12:ヒロインとの出会い
入学式から翌日、ロゼッタは教室でフリーズしていた。
それはもう、カチンコチンに。
「初めまして! プリムといいます。その……実技試験、とってもすごくて、驚きました」
「……あ、ありがとう!」
天使のように可愛らしいにこにこの笑顔をロゼッタに向けているのは、プリム。この乙女ゲーム『フェアリーマナ』のヒロイン。
ロゼッタが画面越しに何度も見た顔で、ヒロインとしてプレイしていたキャラクターだ。
なんとかお礼の言葉を絞り出したロゼッタだったが、脳内はパニック状態だ。
(うわああぁぁぁ、ヒロインだああぁぁ!?)
だってまさか、ヒロイン自ら話しかけてくれるなんて思ってもみなかった。いったいどうして自分に絡んできたのだろうか。
(というか、攻略対象キャラクターに声かけしなくていいの!?)
順番が違うだろうと、盛大にツッコミなってしまう。ちらりとルイに視線を送ると、カインと今後の打ち合わせなんぞをしている。
ラインハルトとリュートも、ほかの生徒数人と交流しているようだ。
(ちょっと自分の役目をしっかり果たしてよ!!)
うっかり心の中でそんな悪態をついてしまったのを許してほしい。
ロゼッタとしては、どうしてもヒロインとは関わり合いになりたくなかったのだ。だって、このヒロインのせいで死んでしまうのだから……。
涙目になりたいのをこらえていると、プリムはもじもじしながらロゼッタのことを見てきた。
「よかったら……お友達になってくれませんか?」
――ひゅっ。
一瞬呼吸が止まって死ぬかと思った。やはりヒロインと関わるのは危険だと、ロゼッタは汗をかく。
しかししかし、ここで断ってしまったら……おそらくそれも死亡フラグだろう。「よくもプリムの誘いを断ったな!」と言って殺されてしまうに違いない(被害妄想)。
「ハイヨロコンデー」
思わず棒読みになってしまったのは、どうか許してほしい。
「わあっ、ありがとうございます!」
プリムは友達になれたことが嬉しいようで、にこにこだ。
(私は悪役令嬢だから、プリムから絡んでくることはないと思っていたのに……)
というか――平民なのに光属性で、自分の王太子とどんどん仲良くなっていくプリムを、悪役令嬢ロゼッタがいじめるというのが本来のストーリーのはずだ。
しかしロゼッタは、プリムのことをいじめてはいない。なぜなら、いじめをしたらその分だけ死亡フラグが立ちかねないからだ。
(絶対にいじめない、絶対だ!!)
ロゼッタの決意は――固い。
***
プリムとお友達になってから数日、ロゼッタの学園生活は比較的穏やかに過ぎていった。
闇属性だからと変に絡んでくる人もいないし、過剰にごまをすってくるような輩もいない。
何より――ヒロインのプリムが素直で良い子だったのだ。
授業が終わり、ロゼッタが教科書をしまっているとプリムがやってきた。その手には、お弁当を持っている。
「ロゼッタ様、お昼をご一緒してもいいですか?」
「うん。食堂でいい?」
「はいっ!」
プリムと友達になった日から、一緒にお弁当を食べるのが日課になっていた。
メンバーは、ロゼッタとプリムに加え、ルイスリーズ、カイン、ラインハルト、リュートの六人だ。
食堂でみんな一緒に昼食を取っているので、とても目立つ。なんせ王太子を始め、公爵家の令嬢や将来の宮廷魔術師や騎士団長たちだ。
注目されないわけがない。
「いつもながら、注目がすごいね……」
カインが視線にやれやれとため息をつきつつランチを食べていると、「そうですよね」とプリムが言う。
「私なんかが混ざっていいのかなって……不安になっちゃうんですよね」
勢いでロゼッタと友達になったプリムだったが、昼食のときはいつもそわそわしていたようだ。自分のせいで、ロゼッタに恥ずかしい思いをさせたくないと、そう思っているのだろう。
「プリムは珍しい光属性ですし、気にしすぎ。もしかしたら、ここのメンバーよりも注目されているかもしれませんよ?」
「私を持ち上げすぎです、カイン様」
カインの言葉に、プリムがくすりと笑う。
すると、そこにロゼッタが入ってきた。
「そうだよ、プリムは光属性だし……とってもすごいよ! だから胸を張ってこの学園にいていいんだよ!」
「ロゼッタ様……」
公爵家の令嬢であるロゼッタが自分のことをそんな風に思っているなんて――と、プリムは感動する。
ロゼッタはプリムが想像以上にいい子だったので、最近ではこのまま仲良くしていれば死亡フラグは回避できるのでは? とも思っていた。
もしかしたら、ゲームの悪役令嬢ロゼッタが死んでしまったのは人間関係の破綻だったのかもしれない……。
(これなら、なんとかうまく乗り切れそう)
そう思い、ロゼッタは安堵の息をはいた。





