8:実技試験3
鍛錬場が先ほどよりもさらにしんとなり、まるで時が止まってしまったかのようだ。
誰も言葉を発することができずに、ただただ穴の開いた壁を見つめることしかできないでいる。生徒はもちろん、教師でさえも。
最初に動いたのは、ルイスリーズだ。
「ロゼッタ、実技試験お疲れ様」
「あ、ルイ――様!」
ロゼッタをエスコートするように手を取り、教師の方を向く。すると、教師はハッとしてしどろもどろになりながら試験の結果を告げた。
「ええと、そうですね……その、ええ、大変すばらしい魔法だと思います。闇魔法であることが残念で――っ、ロゼッタさんは合格です」
余計なことを言おうとした教師にルイスリーズが冷たい瞳を向けると、ひゅっと息を呑んですぐにロゼッタの合格を口にした。
ルイスリーズは内心でため息をついて、学園の教師がこれでは国の未来が思いやられるなと考える。早急に、学園内の調査を進めた方がよさそうだ。
「え、何あの魔法……すごい威力!!」
「上級魔法じゃないのか?」
「でも、【ダークアロー】って初級魔法……? いや、闇属性だと何か違うのかもしれない!!」
ルイスリーズがロゼッタの下へ来たということもあり、生徒たちの緊張が解け始め、思い思いのことを口にし始めた。
どうやら闇属性だからといって忌避する人ばかりではないようだ。そのことに、ロゼッタはほっと胸を撫でおろす。
「よかったな、ロゼッタ」
「うん! ありがとう、ルイ様」
ロゼッタは花がほころぶような笑みをルイスリーズに向ける。それにちょっとだけドキリとしたルイスリーズは、「コホン」と咳払いを一つ。
「だけどロゼッタ、あれは……やりすぎだ」
「あ……」
ルイスリーズが指さし方向をひゅおぉ~と、開いてしまった穴から風が吹いている。教師たちは、穴の前で頭を抱えてしまっている。
しかしロゼッタにも言い分はある。
守りの魔法があるから遠慮なくやれと言ったのは教師だし、そもそも自分は初級魔法の【ダークアロー】だ。
本当はもっと実力を見せたかったのに、一番弱い魔法を使ったのだ。それなのに、どうしてやりすぎと言われなければならないのか。
(……まあ、穴をあけたのは申し訳ないと思うけど)
ロゼッタが無言で口を尖らせていると、ルイスリーズがやれやれと苦笑した。そのままロゼッタの頭にぽん、と手を乗せた。
「でもまあ、さすがはうちの火力だな」
「――! うんっ!」
ルイスリーズの言葉に、ロゼッタは嬉しそうに笑顔を見せた。
***
「うわあぁ、すごい……! あんなに強い魔法は初めて見た!!」
鍛錬場の隅で、ロゼッタの実技試験の様子を見て目をキラキラさせている女子生徒が一人。名前はプリム。何を隠そう――この乙女ゲームのヒロインだ。
「私も回復魔法が得意な方だからちょっと自信あったんだけど……そう思ってたことが恥ずかしい……っ」
顔が熱いと、自分の手でぱたぱた扇ぐ。
これからの学園生活がとても楽しみだと、プリムの心は弾んだ。





