32:闇の妖精
「み?」
いったい何事だと、ロゼッタは声の発信源を探すために視線を動かすと、真上から小動物――黒いうさぎが降ってきた。
そのうさぎはくるくるっと綺麗に回転しながら落下すると、ロゼッタの杖の先端に着地した。
もふもふの長い耳に、真っ黒な毛。背中には星の模様が入っていて、瞳はロゼッタと同じ赤色。
愛らしいその姿に、緊迫したシーンだというのに思わずきゅんとなってしまう。
「なんでこんなところに、うさぎ……?」
『ボクの愛し子がピンチだったから、助けに来たんだ』
「愛し子? って、私……のわけはないか」
悪役令嬢の自分にそんな要素はないと、ロゼッタはすぐに結論づける。
可能性があるとすれば、王太子のルイスリーズか魔王のカインだろう。プリムの光属性の妖精は光竜になって大暴れしているから除外だ。
ロゼッタがそう考えていると、黒うさぎはぽかんとしたのち、音速でツッコんできた。
『いやいやいやいや、君だよ』
「えっ!?」
『ボクは闇の妖精だよ!』
「えええええっ!?」
ロゼッタは大声で驚いた。
だってまさか、光の妖精だけでなく闇の妖精とも会えるなんて思ってもみなかったからだ。自分の属性の妖精に会えたことが、とても嬉しい。
しかし同時に、ロゼッタは身構える。
(妖精って……みんな光の妖精みたいじゃないよね?)
もし闇の妖精もぶっとんだ思考だったら……と、ロゼッタは冷や汗をかく。しかしすぐ、それが杞憂だとわかる。
『光の妖精は、自分本位なんだ。この地の力を自分に取り込んでるから、大地はあまり豊かじゃない。そんなこと、あっちゃいけないのに』
闇の妖精の言葉に、ロゼッタは目を見開く。
――この地は豊かではない。
その言葉には、思うところがあった。
それは、ロゼッタもこの地にきてから見た人々や、川や畑などの状況だ。水の量が少なく、畑も王都近郊のものより実りが少なかった。
単に今年は気候悪いのかなと……そんな風に考えていたが――まさか、そんな原因があったなんて知らなかった。
『だからボクは、彼女を止めたい……力を貸してくれる? ロゼッタ』
「――もちろん!」
赤色のつぶらな瞳に見つめられて、ロゼッタはすぐに頷いた。
というか、そんな事実を教えられてしまったら協力するしかないし、ロゼッタに協力してくれる形でもある。
『闇の妖精ノワールの名において、ロゼッタに闇の祝福を与え契約をする!』
「――っ!」
闇の妖精の黒うさぎ――ノワールが契約の言葉を終えると、ロゼッタの体が一瞬だけ淡く光った。どうやら、無事に契約ができたようだ。
ノワールはニッと笑う。
『ロゼッタ、これで君はボクの力の一部を使うことができるよ。力が溢れているのがわかる?』
「――わかる」
いつもより、自分の中の魔力が熱い。
(こんな感覚は、初めてだ。だけど……今ならなんでもできちゃいそう)
ロゼッタはゆっくり息を吸って、光竜を見る。
「ノワールの闇にかしずく我に、その力を与えたまえ。闇の妖精よ、嘆きの雨を降らせたまえ! 【ダークネスレイン】」
ロゼッタが力強い言葉を発すると、いつもより一回り広い範囲で黒き光が降り注いだ。それは光竜が張ったバリアを貫き、その体にダメージを与える。
『グアアアァァ! なっ、人間ごときが! ノワールの力を得たくらいでなぜ……っ!!』
「それは、私がノワールの力を得て魔法を増幅したから!」
ロゼッタはノワールと契約することにより、自身の魔法の強化ができるようになった。呪文の前に、ノワールに誓う言葉を付け加えるというものだ。
それだけで、闇魔法の威力は数倍にも跳ね上がる。
「よくも私の大切な仲間を操ってくれたな! もういっちょ【ダークネスレイン】!!」
ロゼッタの渾身の一撃に寄り、光竜は倒れた。





