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パーティーメンバーに婚約者の愚痴を言っていたら実は本人だった件  作者: ぷにちゃん
第一章 悪役令嬢、死なないため冒険者になる!
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2:魔法の存在

 ロゼッタ・フローレスは、家族から嫌われている。

 転生して数日、ロゼッタはそんな結論を出した。


(三歳の娘に会いにすらこないなんて)


 よく思われていないのだと、子どもだってわかる。

 そして、いろいろなことが判明した。


 山の中にあると思っていたこのお屋敷だが、そんなことはまったくなかった。王都の、それも王城近くに位置していた。

 ではなぜロゼッタが森の中と勘違いしたのか?

 敷地が広大ということもあるのだが、ロゼッタの部屋が屋敷の裏側に面していたからだ。つまり、窓から見た景色は裏庭だったのだ。


「広いかりゃ、単に王都の端に家があっただけだったのよね」


 ロゼッタは、やれやれとため息をつく。


 悪役令嬢に転生したことに関しては、一晩寝て開き直ることにした。だって、うじうじ考えていてもどうしようもないから。

 なので、屋敷の中を探検してみたのだ。その結果、自分の部屋の位置を把握し、表側に面している部屋の窓からは王都を一望できることも判明した。

 もちろん、王城も。


「……娘の部屋が、裏庭に面した場所かぁ」


 前途多難そうだと、ロゼッタはもう一度ため息をついた。



 ***



「ロゼッタ様、昼食をお持ちしました」

「ナタリー! ありがとう」

「――! い、いえ」


 メイドのナタリーが運んできた昼食は、シチュー、パン、サラダ、フルーツ。どれも美味しそうなので、さっそく席につく。


(私が挨拶をしただけで、そこまで驚かなくてもいいのに)



 ロゼッタ付きのメイド、ナタリー。

 話をしてみた結果、少し前に父親が他界したのだという。そのため、給金のよいロゼッタのメイドになってくれたらしい。

 一見したら可愛らしい外見だけれど、髪がパサついている。自分のためにお金を使わず、家族の下へ送っているのだろう。



(健気ないい子……)


 自分の世話も、必要最低限のことしかしないけれど、真面目にこなしてくれていることはすぐにわかった。

 そのためロゼッタは、まずはナタリーと仲良くなることに決めたのだ。


「ねえ、ナタリー」

「は、はいっ?」


 声をかけると、めちゃくちゃびっくりされてしまった。自分がロゼッタに転生するまで、きっと彼女との間に会話なんてなかったのだろう。

 ロゼッタは苦笑しつつ、他愛のない問いかけをすることにした。


「ナタリーは何歳なの? わたしより、ずっとおねえさんよね?」

「私の年、ですか? 一五なので、ロゼッタ様より十二上ですね」

「なりゅほど」


 そんな若くして働いているなんて偉いなと、ロゼッタは感心する。


「ご飯を食べたら、お庭にお散歩にいかにゃい?」

「お散歩……ですか」

「そう。お部屋のなかばっかりじゃ、つまらないもの」


 屋敷の中は歩き回ってみたけれど、外へは一歩も出ていない。なのでそんな提案をしたのだが、ナタリーは困り顔だ。


(私を外に出すなって命令でもされてるのかな)


 しょんぼりだ。


(その割には、部屋も服も、食事だってちゃんとしたものなのに)


 公爵家としての体面なのかもしれないけれど、どうしても『もしかしたら家族に愛されているのかも?』なんて考えてしまう。


「ええと、メイド長に確認してみます」

「うん、おねがい!」

「……はい」


 ロゼッタが笑顔で頷くと、ナタリーは目を瞬かせつつもほっとした様子でほほ笑んだ。



 ***



 そして数日。

 念願かなって、ロゼッタはナタリーと一緒に裏庭に降り立った。――そう、許可が下りたのは裏庭だけだった。


(まあ、別に裏庭だっていいもん)


 ちょっと拗ねたくなってしまったけれど、お願いを聞き入れてくれただけよしとすることにした。


「ロゼッタ様、この森は敷地内ですが……奥にはモンスターが出ますので、入らないようにしてくださいね」

「モンスター!」


 ナタリーの言葉に、ロゼッタの瞳がキラリと光る。



 この乙女ゲーム『フェアリーマナ』は、その名の通り味方の妖精と、敵として魔王とその配下のモンスターが登場する。

 ゲームをクリアするには、世界征服をしようとしている魔王を倒すのだが、そのためにはモンスターを倒してレベルを上げなければいけない。

 つまり、この森の中にいるモンスターを倒すとレベルがあがるのだ!


(倒したい……)


 うずうず。

 無意識のうちに、ロゼッタの視線が森へ向く。

 それにすぐ気づいたナタリーが、「駄目ですよ!?」と立ちふさがってきた。ちょっと残念だけれど、さすがのロゼッタもなんの対策もせずにモンスターの前に出ていくつもりはない。


「わかってりゅわよ」

(せめて魔法が使えたらいいなぁ)


 自分の小さな手を見て、そういえばどうやって魔法を使えばいいのだろうかと首を傾げる。ゲームでは、コマンド操作をすれば簡単に魔法を使うことができた。


「ナタリー、魔法って使えりゅ?」

「魔法ですか? 私は、初級の水魔法が使えますけど……」

「見たい!!」


 ――生の魔法!

 今見ずして、いったいいつ見るというのか。

 ロゼッタが食い気味に答えると、ナタリーは「わかりました」と言って周囲を見回した。畑の横に置かれている桶を手に取り、しゃがみ込んだ。


「それじゃあ、やってみますね」

「うん!」


 軽く深呼吸をして、ナタリーは手にした桶を見る。


「水の精霊よ、大地に恵みと祈りを――【ウォーター】!」


 ナタリーが呪文を唱えると、桶の中から水が溢れた。初級魔法の【ウォーター】は、水を生み出すことができるようだ。


「わあぁ……これが魔法! しゅごい!!」


 目をキラキラさせて、ロゼッタは桶の中身を見る。なんということもない水ではあるが、何もないところから生まれたのだからテンションが上がるのも仕方がない。

 ロゼッタがはしゃぐ姿を見て、ナタリーが微笑んだ。


「ロゼッタ様はいつも部屋にいるので、魔法を見る機会はありませんでしたね。私はこれくらいしかできませんが、宮廷魔術師になるとモンスターも一撃で倒せてしまうそうですよ」

「とっても強いのね!」


 ――ひとまず、魔法の使い方はわかった。

 しかし問題は、ロゼッタが『呪文』を知らない、もとい覚えていないということだ。


(確かゲーム画面に出ていた気がするけど……)


 さすがにそこまで細かく覚えてはいない。

 キャラクターの声優が読み上げていたけれど、すぐにボタンを押していたので最後まで聞けてすらいない。


(魔導書的なのがあったらいいんだけど……)


 今度は屋敷の書庫でも探検しよう。

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