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パーティーメンバーに婚約者の愚痴を言っていたら実は本人だった件  作者: ぷにちゃん
第一章 悪役令嬢、死なないため冒険者になる!
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3:進むべき道

「んんん~」


 ロゼッタは書庫で魔法書を見ながら、唸る。

 その理由は、どうにも上手く魔法を使うことができないからだ。本によると魔法の才能に年齢は関係ないらしいのだが……。


「やっぱり、わたしが悪役令嬢だから?」


 ゲームでのロゼッタはどうだったろうかと思い返す。確か、感情の起伏によって魔力が暴走し、ヒロインを傷つけてしまう……というシーンがあった。

 ――つまり、魔法を使うことはできるのだ。


「水の精霊よ、大地に恵みと祈りを! 【ウォーター】」


 しーん……。


「だめだぁ」


 ナタリーがやってみてくれたように上手くはいかない。

 同じく、火、風、土属性もしかり。


「ゲーム内で魔法を覚えりゅには、魔法書を読む必要があったけど……闇属性の魔法書なんて、使わなかったからなぁ」


 ヒロインは光属性なので、闇の魔法書は出てこなかった。

 けれど、きっとどこかにはあるはずだ。忌避されているので、そう簡単に読むことはできないかもしれないが……。



 ――魔法。

 この乙女ゲームでは、『火』『水』『風』『土』『光』『闇』の属性が存在している。呪文でわかる通り、各々の属性を司る妖精に力を借りて魔法を使うことができる。

 魔法を使用する際には、自分の『マナ』を消費する。

 初級、中級、上級、究極、という四つの通常魔法と、一つだけ個人の固有魔法がある。

 ヒロインの固有魔法は、全体回復だった。



「そうなのよね、全体回復って重宝すりゅのよ……っていうことは、わたしにも固有魔法があるのかちら?」


 ちなみに固有魔法は、全員が使えるというものではない。

 大前提として魔法が使えること、その中でも才能がある者のみに与えられる魔法……と、言われている。


(ゲームのキャラはみんな使えてたから……)


 悪役令嬢ではあるが、一応メインキャラクターになるであろう自分も使うことができそうだとロゼッタは拳を握りしめる。


「となると、その呪文も必要だけど……」


 残念なことに、固有魔法だけは最初から使うことができた。


「正直、最初の魔法が回復だけっていうのは辛いことこの上なかった……」


 まあ、攻略対象キャラクターたちが攻撃魔法や剣で戦ってくれるけれど。


(私は攻撃魔法だといいなぁ)


「固有魔法については、あとでナタリーに聞いてみまちょう」


 魔法書を戻し、ロゼッタは一息つく。

 今後の目標は、魔法を覚え、死なないために冒険者になることだ。


「冒険者のことも調べてありゅのよね!」



 主に本で読んだのだが、一二歳になると冒険者登録をすることができる。

 そうすると、依頼を受けることができるようになるのだ。

 内容は、薬草採取から魔物討伐、はては護衛など多岐に渡る。レベル上げをしつつ、お金もたまるというお得な職業だ。

 もちろん、危険が伴うけれど。



「よーし、魔法書を探しながら生き延びるために強くなりょう!」


 ロゼッタはえいえいおー! と、拳を振り上げた。



 ***



 フローレス家の書斎で、ロゼッタの父親であるグラート・フローレスは頭を抱えていた。それはここ数日で上がってきた、娘に関する報告に関して。


「いつも部屋で大人しくしていたというのに、いったいどういうことだ?」


 報告によると、屋敷の中をくまなく探索し、庭へ出たいと言った。さすがに表では誰かに見られてしまうかもしれないので、裏庭のみ許可した。


「しかも最近は、魔法の練習をし始めたというし……」


 ただ、上手くはいっていないようだけれど。

 それもそのはず、ロゼッタは闇属性なのでほかの属性の魔法を使うことはできない。あれほど綺麗な漆黒の髪で、闇属性以外の魔法が使えたら驚きだ。


 グラートは書棚の片隅に視線を向けて、ため息を一つ。

 そこにあるのは、闇属性の魔法書だ。簡単に入手できるものではないのだが、生まれた娘が闇属性だったため用意だけはしておいたのだ。

 今後、何かあった際の対応に役立つこともあるかもしれないと考えて。


「……私はいったいどうすればいいんだ」


 この世界では、闇属性は忌避される。

 そのため、グラートは娘を世間から隠すようにして過ごしてきた。もし誰かに見つかって、ロゼッタが酷い目に遭わせられては大変だからだ。


 ただ、そのせいもあってか……グラートは上手く娘に接することができない。闇属性の娘を可愛がっていると周囲に知られたら、フローレス家が危なくなってしまうからだ。

 使用人たちは信頼できる者で揃えているけれど、何があるかはわからない。


「ロゼッタの幸せのためにも、我が家が力を失うわけにはいかないんだ」


 闇属性の子どもは、一定数存在する。

 ただ、光と闇の属性は極めて稀で、生まれることがとても少ないというだけ。その低い確率を引き当ててしまったのが、ロゼッタだ。


「……光属性だったら……いや、それを言ったらいけないか」


 闇属性と違い、光属性は王城に招かれる。宮廷魔法師としての地位を約束され、生涯平和に暮らすことができるのだ。

 反対に、闇属性は――命を狙われる。

 それは、この世界の魔王が同じ闇属性であることに起因する。魔王はモンスターを従え、この世界を征服しようとしているのだから。

 その仲間とみなされ、闇属性の人間は殺されてしまうのだ。


「…………」


 お金と権力、これがあればよっぽどのことがない限り守ることはできるだろうと、グラートは考えている。

 その分、ロゼッタへの愛情の向け方が下手くそになってしまったけれど。


「今はまだ幼く危険だが……いつか、魔法書を渡せる日がくるだろうか」


 グラートはそう呟いて、窓の外を見た。

 ああ、今日はとても美しい月が――まるでロゼッタのようだと、グラートはそんなことを思った。

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