20:ルイとの会話
「おい、ロゼリー。起きろ、ロゼリー!」
「ん、んんっ」
肩を揺さぶられて、ロゼッタは眠い目を擦りながらも意識を浮上させる。
まだ暗く、起きる時間ではない。寝ていたい――そう思い再び目を閉じようとして、ハッとする。
「そうだった、野宿してるんだった!」
「初めての野宿で、よくそれだけ熟睡できるな……」
まあ、上を見るとカインもハンモックで熟睡しているけれど。
なんとも肝の座っているロゼッタに、ルイはいろいろ心配してたのにと苦笑する。
ロゼッタがルイと一緒にテントの外へ行くと、入り口ではネロが丸まって寝ていた。眠りながら周囲を警戒し、入り口を守ってくれていたようだ。
焚き火は絶え間なく燃え続けており、近くには枯れ枝が積まれている。
「近くに落ちてる枝を拾ってきたんだ。これだけあれば、朝までは足りると思う」
「ありがとう、ルイ」
パチっと火の弾ける音を聞きながら、ロゼッタは丸太の上に座る。
ルイは枝を焚き火にくべて、「大丈夫か?」と気遣ってくれた。
「ゴブリンの村があるから、周囲にはモンスターが少ないみたいだ。でも、モンスターがまったくいないっていうわけじゃないからな」
「うん。何かあったら、すぐ起こすね」
「おう」
絶対に無茶はするなよと、ルイに念押しされる。
「大丈夫だって! ダークアローで一撃だよ!」
「それが無茶だって言うんだ! ったく」
ルイは呆れながら、ロゼッタの隣に座った。
「なんか心配だから、もう少し起きてる」
「大丈夫なのに……」
(私ってそんなに信用ないのかな?)
そう思いつつ、しかし確かに割と好き勝手に徹夜でレベルアップに付き合わせたことを考え、確かに信用がないかもしれない……と、遠い目になる。
(そういえば、マシュマロを持ってきてたんだった)
夕食のデザートに焼きマシュマロをしようとしていたのに、初めての野宿でテンションが上がっていたことと、カインの家事スキルが高すぎてすっかり忘れていた。
ロゼッタは鞄からマシュマロを取り出して、ルイに見せる。
「じゃじゃーん」
「マシュマロ?」
「あれ、知ってたの?」
驚かそうと思っていたロゼッタは、しょんぼりする。
マシュマロは高級で、あんまり売ってない。そのためルイもカインも知らないだろうと用意しておいたのだ。
「いや、食べたことはないぞ?」
「そうなの? じゃあ、一緒に食べよう。木の枝にさして、こうやって焼くと美味しいんだよ」
ロゼッタはマシュマロを焼いて見せ、食べる。
あつあつになったマシュマロが口の中で溶ける瞬間は、何回食べても病みつきになるというものだ。
「んん~、おいひぃ~っ」
にこにこ顔で食べるロゼッタを見て、ルイも同じようにマシュマロを焼いて食べる。
「……っ、熱っ!」
「大丈夫!?」
「あ、ああ。思ったより熱くてびっくりしたけど、確かに美味いな」
そう言って、ルイが笑う。
マシュマロは何個か持ってきたので、その味を楽しみながら他愛のない会話をする。そのときにふと、ロゼッタはルイに気になっていたことを聞いてみた。
「ルイは、忙しいから依頼を受けられないときもあるって言ってたよね。何かほかにも仕事があるの?」
「あー……、家の仕事が、少しな」
「ふうん……?」
あまり言いたくないからか、ルイは言葉を濁すように苦笑してしまった。
もしかしたら、したくないような仕事なのかもしれないと、ロゼッタは思う。
(その気持ちは、ちょっとわかる)
前世では大変な思いをして仕事をしていたし、今は令嬢としての勉強をしている。
(完璧な令嬢に近づけば近づくほど、死ぬんじゃないかって……考えちゃうんだよね)
ゲームの中の悪役令嬢ロゼッタは、闇属性ということがなければ完璧な令嬢だった。ゆえに、自分が教養を身に着けるほど、悪役令嬢として完成していっている……そんな気がした。
なので、ロゼッタの口からこぼれた言葉はきっと無意識だった。
「嫌なら、投げ出しちゃえばいいのに」
「――!」
その言葉に、ルイは大きく目を見開いた。
まさか、そんなことを言われるとは思わなかったからだ。しかしそれが、なんともロゼッタらしい。
ルイは笑って、「確かに、嫌ならやめればいいような」と言う。
「そんなことを言われたのは、初めてだ。……でも、俺にとってはどっちも大事にしなきゃいけないんだ」
だから、投げ出したくなっても頑張らなければいけないのだと、ルイはロゼッタを見る。
ルイの瞳からは強い意志が感じられて、他人が簡単に投げていい言葉ではなかったかもしれないと、ロゼッタは感じた。
(強いんだなぁ……)
まだ一二歳だというのに。
(ゲームも漫画も、こういうファンタジー世界は子どものうちからしっかりしてるよね)
ただただ、尊敬できる。
ロゼッタはそんなルイの肩に腕を回し、自分の方へと引き寄せた。
「おわっ!? 何するんだよ、ロゼリー」
ルイが驚いて声を荒らげているが、そんなのは気にしない。
前世年齢を合わせてだが、自分より幼い男の子がこんなにも頑張っているのだ。応援したくなるのが、人というものだ。
「疲れたときは私が支えてあげるから、寄りかかっていいよ!」
自分に任せろと、ロゼッタは胸を張る。
それを見たルイは、顔がぶわっと熱を持つ。
「そんなこと言われたの、初めてだ」
「ふふっ、今日は初めて尽くしだね」
なかなかいいパーティじゃないかと、ロゼッタはそう思ってとびきりの笑顔を作った。





