青な顔をしている男子生徒。そこに慌てた様子のアラン様が駆けつけました。


「イザベラ! どうしたんだい!? まさか、早速愚か者に声を掛けられたんじゃないだろうね?」


「とんでもないですわ。そちらの殿方が躓いて転んでいらっしゃったので、手をお貸ししようかと思っていたのです」


「全く……君の溢れんばかりの思いやりと優しさは素晴らしい美点だけれど、気を付けないと勘違いする輩が出てくるかもしれないよ! それに、今度はイザベラの番だろう?」


「そうでしたわ! それでは行ってまいります!」


 先程の無礼者を問い詰めている凛々しいアラン様の姿を拝めないのは悲しいですが、私には大切な役目があるのです。


「それでは、次に新入生代表挨拶を行います。入学試験の成績最優秀者であるイザベラ・アポリネールさん、壇上へどうぞ」


 すっかりアラン様のスピーチで時間が押してしまっているようですが、そういったミスをケアするのも未来の王太子妃の務めです。今こそ、その力量が試されていると言えるでしょう。ここは、最も重要なことを端的に分かりやすくまとめてお話するべきですね。


「お集まりの皆様、ごきげんよう。新入生代表のイザベラ・アポリネールと申します。まず、最初にこの場にいらっしゃる女子生徒、及び女性教職員の方々に謹んでお願いしたいことがございます……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 破れ鍋に綴じ蓋w
[良い点] 「私は彼女が学園に通わずにすむよう、既に自らの王太子教育に加え、彼女が身に付けなければならない王太子妃教育まで修了し、専属の家庭教師になるための準備を終えていました」 最初彼女本人が教育…
[良い点] 王子の溺愛w [気になる点] この後の展開…まぁ、何となくわかるがw [一言] さぁ、皆さんご一緒に! …お前もかい!w
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