23:仲良くなりたい
ロゼッタは落ち着くために、小さく深呼吸をした。
そして冷静になってみて、今の状況はやばいのではないか? と考える。だって、リュートとラインハルトのレベルは10以下。
(どうしてオークの出るこの森で生きてるの?)
ロゼッタたちがオークを倒したので、ちょうどモンスターと遭遇しなかったのかもしれない。
(つまりめちゃくちゃラッキーってこと?)
さすがメインキャラクター、運がいい。
そして今は、ロゼッタのことを訝しんでいる。別に同じ年頃だって、強い人間くらいいるのに――そう思ったところで、ああ、これかと自分の黒髪を思い出す。
でもまあ、これを気にしているのは貴族だけだ。
(気にしないように――あ)
「――【ダークアロー】」
「「――っ!?」」
なんの前触れもなく、ロゼッタは魔法を放った。
リュートと、ラインハルトの後ろへ向かって。
『グオォォッ』
「命中っと」
こちらに襲いかかろうとしていたオークが、ロゼッタの一撃で倒された。ドロップアイテムを残して消えた姿を見て、リュートとラインハルトは目を見開いている。
(オークの接近に気づいてなかったのか)
それだけではなく、ロゼッタに自分たちが攻撃されると、そう思ってしまったのだろう。
「……っ、感謝します。まったく気づきませんでした」
「助かった。本当に強かったんだな……」
「いいえ。オーク討伐に来ているので、むしろラッキーです」
そう言って、ロゼッタは笑ってみせた。
さすがに低レベルの二人をこのままにしておくわけにもいかないので、ロゼッタは一緒に休憩場所へ戻ることにした。
(というか、ここで死なれてもこまるし……)
リュートとラインハルトは、ネロにびくびくしながらついてきた。どうやら、見慣れないネロのことが少し怖いようだ。
ロゼッタはそれがちょっと子どもらしくて可愛いと思ってしまったことは、内緒だ。
戻ってみると、カインが一人で昼食を作っているところだった。
「あれ? ルイはどうしたの?」
「急用を思い出したって言って、慌てて帰っていったよ」
「えぇぇ……冒険者ギルドに帰るまでが冒険なのに、大丈夫かな?」
帰り道、オークの大群に襲われたりしたら大変だ。ロゼッタがそう心配すると、カインが「大丈夫だよ」と笑う。
「倒すことは無理でも、避けたり逃げながら帰るくらいできるよ」
「そうだけど……仲間なんだから、急いで帰るなら協力するよ! ってことだよ」
「ああ、そういう……」
急用で帰りたいなら、そう言ってくれたらロゼッタたちだって急いで帰還する。もう少し頼ってほしかったというのが、ロゼッタの本音だ。
「それを考える余裕もないほど急いでたんじゃない? そっちこそ、誰を拾ってきたんだよ」
「拾って……」
カインの言い草に、ラインハルトが口元をひきつらせる。
しかしロゼッタはそんなことを気にせず、そういえば自己紹介がまだだったなと思い返す。
「私はロゼリー。こっちはカインと、パートナーのネロ。本当はもう一人いるんだけど、急用で帰っちゃったみたい」
「どーも」
『わう』
こちらが挨拶をすると、ラインハルトが敬礼をした。さすがは将来の騎士団長だ、しっかりしている。
「俺はラインハルト・ルーデン。実戦経験が積みたくて、森へ来た」
「私はリュート・アールグレー。趣味は装備の改良。今日はラインハルトに誘われてついてきたんだけど……かなり奥まで迷い込んでしまったみたいだ」
つまりは――迷子だ。
「申し訳ないが、帰り道に同行してもいいだろうか?」
「ええ、面倒な――」
「もちろんいいよ!」
「んんっ、ちょ、ロゼリー?」
ラインハルトの申し出を秒で断ろうとしたカインの口を、ロゼッタが手でふさぐ。さすがにそれは人として助けてあげていいと思うのだ。
しかし、ロゼッタとしてはもう一つ下心がある。
(仲良くしておけば、死亡率が下がるかもしれない!!)
