25:婚約者の愚痴
――リュートとラインハルトと出会って、翌日。
ロゼッタが冒険者ギルドに行くと、不機嫌そうなルイがいた。
(おぉう……)
むすっとしていて、目が細い。こんなに機嫌の悪いルイは、初めて見たかもしれない。
もしかして昨日、何かあったのだろうか?
(先に帰るほどだもんね)
「おはよう、ルイ。どうかした?」
「……別に」
「…………」
絶対にどうかしているでしょうと、ロゼッタは苦笑する。
(仕方がない、ここは年長者の私が一肌脱ごう)
まあ、前世を含めてだけれど。
ロゼッタはルイを連れて、冒険者ギルドにあるミーティングスペースに席を取る。ドリンクも、ロゼッタのおごりだ。
「はい、果実ソーダ」
「サンキュ」
席についたルイは、果実ソーダを飲んで息をついた。
「……ごめん。別に、ロゼリーが悪いとかじゃないんだ。八つ当たりみたいだったな」
「別に気にしてないよ。人間誰しも、機嫌が悪いときもあるし」
大丈夫だよと、ロゼッタは微笑む。
「昨日、なんか大変なことがあったんでしょ? 今日は休んでもいいけど――」
「いや」
ロゼッタが休息も必要だ、そう言おうとしたら間髪入れずに否定されてしまった。どうやら、理由は別にあるようだ。
「……昨日の二人のこと、気に入ったのか?」
「え?」
まったく予想をしていなかった質問に、ロゼッタは目を瞬かせる。
(というか、なんであの二人のことを知ってるの?)
ルイが言っているのは、リュートとラインハルトだ。
けれど、あの二人とルイは会っていない。どうして知っているのだろうか。
「いや、その、昨日……一緒にいるのを街で見かけたからさ。一緒にレベル上げをしたとか、そんなことを話してたから」
「ああ」
どうやら、レストランの帰り道か何かを目撃されたようだ。
レベルが上がった話や、狩りに関する話題だったので、ルイが勘違いをしてしまったのだろう。
(もしかして、私がリュートたちとパーティを組む……みたいな心配をしてるのかな?)
そんなこと、あるわけがないのに。
ロゼッタはにんまり笑って、ルイの背中をバシバシ叩く。
「だ~いじょうぶっ! 私の仲間は、ルイとカインとネロだけだもん!!」
「ちょ、こら! 叩くな!!」
「あははは!」
ルイには、昨日あったことを説明した。
「そんなお節介なことしてたのか。まあ、ロゼリーらしいか」
「そうかなぁ? でも、二人と少し仲良くなれてよかったよ」
ロゼリーが嬉しそうに話すと、ルイがぴくりと反応する。
「あの二人、イケメンだったもんな」
「え?」
ルイの言葉に、再びロゼッタは目を瞬かせる。だってまさか、ルイの口からイケメンなんて言葉が出てくるとは……!
というか、ロゼッタ的に言えばルイが一番のイケメンだ。
(こやつは、自分の容姿がよすぎることがわかってないのでは?)
一緒に街を歩いていると、かなりの数の女性が振り向く。そして、羨ましいという視線がロゼッタに突き刺さるのだ。
そこでふと、ロゼッタはルイの心配していることに気づく。
(恋愛を持ち込んで、パーティがぐちゃぐちゃにならないか心配してるんだ!!)
恋とは人を狂わせるものだとは、よく言ったものだ。
でも大丈夫! ロゼッタは、恋愛なんてしている余裕はないのだ。今はただ、自分が生き残る方法を考えるだけで精いっぱいだ。
恋愛よりも、絶対的な強さがほしい……。
――それに。
「実は私、親の決めた婚約者がいるの」
だから誰かと恋愛するということは、ありえないのだ。
まあ、将来的にヒロインがやってきて王太子ルートの有無に関わらず婚約破棄をされてしまうのだけれど。
「恋愛のいざこざでパーティーがどうこうなることは――って、ルイ?」
見ると、ルイがフリーズしていた。
(婚約者がいるなんて聞いたら、そりゃびっくりするよね)
そもそも、ルイたちはロゼッタのことを平民のロゼリーだと思っている。婚約者がいるなんて、普通は貴族だけだ。
ロゼッタは苦笑する。
「ごめんね、驚いたよね」
「まあ……そうだな。ロゼリーは、好きな人がいたんだな」
「いや、全然」
「は?」
思わず即答してしまった。
いやだって、好きだと言われたら即座に否定くらいはさせてほしい。
「だって、親が決めた婚約者だもん。会ったのは数回だけだし……」
慕うなんて、とてもとても。
「婚約者なのに、会わないのか」
「最後に会ったのは、数年前? 次に会うのは結婚するときかもね」
「それ……最低じゃないか?」
ずばりと言うルイに、ロゼッタは力強く頷く。
最初はロゼッタも仲良くできたらいいなと、そう思った。けれど、王太子からのアクションはほぼなく……闇属性のロゼッタが王城に行くこともできず……。
気づけばこんなにも月日が流れていたというわけだ。
(冒険者してたから、一年もあっという間だった……)
正直途中、冒険が楽しくて婚約者である王太子のことを忘れていたときもあったほどだ。
心配そうにしているルイに、ロゼッタは苦笑する。
「婚約者からプレゼントや手紙はよく届くけど、いつもその店の一番人気の商品で、手紙は代筆。私のことなんて、見てないの。だから全然、気にしてないんだ」
「そっか……。でも、親の決めた婚約者なんて辛いだけだろ? 俺でよければ、話くらい聞くからさ」
「ルイ……ありがとう!」
優しい言葉に、ロゼッタは感謝する。
そして――誰にも話すことができなかったということもあって、お言葉に甘えて愚痴ってしまった。
「私はさぁ、仲良くしようと思ったんだよ。笑顔で! だけど、私のことが嫌いだからか……あ、闇属性が嫌だったのかも。まったく話だってできないでさ」
「お、おお」
果実ソーダを酒のように飲み、ロゼッタは「聞いてる!?」とルイに詰め寄る。
「聞いてるから!」
「そう? それで、いつもお店で一番高い――」
「それはもう聞いたから」
「あれ、そうだっけ……」
(じゃあ、王妃様のお茶会に招待されなかったこととか? これだと私の正体がばれちゃうから駄目か……)
あとは何かあるかなと考えて、そうだと思い出す。
「誕生日のプレゼントを渡しに行きたいって言ったら、断られたんだよ! 酷くない?」
「あー……それはもう、脈なし以外の何ものでもないな」
「はあぁぁ」
婚約者なんていらないと、ロゼッタは深くため息をついた。





