29:正体
お姫様――シャルティアーナの言葉に、ロゼッタとカインはルイを見る。彼女に『お兄様』と呼ばれたのは、ルイだ。
お兄様ということは、シャルティアーナの実の兄ということで、つまりは――
「「え、王子様だったの?」」
ロゼッタとカインの声が重なった。
「そうなんだ、黙っててごめん……」
「まさかルイが王子様……。まあ、それはあと。早くお姫様を助けてあげないと」
「あ、ああ!」
ルイは剣で鍵のかかった扉を切り、部屋へと入った。
まさに、お姫様を助ける王子様そのものだ。
シャルティアーナが泣きながらルイに抱きついて、何度も「お兄様」と呼ぶ。大きな瞳からはぽろぽろ涙がこぼれて、とまらない。
「助けに来るのが遅くなってごめん、シャルティ」
「うぅんっ! お兄様が助けにきてくれて、嬉しい」
兄妹の微笑ましい再会を見ながら、ロゼッタは内心で冷や汗をかきまくっていた。なぜかって? それは、彼の正体がルイスリーズだったからだ。
そう、つまり――ロゼッタの婚約者だった。
(え、まって、私はずっと本人に本人の愚痴を言っていたの???????)
大混乱だ。
とりあえず一度落ち着くために、深呼吸をしよう。すーはー、すーはー。よし、落ち着くわけがない。
ロゼッタの頭の中は、『どうしよう』という単語で埋め尽くされている。いや、もうどうしようもできないかもしれない。
そしてロゼッタの冷静な部分が、ふいに今回の依頼のことを思い出す。
(そうか、だからルイがこの依頼をこなしたんだ……ストーリー通りじゃん……)
とりあえずロゼッタは考えることを放棄した。
「はしたない姿をお見せしてしまい、失礼いたしました。わたしはシャルティアーナ・クレスウェル。助けていただき、ありがとうございます」
「いいえ。シャルティアーナ姫がご無事で何よりです。私は冒険者のロゼリー」
「俺はカイン。依頼を受けただけだから、別に気にすることはないよ」
子どもながらにちゃんと礼をしたシャルティアーナに、ロゼッタは微笑む。カインも、彼なりの照れ隠しをしているようだ。
もう少しゆっくり話をしたくもあるが、まずは場所を移すことが先決だろう。
「それじゃあ、帰り――【ダークアロー】!」
「ひゃあぁっ!」
「あっ、ごめんなさい。コウモリが一匹残っていて……びっくりさせちゃったよね」
ロゼッタが急に魔法を使ったため、シャルティアーナが頭を押さえてしゃがみ込んだ。すぐにロゼッタが手を差し伸べると、おそるおそる顔を上げてくれた。
「あ……」
シャルティアーナは倒されたコウモリを見て、ほっとした。
「すごい、すごいです! お姉様と呼ばせていただいてもいいですか?」
「えっえっえっ!?」
キラキラした尊敬のまなざしで見つめられ、ロゼッタは戸惑う。一国の姫君が、冒険者、それも闇属性の人間相手に呼んでいい敬称ではない。
ロゼッタはルイを見て、ヘルプを求める。――が、くすくす笑うだけで助けるそぶりは微塵もない。
「よかったな、シャルティ」
「はいっ!」
(あっ、駄目だこの兄妹……!)
まったく話が通じそうにないぞと、ロゼッタはため息をつく。つくのだが……可愛いシャルティアーナに姉と呼ばれて、嫌なわけがない。
(むしろ全力で嬉しい……)
にやけた顔をどうにかするために咳払いをして、ロゼッタはシャルティアーナに手を差し出す。
「それでは、帰ります。シャルティアーナ姫、外は危険なので私から離れないでくださいね」
「はいっ! お姉様!!」
「……じゃあ、行こうか」
こうして、ロゼッタたちは北の山脈の洞窟を後にした。
ロゼッタとしては魔王城が気がかりだったけれど――今のところ、それらしい建物は見えない。カインの様子も普段通りで、変わったところはない。
(ゲームが始まらないと、駄目なのかも)
つまり、今できることは何もないのだ。
またいつか来ることになるだろうかと思いながらも、北の山脈を後にした――。
***
ルイ――ルイスリーズとシャルティアーナは王城へ戻ったため、ロゼッタとカイン、ネロで冒険者ギルドに依頼の報告へやってきた。
応接室でルイの身分だけを伏せ、説明をした。ちなみにルイの身分を伏せたのは、本人の希望だ。しばらく冒険者を続けたいから、と。
(でも、ルイが冒険をしてた理由って……シャルティアーナ姫を助けるためだったんだ)
シャルティアーナを助けるため、王城から騎士が派遣され、ルイも一緒にいったことがあったらしい。
けれど、大量のコウモリとハーピーにやられ、助け出すことができなかったそうだ。
それからは、王子としての仕事と、強くなるために冒険者となったようだ。結果、助け出せるほどに強く――いや、強くなりすぎている気がしてならない。
(そもそもルイスリーズも初登場時のレベルは10……)
自分のせいで、メインキャラクターたちがめきめき強くなってしまっているような気がするけれど……もう遅い。
「今回の件、速やかな依頼達成感謝する。報酬と、ロゼリー、カイン、それからルイ。三人のAランクへのランクアップが決まった。おめでとう」
「えっ、Aランク!? ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
ギルドマスターのジャングの言葉に、ロゼッタとカインは喜ぶ。二人のランクはCランクで、それが一気にAランクになったのだ。
これは異例と言っていいだろう。
(つまり私の魔法の腕は、上から数えた方が早い……!?)
ゲーム開始前から、すでに最強になってしまった。
あとは筋トレを続けて強い肉体を手に入れることができれば、死亡フラグが立ったとしても跳ね返すことができそうだ。
(やっぱり私の作戦は間違ってなか――あっ!)
とてつもなく大変な問題が一つ残っていたことを思い出す。
そうだ、ルイことルイスリーズの件を放置していた。
今なら円満婚約破棄ができるかもしれないが、もしかしたら婚約を続けても上手くいくかもしれない。
――が、ゲームが始まっていない現段階で判断するのは時期尚早か。
(あとは普通に、顔を合わせづらい)
婚約者の愚痴を、まさか本人に言っていたなんて。そんな偶然、あっていいわけがないだろう。
(ああ、気が重い)
とりあえず会う機会なんてないので、この件はもうしばらくそっとしておくことにする。