ヒロインも含め、攻略対象とは仲良くなろうとロゼッタは考えている。
ということで、冒険者のことや魔物との戦い方を教えてあげて、仲良くなる作戦だ。
***
「これはモンスター探知機で、半径五〇〇メートルにいるモンスターが表示されるんだ」
帰り道、同行するリュートが取り出したのは円盤の魔道具だった。見ると、説明の通りモンスターの位置がわかるようになっている。
(これがあったから、オークに襲われることがなかったんだ)
すごいものがあるもんだと、ロゼッタは感心する。すると、前を歩いていたカインが、ひょいと覗き込んだ。
どうやら、魔道具の類に興味があるらしい。
「へえ、すごいね。こんなの、魔道具店でも見たことがない」
「だろう! 私が作り、改良に改良を重ねてやっとここまでの出来になったんだ!!」
リュートは得意げに、自分は魔法全般が大好きなのだと語り始めた。
「魔法というのは、妖精の力を借りてはいるが――もっと未知のものだと思う。魔法も初級、中級と使えるものが決まっているが、その理由を私たちは知らない」
もしかしたら、大昔の人間が使える魔法を決めて妖精と契約をしたのかもしれない。けれど、妖精に力を借りて魔法を使うには一定のルールがあり、それがわからず新しい魔法を使えないだけかもしれない。
「だから私は、いつか妖精に会ってみたいと思っています。そうすれば、魔法のことをもっともっと深く知ることができるはずです」
喋り出したリュートは、止まらない。
(ゲームではもう少しクールキャラだったんだけど……)
ここまで魔法オタクっぽいとは思わなかった。けれど、どこか不愛想でもあったクールキャラよりは好感が持てると、ロゼッタは思う。
時折出現するオークはロゼッタとカインが倒し、街の近くへとやってきた。
ここにはスライムとフラワーラビット、それから低確率でウルフが出るので、リュートたちのレベル上げにはちょうどいい。しかも今なら、ロゼッタという保護者もいる。
ということで、少しだけ戦闘の練習だ。
「ラインハルトが前衛をして、リュートが魔法で攻撃。ここのモンスターなら、そんなに苦戦しないで倒せると思うから。ウルフがたまに出るけど、落ち着いて対処すれば大丈夫だと思うよ」
「おおっ!」
「わ、わかった!」
素直に頷く二人は武器を構え、襲ってくるフラワーラビットと戦いを開始した。
(なんだかチュートリアルをしてる気分だなぁ)
なんて思ってしまうのも、仕方がない。
今やフラワーラビットなんて、雑魚の中の雑魚だ。ロゼッタであれば、寝ていたって楽勝だ。……というのは、言い過ぎだけれど。
「二人とも頑張れ~!」
ロゼッタが応援しながら見ていると、茂みから一匹のウルフが飛びだしてきた。ラインハルトが一瞬動揺を見せたが、ぐっと剣を握る。
(よかった、戦意喪失はしてなさそう)
ラインハルトが剣でウルフの攻撃を受け止め、その隙にリュートが炎の初級魔法で攻撃をしている。
多少時間はかかるけれど、倒すことはできるだろう。
「くっそ、――っ!」
「大丈夫か、ラインハルト!」
「かすり傷だ!!」
ラインハルトがウルフの牙を腕に受けて血を流すが、どうにか踏ん張り押し返す。その一瞬のスキをついて、リュートが魔法を唱えた。
「私の最後のマナで……火の妖精よ、赤き閃光となり大地を轟かせ! 【フレイムボム】!」
火の中級魔法で、範囲攻撃だ。威力は初級魔法の【ファイア】よりも強く、爆発により敵にダメージを与える。
この一撃が致命傷となり、ウルフは倒れた。
「やった~! って、それより先にラインハルトの怪我! リュート、【ヒール】で回復してあげて。それと、土魔法の【ウォール】で壁を作ってモンスターから見つかりにくくするといいよ。マナが足りなければ、ポーションあげるから」
「――! ロゼリー、どうして私が水魔法を使えると?」
「あ……」
しまった、と――ロゼリーは顔を背ける。
この世界では、複数の属性を扱えることはとても珍しいのだ。
(まあ、メインキャラたちはみんな使えるけど)
けれど、それでもリュートだけは別格だった。
彼は魔法のスペシャリストで、火、水、風、土の四属性を使いこなすことができる。ゲームの説明を信じるのであれば、光と闇を除いた四属性すべて使えるのは――リュートだけなのだ。





