5:婚約者との対面
タイトルとあらすじを変更しました~
悪役令嬢ロゼッタ・フローレス、七歳。
忌避されている闇属性というだけではなく、死亡エンドが多すぎる残念な悪役だ。どうにか生き残れるよう頑張っている矢先、なぜか交流のない父親から呼び出されてしまった。
しかも、今日は桃色のウィッグを付けられてしまった。どうやら、ロゼッタの黒髪を隠す必要があるみたいだ。
慣れないウィッグの髪先に触れながら、ロゼッタは廊下を歩いた。
(いったい何かしら?)
ロゼッタがナタリーを連れて父の書斎に行くと、珍しく母のアマリリスも一緒だった。そして、その隣にはロゼッタと同じ年頃の男の子がいた。
初めて見る顔――というか、兄と使用人以外の男性は初めてだ。
(え、本当に何事?)
思わず戸惑ってしまう。
しかしそんな様子は微塵も見せずに、ロゼッタは優雅に礼をする。そう――ロゼッタは、慎ましやかな令嬢を演じているのだ。
「待っていたよ、ロゼッタ。座ってくれ」
「……はい」
グラートとアマリリスの向かいにロゼッタが座り、上座に男の子が座っている。どうやら、かなり尊重されているようだ。
ロゼッタがごくりと唾を飲むと、「そんなに緊張しなくていい」とグラートが微笑む。父親が微笑む姿なんて初めてで、ロゼッタは思わず目を見開く。
「ルイスリーズ殿下、娘のロゼッタです」
「――っ!?」
グラートの言葉に、ひゅっと息を呑む。
それもそのはず、ロゼッタはこの男の子のことを知っていたからだ。膝の上に置いた手をぎゅっと握り、静かに深呼吸を繰り返す。
ルイスリーズ・クレスウェル。
透き通るような金色の髪に、落ち着いた水色の瞳。まだあどけないけれど、整った顔立ちはとても愛くるしい。
この国に、彼の名前を知らない人間はいないだろう。ここ、クレスウェル王国の王太子であり、乙女ゲーム『フェアリーマナ』のメイン攻略キャラクターだ。
そして――悪役令嬢ロゼッタの、婚約者だ。
どくんと、心臓が嫌な音を立てる。
(機嫌のよさそうな父に、新しくなった私の部屋……そして、ゲームキャラのルイスリーズ)
ここから導き出される答えは、一つだ。
(私とルイスリーズの婚約が決まった……!)
でなければ、闇属性である自分と王太子を引き合わせるはずがない。いったいどうやって婚約まで結び付けたかはわからないが、おそらく決定事項なのだろう。
「この度、ルイスリーズ殿下とロゼッタの婚約が結ばれたんだ。さあ、ご挨拶を」
(やっぱり……!)
グラートが言うと、ルイスリーズが微笑んだ。
その表情に、思わずロゼッタがノックダウンさせられそうになるところだった。いや、だってもう、めちゃくちゃに可愛いのだ。
さすがはメインキャラの幼少期、といったところだろうか。
(あ、どうしよう動悸が……)
つい先ほどまでは混乱していたけれど、大好きなゲームキャラクターが目の前に。段々と、落ち着いていられなくなってくる。
ロゼッタが黙っていると、先にルイスリーズが口を開いた。
「初めまして。ルイスリーズ・クレスウェルです」
「あ……っ、私、わたくしは、ロゼッタ・フローレスです。お会いできて光栄です、ルイスリーズ殿下」
日頃の勉強の成果もあり、どうにかスムーズに挨拶を行うことができた。そのことに、ほっと胸を撫でおろす。
乙女ゲーム『フェアリーマナ』の開始は、ヒロインが16歳――学園に入学したところから始まる。
エンディングは、ハッピーエンドルート、バッドエンディングルート、友情エンディングルートの三つのどれかに辿り着く。
なんとこの乙女ゲーム、すべてにおいて――悪役令嬢が死亡する。
ハッピーエンドは修道院に入れられ、病気で死亡。
バッドエンドは死刑。
友情エンドは国外追放された先で事故死。
ちなみにこれらは、すべてエンドロールに載っていた情報。さらに、ヒロインの行動次第では早い段階で死んでしまうこともあるのだ。
攻略対象者は、王太子、騎士団長、宮廷魔術師、勇者の四人。
悪役令嬢ロゼッタは、王太子ルートに進むとライバルとして立ちはだかってくるのだが……なぜかほかのルートだと闇属性であることを理由に処刑されたりしてしまう。
(でも、王太子の婚約者を処刑なんてできないでしょう……)
と、思いたい。
そもそも、どうして闇属性の自分がルイスリーズの婚約者になれたのかという謎もある。まあ、ゲームのシナリオ上どうしても必要だっただけかもしれないけれど。
(とりあえず、険悪な関係にはならないように気をつけなくちゃ)
仲良くなっておけば、何かあった際に助けてもらうことができるかもしれない。なんとも邪な考えだらけだが、死にやすいので許してほしい。
「よろしくお願いいたします、ルイスリーズ殿下」
「あ……うん」
ロゼッタは、とびきりの笑顔を見せると、ルイスリーズが少し戸惑う仕草をした。おそらく、自分が闇属性であるということを聞いているのだろう。
それでもウィッグを付けているのは、多少雰囲気を柔らかくするため……か。
ゲーマー人生を送ってきたロゼッタとしては、闇属性なんて強そうでいいじゃんという感想しか浮かばないけれど。
なかなか会話の続かないロゼッタとルイスリーズを見て、グラートが焦ったように「本日は顔合わせですからね……これくらいにしましょうか」と手を叩く。
「ありがとうございます、公爵」
「こちらこそ、ご足労いただきありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします」
「……はい」
こうして、婚約者と初めての対面が終わった。





