28:VSハーピー?
少し休むと、カインの体調はよくなった。本人もケロリとしていて、さっきのはなんだったんだろうと首を傾げている。
ロゼッタはその理由をしっているけれど、さすがにそれを口にするのは憚られる。
今は歩きながら、洞窟を目指している。
地図の通りであれば、あと五分も歩けば着くはずだ。
(カインが覚醒前の魔王だったなんて……)
いったい誰が想像しただろうか。
(あ、待って)
ということは、魔王になったカインを倒さなければこの世界に平和が訪れない――ということになる。
ヒロインとルイスリーズ、リュート、ラインハルトが力を合わせてカインを倒す?
――そんなの、許せるはずがない。
カインは一緒に冒険をしてきた仲間だ。
もしもヒロインがカインの前に立つというのであれば、受けて立とう。
(――って、これじゃあ私もラスボス一味だ)
しかし幸い、まだゲームは始まっていない。
現状のカインはいい子だし、もしかしたら魔王として覚醒することもないかもしれない、
気をつけて見ていこう。
そして何があっても自分はカインの味方でいようと、ロゼッタは一人誓った。
***
それからほどなくして、洞窟に着いた。
入り口には鋭い氷柱が垂れさがり、まるで行く手を阻んでいるかのようだ。
「ここか……。敵はハーピーで、翼で攻撃を仕掛けてくる。強いから、十分に注意してくれ」
「わかった」
「オッケー、ハーピーね」
洞窟の中は薄暗いので、カインがランプを持って進む。こんなとき、光魔法で辺りを照らすことができたら最高なのだが――まあ、ないものねだりをしても仕方がない。
出てくるモンスターは、コウモリばかり。
(だけど、私たちの敵じゃない!)
「闇の妖精よ、黒き疾風を【ダークストーム】!」
ロゼッタの範囲魔法で、三匹ほどいたコウモリが倒される。コウモリの羽がドロップアイテムで落ちたので、拾っておく。
「…………」
とても順調に進んでいると、ルイが不思議そうにしていることに気づく。
「ルイ?」
「あ、いや……。姫をさらったハーピーのいる洞窟で、その手下のモンスターのコウモリのはずなのに……こんなに弱いのが不思議で」
「…………」
なるほどー。
ルイの意見に、ロゼッタは思わず真顔になる。だってそんなの、理由は一つしかない。
「私たちが強くなりすぎたんだよ!」
――と、ロゼッタがどや顔で告げる。
それにカインも乗ってきて、「そうだと思う」と頷いてくれた。
「正直、レベルだけ見れば俺たちはAランクだっておかしくない。ランクが上がらないのは、圧倒的に経験不足だから」
「……まじか。いや、俺も自分の強さがちょっと異常だなって思ったりはしてたんだよ」
そう言いながら、ルイは自分の手をじっと見つめている。
強くなっていることが嬉しいのだろう。
ロゼッタはその様子を見て、ふふっと嬉しそうに笑う。
「さあ、お姫様の救出まであと少しだよ。ガンガン行こうぜ!」
がしっとルイとカインの肩に手を回し、ロゼッタはルンルン気分で歩き出す。横を歩いているネロも、大きく尻尾を振ってくれた。
そして、洞窟の最奥。
待ち構えていたのは、ルイが言った通りハーピーだ。
灰色の羽を体にまとった男性型で、数十匹のコウモリを従えている姿は圧巻。
『ほおおぉぉ、人間がここまで来たのは初めてだ。今まで来ていた奴らはみな、コウモリたちにやられていたからな』
ハーピーはニヤニヤしながら、しかしこれ以上喋るつもりもないようで、攻撃をしかけてきた。
鋭いハーピーの羽がこちらに飛んできて、ルイがロゼッタを抱えて後ろに跳ぶ。
「……っぶねぇ!」
「わわっ! ありがとう、ルイ」
「おう」
地面を見ると、羽が刺さったところがクレーターのようになっている。威力が高く、ロゼッタがくらったら一撃であの世にいってしまいそうだ。
(ひええぇぇっ! あんなの食らったら、体に穴が開く!)
「次はこっちからいくよ! 闇の妖精よ、黒き疾風を――【ダークストーム】!」
ロゼッタの力強い声が洞窟に響き、炎を纏った【ダークストーム】がコウモリたちを倒しながらハーピーに迫る。
そして――倒した。
「「「え」」」
『わう?』
思わず、全員の声が重なった。
ハーピーはさらさらと灰になって消え、ドロップアイテムとして大きな一枚の羽が残った。どうやら、本当に倒してしまったようだ。
「……私、強くなりすぎたみたいね」
なんて、決め台詞を言ってみるが、ルイは口を開けてぽかんとしている。
「嘘だろ、あんなに苦戦して、倒せなくて……それが、こんなにあっけなく?」
ルイはぶつぶつ言いながらも、最終的には安堵の表情を浮かべた。
(……? 前にもハーピーと戦ったことがあるのかな?)
ロゼッタが不思議に思っていると、「こっち!」とカインが声をあげた。見ると、洞窟のさらに奥へ行く細い通路があった。
「この先にお姫様がいるんじゃない?」
「それだ!」
残っているコウモリをすべて倒し、ロゼッタたちは洞窟の奥へと行く。すると、一番奥の部屋に小さな女の子がいた。
可愛らしいミニコロネットと、ハニーブロンドの綺麗な髪。そして愛らしいピンクの瞳。まさに、お姫様だ。
彼女はロゼッタたちに気づくと、大きく目を見開いた。
そしてルイを見て、涙を流した。
「――っ、お兄様!」
なんですと?





