21:異変
――真夜中。
ロゼッタはふいに嫌な気配を感じて、目が覚めた。気分は寝る前とそんなに変わらないが、悪寒かもしれない。
今の時間、見張りはルイスリーズとリュートだろうか。
パチッと火が飛ぶ小さな音が耳に入り、静かで平和な夜を過ごせていることにロゼッタは感謝する。
嫌な気配は、どうやら勘違いだったようだ。
(プリムはちゃんと寝てるかな?)
今日、一番大変だったのはプリムのはずだ。
レベルも一番低く、森の獣道にだってなれていない。こっそり靴擦れで血だらけになった足を魔法で治していたことを、ロゼッタは知っている。
(本当、ヒロインいい子すぎ――っ!?)
ぞくんと、嫌な汗がどっと体中にあふれた。
先ほど感じた嫌な気配なのだが、ロゼッタはそれを結論づけたくなかった。体調不良からきた何かだろうと、そう思えたらどんなに楽だったか。
ロゼッタは寝返りを打つ振りをして、体の位置を少しずらして薄目でプリムを見る。なんと、プリムがロゼッタのことを――睨んでいたのだ。
***
「見張り交代の時間だぞ。ロゼッタ、プリム、準備はどうだ?」
ロゼッタはルイスリーズの声を聞き、がばっと体を起こした。自分はついさっきまで、プリムに睨まれながらハンモックで寝たふりをしていたはずなんだが……。
(もしかして、具合が悪くて寝落ちしたとか?)
なんとも緊張感がなかったと、ロゼッタは額に手をついてため息をつく。
(って、プリムは……?)
ロゼッタがおそるおそるハンモックから顔を出すと、プリムは「交代ですね!」と元気に返事をしていた。
「ロゼッタ様はよく眠れましたか? 私は熟睡しちゃって、体が痛いです」
やはり時代は硬い地面よりハンモックですねと、プリムがハンモック信者になっている。つい先ほどの、睨みつけるような様子はない。
(あれえぇ?)
本当に夢だったのかもしれないと、ロゼッタは考えるが――今はそれより野宿の交代が先だ。
ロゼッタとプリムはのんびり焚火の前に座り、温かい飲み物をいただきつつ周囲を警戒した。
***
朝日が昇ったら、冒険開始の時間だ。
「ふあぁぁ、眠いねぇ。プリム、大丈夫――っ!」
ロゼッタがプリムに声をかけると、真夜中に見たときと同じ表情でこちらを睨んでいた。ドキリとして、一瞬で嫌な汗が噴き出す。
やはりあれは夢ではなかったのか――と。
続いて、ルイスリーズたちも欠伸をしながらテントから出てきた、
「あ、ルイ! カイン! ラインハルト様にリュート様! おはようござ――」
います。そう言いたかったのだけれど、ロゼッタの言葉は最後まで続かなかった。ルイスリーズたちも、ロゼッタのことを冷たい目で見ていたからだ。
ドッドッドッと、心臓が嫌な音を立てる。うるさく頭の中で鳴り響いていて、何かおかしいとロゼッタは警戒する。
一体五人に何が起きたというのか。
別に幻覚を見せるような魔物も、そういった類のものはなかった。あったとしたら、おそらくここは遠征地に選ばれてすらいないだろう。
「えっとえっと――朝ごはんにしようか?」
「……そうだね」
ロゼッタの言葉に返事をしてくれたのは、カインだ。持参していたパンを温め。卵とベーコンを焼いてくれる。
すぐにいい匂いがただよってきたのだが、なぜかロゼッタを睨みつけることを全員止めない。
(な、なんで!? 私が悪役令嬢だから……!?)
こんなギスギスした空気は、とてもじゃないけれど耐えられない。
「わ、私……ちょっとそこまで薪用に木の枝拾ってくる!!」
自分を睨みつけるこの雰囲気が受け入れられなくて、ロゼッタは逃げるように拠点から走り出した。





