30:婚約者との再会
どうにも顔を合わせづらく、ルイによそよそしい態度をとったままロゼッタは一五歳になってしまった。
しかも、一五歳は社交界デビューの年だ。闇属性だから無関係だと思っていたロゼッタだが、まったくもってそんなことはなかった。
流行のドレスが用意され、デビューするようにと、父――グラートから申し付けられてしまったのだ。
「うぅぅ……ダンスなんて踊れないし、流行の話もできないよぅ」
詩を読むより詠唱したいし、ドレスを着るより耐性の強いローブを着たい。社交のことが、まったくわからない。
しかしグラートは、ロゼッタが家庭教師からしっかり学んでいると思っているのだ。そう、化身が授業を受けていたのだ。
しかも、パートナーは婚約者のルイスリーズ。
ぼっち参加でいいとグラートに言ってみたけれど、即答で却下されてしまった。当然である。
「……壁の花になってればいい、かな?」
それなら踊る必要もないし、話しかけられることもないだろう。
ルイスリーズだって、自分のことは別に好きではない……はずだ。きっと、ダンスだって踊らないだろう。
「ああでも、そっか……私はルイに嫌われてるんだ」
その事実に、ロゼッタは胸が痛んだ気がした。
***
「……お久しぶりです、ロゼッタ嬢」
「お迎えありがとうございます、ルイスリーズ様」
ロゼッタとルイスリーズとして、二人は数年ぶりに再会した。
王城で開催されるパーティーへ向かうため、ルイスリーズが婚約者であるロゼッタのことを迎えにきてくれたのだ。
差しさわりのない挨拶を交わし、馬車へと乗り込んだ。
(空気が重い……)
沈黙しか流れない馬車の中で、ロゼッタはとても苦しい思いをしていた。
今は桃色のウィッグをつけて薄化粧をしているが、うつむいた顔を上げたらきっと自分がロゼリーだとばれてしまうだろう。
ルイスリーズはといえば、無言で窓の外を見ている。整った横顔は、思わず見惚れてしまいそうだ。
(いつものルイと違って、ちょっと大人びた顔してる)
正義感が強く、無邪気な一面もある冒険者のルイ。
大人びた雰囲気で、冷静な判断をする王太子のルイスリーズ。
どちらも彼であることは変わりないけれど、なんだかとても緊張する。
「…………あ」
「ん?」
ロゼッタがふいに視線を自分の手に落とすと、指先にグロスがついてしまっている。どうやら、先ほど唇に触れたときについてしまったようだ。
思わずあげてしまった声に、ルイスリーズも反応した。
「ああ、ついてしまったのか。……これを」
「あ、ありがとうございます」
ロゼッタが困っていると、ルイスリーズがハンカチを貸してくれた。
ピンク色がついてしまうが、ここはありがたく借りるのがいいだろう。指先に付いたグロスをぬぐって、ハンカチを綺麗にたたみ直す。
すると、ハンカチの美しい刺繍が目に入った。
(わあ、すごい)
赤色の薔薇の花と、騎士の紋章が刺繍されていた。とても細やかで華があり、見ているだけで心が落ち着く。
思わず、ロゼッタの口元が緩む。
「いや、その……素敵なハンカチだと思って」
(ルイもこのハンカチがお気に入りなのね! 確かに、これだけ素敵な刺繍はなかなかないと思う!)
ロゼッタは同意するように頷いて、「素敵ですね」とハンカチを返した。
しかし実はこのハンカチ、ロゼッタの化身が刺繍し、花束のお礼としてルイスリーズに贈られたものだったりするのだ。
残念ながら、冒険に夢中だったロゼッタはその事実をちゃんと把握していなかった。
向かいに座るルイスリーズは、頬をひきつらせていた。
これはロゼッタ本人が刺したハンカチだと聞かされていたのに、そうではなかったと気づいてしまったからだ。
信じていた自分が馬鹿みたいだ――と。
しかし、ルイスリーズも手紙やプレゼントを側近に任せたりしてしまったので、文句を言うこともできない。
所詮、自分たちの間柄なんてこんなものなのだ。
「…………」
また馬車の中が沈黙してしまった。
大人しい深窓の令嬢なんて呼ばれているが、会話ができないならお転婆――たとえば、ロゼリーみたいな相手の方がよほどいいと、ルイスリーズは考えてしまう。
最近はあまり会話ができていないけれど、思わず笑ってしまう思い出はたくさんあるのだ。
そういえば、自分が王子だと知ったときのうろたえ方は、すごかった。
「……ふっ」
うっかり、笑い声がもれてしまった。
――ルイスリーズが、笑った。
しかもなんの前触れもなく、突然。そのことにロゼッタは驚いて、思わず顔を上げてルイスリーズのことを見た。
(あ、私が知ってるルイの顔だ)
いつもの顔で笑うルイスリーズに、少しだけロゼッタの緊張がほぐれる。
(ルイスリーズは苦手なんだけど、ルイだと大丈夫なんだよね)
この違いをどうにかできないだろうかと思いながら、ロゼッタはルイスリーズを見る。笑い顔は、一五歳らしくて可愛いところがある。
――が。
うっかりガン見しすぎてしまったようで、ルイスリーズと目が合ってしまった。
「……っ!」
いけない! そう思ってロゼッタはすぐに下を向いて、顔を隠す。
きっとばれていない、大丈夫。自分にそう言い聞かせながら、ちらりと目線だけを動かしてルイスリーズを見たら――すごい顔をしていた。言葉では言い表せない顔だ。
「おい」
(ひえっ)
聞いたことのない、ドスのあるルイスリーズの声が耳に届いた。今、顔を上げたら間違いなく大変なことになるだろう。
聞こえなかったことにして、寝たふりをしてしまうのがいいかもしれない。
しかし、ルイスリーズの両手がロゼッタの頬に触れ、強制的に上を向かせられてしまい……目が、合った。
(終わった……)
そう思ったロゼッタの目の前で、ルイスリーズはふるふると震えている。まさか、自分の婚約者がロゼリーだったとは考えもしなかったはずだ。
顔を赤くして、ルイスリーズが叫んだ。
「とんだ深窓の令嬢だな!?」
ひとまずこれにて一区切りです。
毎日お付き合いありがとうございました!
落ち着いたらもう少し続けたいと思いますので、
引き続きよろしくお願いします~!





