26:極秘依頼
――朝。
ロゼッタは朝食の前に屋敷を抜け出し、街で食事をする。
では、誰が公爵令嬢ロゼッタの朝食を食べるか――と問われたら、魔法【夜の化身】で作り出したロゼッタの分身だ。
以前は顕現し、簡単な動作をするだけだったが、ロゼッタのレベルが上がったからか……簡単な言葉を喋り、食事をすることもできるようになった。
化身がベッドから起き上がると、ちょうどナタリーがやってくる。
「おはようございます、ロゼッタ様」
「おはよう、ナタリー」
「実は昨夜、ルイスリーズ殿下からお花が届いたんですよ」
ナタリーは、綺麗な赤い薔薇の花束を持っていた。
今までアクセサリー類のプレゼントばかりだったので、ナタリーは驚きつつもとても嬉しかった。
自分が仕えるロゼッタのことを気にかけてくれているのだ、と。
「花瓶に移しておきますね」
「お願いね」
「お任せください」
花を花瓶に移すと、すぐにナタリーが洗面の準備をしてくれる。温かいお湯で顔を洗い、着替えをすませて食事をとる。
このあとはもう、することはない。
日によっては家庭教師がくるけれど、微笑みながら頷いていれば終わる。あまり喋ることのできない化身でも、問題なくこなせるのだ。
「今日は特に予定もありませんが、どうしますか?」
読書、刺繍、音楽……と、やりたいことが自由にできる。化身は首を傾げつつ、ハンカチと刺繍糸を手に取った。
それを見て、ナタリーがパンと手を叩く。
「せっかくですから、刺繍したハンカチを殿下に贈ってはいかがですか? 花束のお礼に、ちょうどいいです」
「……はい」
嬉しそうに提案したナタリーに、化身は頷くしかなかった。
***
冒険者として順調に進んでいるロゼッタは、もうそろそろBランクというところまでやってきた。
実のところ、高ランクの冒険者はそれほど存在しない。
C~Dランクの中堅が多く、Bランクを超えると街によっては数人しかいない。Aランクになると、国に数人……というレベルだ。
「これはもう、私たちの時代がやってきたんじゃない!?」
冒険者ギルドで次の依頼を物色しながら、ロゼッタはにやけそうになる。ここまで強くなれば、暗殺者に殺されたりする懸念はぐっと減るだろう。
ただ、魔法の腕ばかり上がっていてはどうしようもない。うっかり転んで死んでしまうような、弱い魔法使いでは駄目なのだ。
なので、最近はルイに剣の扱いを教えてもらいつつ、体力づくりや鍛錬にも力をいれている。
「この依頼はどうだ? 大規模なゴブリン村の討伐」
「いっそワイバーンの討伐とか?」
「さすがにそれは辛くないか?」
ロゼッタの隣では、ルイとカインもどの依頼がいいか吟味している。しかし、なかなかちょうどいいものがないようだ。
三人で悩んでいると、カウンターにいたリリがロゼッタたちの名前を呼んだ。
「ん?」
「ロゼリーさんたち、ちょっといいですか?」
どこか真剣な表情をしたリリに、ロゼッタはただならぬ空気を感じながら頷いた。
ロゼッタたち三人と一匹は、応接室に案内をされた。
出されたお茶を飲みながら待っていると、リリと一人の男性がやってきた。がっしりとした体格に、鋭い眼光の大男だ。
「突然すまないな。俺はギルドマスターのジャング。実は、お前たちの実力を見込んで、頼みたい極秘依頼がある」
「――!」
突然舞い込んできた予想していなかった依頼に、ロゼッタたちは息を呑む。
冒険者ギルドの依頼は、基本的に掲示板に貼ってある。しかし、そのほかに指名依頼や、表に出していない依頼がある。
難易度が高いため掲示ができず、ギルド側から冒険者に直接話をするのだ。
(こういう依頼があるっていうのは知ってたけど、自分にくるとは……)
もっとランクが上がって、初めて声をかけられるものだとばかり思っていた。
「まず、依頼の内容に入る前に確認だ。これは極秘依頼であり、この依頼を受けたということも口外してはいけない。また、説明の前に受けるか決めてもらう」
「それは……」
「内容を聞いたら、断ることはできないということだ」
「――!」
(さすがは極秘依頼……)
最初から難易度がマックス。
けれど、自分たちに話を振ったということは……ギルド側は、ロゼッタたちであれば依頼を達成できると考えていることになる。
よっぽどのことがないかぎり、問題はない――はずだ。
ロゼッタはルイとカインを見て、二人はどう思うか聞こうとしたのだが――
「もちろん受けます。俺たちにしかできないなら、なおさら!」
「報酬もいいんですよね?」
「――って、受ける気満々じゃん!」
相談するという概念がないのか、この二人には!!
ルイは正義感に燃えていて、
そうツッコミたくなったが、ロゼッタとしても依頼は受けたいと思っていた。なのでここは出かけた言葉を飲み込んで、咳払いをひとつ。
「この依頼、受けます。内容を教えてください」
「感謝する」
ジャングは深く深呼吸をして、ロゼッタ、ルイ、カイン、ネロへ改めて目を向ける。
「みんないい目をしているな。お前たちに頼む依頼は――シャルティアーナ姫様の救出だ」





