27:過去エピソード
がたごとと馬車に揺られ、ロゼッタたちは北の山脈を目指していた。――そう、ゲームで魔王城がある場所だ。
(まさか、極秘依頼がお姫様の救出だったなんて……)
ロゼッタはごくりと息を呑み、窓の外を見る。
雪こそ降っていないけれど、霜が降りてとても寒いということは見て取れる。ここだけ、まるで別世界だ。
「ロゼリー、大丈夫?」
「あ、うん。ちょっと緊張しちゃったみたい」
「なんだ、ロゼリーも緊張するのか?」
「するよ! 人をなんだと思ってるの!!」
いつになくシリアスな雰囲気を出していたロゼッタを、カインが心配してくれた。そして、ルイが緊張をほぐすようにちゃかしてくる。
「まったくー!」
ロゼッタは頬を膨らませながら、おやつにと買っていたクッキーを頬張る。そして、ゲームのシナリオに少しだけ書かれていたことを思い出す。
――お姫様の救出。
数年前に攫われたシャルティアーナを助け出すというもの。
実はこれ、メインシナリオでさらりと触れられているのだ。
ヒロインが王太子ルイスリーズと話をしている際に、『攫われた妹を助けにいった』と教えてくれる。
それはまさに美談で、絵本にまでなったほどだ。
その過去が今、起きようと――いや、起きている。
しかし大問題も大問題だ。
(助けに行くはずのルイスリーズはどうしちゃったの!?)
もうずいぶんと顔を見ていない、ロゼッタの婚約者ルイスリーズ王太子。本来であれば、彼が助けに行くはずなのに。
(私が強くなりすぎて、過去のエピソードに影響が出てる……!?)
こんなの予想外がすぎる。
たとえルイスリーズがロゼッタより弱かったとしても、頑張って救出してくれ! と、切に思う。
(……まあ、私たちが行った方が成功率は高そうだけど)
そう思いながら、クッキーでお腹がいっぱいになったロゼッタは、心地いい馬車の揺れで夢の中へと旅立った。
すやすや眠るロゼッタを見て、ルイとカインは笑う。
「緊張してたんじゃなかったのか」
「まったく、ロゼリーらしいね。よいしょっと」
カインは鞄からブランケットを取り出して、ロゼッタの膝にかけた。それを見たルイは、お母さんみたいだと思う。
外見は幼いけれど、カインは自分たちの中で一番しっかりしている。
「今回の依頼、カインが一緒にいてくれてよかった」
「なんでさ?」
「だって、今までの依頼より難易度が高いだろ? 客観的に、視野の広いカインはすごく頼りになるからさ」
ルイが褒めると、カインは照れて耳の先が赤くなる。
「褒めても何も出ないよ?」
と言いつつ、こんなときのカインは食事の際の品数が増えることは知っている。一緒にパーティを組めてよかったと、ルイは微笑んだ。
***
しんしんと雪が降り出したのを合図にし、馬車がその歩みを止めた。これ以上先へは、歩いていくしかない。
御者が引き返していくのを見送りながら、ロゼッタは「はーっ」と息をはく。
「――寒い!」
防寒対策はしっかりしてきたけれど、この寒さには慣れる気がしない。ロゼッタは寒い寒いと、その場で足踏みを繰り返す。
カインも寒いようで、ネロにくっついている。
そんな中、平気そうにしている人物が一人。ルイだ。
「目的地は、北の山脈の中腹にある洞窟だ。そこにモンスターがいて、姫を捕えてる」
「洞窟なの?」
「ああ」
てっきり魔王城だとばかり思っていたロゼッタとしては、拍子抜けだ。
「魔王城に行くのかと思ってた」
「おま、恐ろしいこと言うなよ……魔王がいたら、世界は終わりだ」
「え、魔王っていないの!?」
何とも驚きの情報だ。
どうやら、魔王はまだ覚醒していないようだ。
――魔王。
ゲームのラスボスで、世界征服を企んでいる。
黒髪と黒い瞳の、美青年。
モンスターを意のままに操り、絶対的な力を持つ。
(まあ、もう私の方が強いんだけどね……)
しかし、まだ魔王はいないらしい。
ということは、配下の中ボスあたりのモンスターが姫を攫い、捕えているのだろう。
シャルティアーナ姫は、もう数年囚われていると言っていた。小さな子に、なんて酷い……と、ロゼッタは怒りが込み上げる。
本来助けに行くはずのルイスリーズには悪いが、容赦なくシャルティアーナ姫を助け出そう。
「――うっし! 寒さに負けるな! いくぞー!!」
「「おー!」」
『わうっ』
最終的にラストステージになる北の山脈は、歩きにくい地形な上にモンスターも強い。ロゼッタたちはゆっくりと、確実に歩みを進めていく。
「前方、ホワイトウルフが二匹!」
モンスターを見つけたカインが声をあげると、まっさきにロゼッタが反応する。詠唱している間に、ルイも走り出す。
「――【ダークアロー】!」
ロゼッタが一匹を倒し、二匹目がルイに牙をむく。しかしレベルが上がり、成長したルイにとって敵ではない。
いとも簡単に、向かってきたホワイトウルフを切り捨てた。
「楽勝っ!」
「それはわかったけど、奥からスノーボールが五体くるよ」
「えっ!?」
ルイが余裕で戦っていたけれど、モンスターの数も多いようだ。次から次へやってくる雪だるまに似たモンスターに、全員で武器を構えた。
「ふ~、そろそろ洞窟に着くかな?」
なん十匹目かのホワイトウルフを倒したロゼッタは、汗をぬぐって地図を持つカインに問いかけた。
「うん、もう目と鼻の先だと――っ、うぅ」
「「カイン!?」」
カインが突然目元を押さえ込んでしゃがみ込むのを見て、ロゼッタとルイは慌てて駆けつける。
もしかしたら、モンスターから何か攻撃を受けていたのかもしれない。もしくは、体調不良という可能性も考えられる。
「しっかりして、カイ――っ!」
ロゼッタはカインの顔を覗き込み、息を呑んだ。
カインの瞳が、キラキラと輝いていたからだ。魔力が体の底からあふれ出ているようなそれに、ロゼッタは見覚えがあった。
(魔王と同じ瞳だ)
ゲーム画面で何度も見た魔王も、今のカインと同じ瞳をしていた。宝石のように綺麗で、画面の前で目を奪われてしまったことを思い出す。
黒い、綺麗な――神秘的な瞳。
(って、そうじゃなくて!!)
今、ここで推測できる可能性なんて一つしかない。
(カインが、魔王――?)





