17:家での問題
「では、教科書の六七ページを開いてください」
「……はい」
ロゼッタは今、家庭教師の授業を受けていた。桃色のウィッグをつけ、お淑やかに、教師の指示に大人しく従っている。
――というのも、出かけていたことがばれてしまったのだ。
本当にうっかりで、帰りが父親と重なるという大失態。ロゼッタが出かけていたと知ったときの父親の顔といったら、すごかった。
(お父様、めちゃめちゃ驚いていたわね。……まあ、闇属性の私が外へ出ているなんて知れたら、公爵家の名に傷がつくもんね)
自分のミスだ、仕方がない。
ただ、ナタリーには申し訳ないことをしてしまった。ロゼッタをしっかり見張っていなかったことに対して、怒られてしまったかもしれない。
(……私がもっと上手くやれたらよかった)
帰ってくるときに見つからなかったら――いや、それならば魔法で影武者を立てればいいのではないかと閃く。
レベルを上げてマナに余裕ができれば、夜の化身を使って日中もロゼッタが屋敷にいるように見せかけることができる。
(もっと、もっとレベルを上げたい……!)
***
――ということで、夜。
ロゼッタはこっそり屋敷を抜け出し、レベル上げをすることにした。
幸い、ルイたちとウルフを倒してレベルが上がっている。
一撃で倒せ、なおかつ群れで行動しないモンスターを狙えばそうそう危険はないはずだ。
街を出る際に門番には子どもが? と心配されたが、冒険者だと伝えれば納得してくれた。
「よーし、目指すはスリープバードだ!」
スリープバードとは、その名前の通りよく眠る鳥だ。
ただ、攻撃力が高く、中途半端な攻撃を仕掛けて反撃をされると痛い目を見る、要注意のモンスターだ。
街から一時間ほど歩いた山の近くに生息しており、木の上で寝ていることが多い。
ロゼッタの魔法であれば、ギリギリ一撃で倒せると踏んでいる。
ということで、暗い中を注意しながら歩いて目的地を目指した。
「さてと、ここからは私の時間ね!」
右手には月夜と炎の杖を、左手にはマナポーションを。
これなら、どんどこ魔法を使ってモンスターを倒しまくることが可能だ。ロゼッタの天下と言っていいだろう。
「今夜のうちに、レベル30にはなりたいな」
山の中を歩き回り、空を見上げる。すると、木の枝ですやすや気持ちよさそうに眠るスリープバードを発見した。
(ふふ、私にかかればこんなもんね!)
ロゼッタはニヤリと笑い、高らかに呪文を詠唱する。
「闇の妖精よ、影から闇を作り出せ!」
その力強い声に応え、黒い闇の矢が出現する。装備している杖の効果で、その矢は炎も纏っている。
ロゼッタはスリープバードを睨みつけて、人差し指を向ける。
「討ち滅ぼせ、【ダークアロー】!」
唱えれば、闇の矢がスリープバードへ向けて撃たれ、直撃する。
(決まったわ……!)
思わず自分の格好よさに酔いしれるロゼッタだったが、『クエエェェッ』という大きな鳴き声に背筋が震える。
「えっ!?」
見ると、スリープバードはボロボロになりながらも生き延びていた。ロゼッタの魔法では、ダメージがわずかに足りなかったようだ。
「や、やばっ!」
スリープバードの一撃を受けたら、ロゼッタなんてひとたまりもない。一撃で死んでしまう……いや、HPを考えると確実に死んでしまうだろう。
ゲームであればセーブ地点からやり直せるけれど、これは現実だ。死んだらもう、生き返ることなんてできはしない。
一歩後ずさるが、そのタイミングでスリープバードが攻撃をしかけてきた。自分の羽を、ロゼッタめがけて投げてきたのだ。
「――――っ!」
避けられない!
「あ、や、やみの……」
魔法を使ってどうにか防げないかと思ったが、声が震えて詠唱ができない。そもそも、詠唱が終わるよりも攻撃が自分の下へ来る方が速いのに。
眼前に羽が飛んできた――というところで、それは弾け飛んだ。
「ったく、無茶しすぎだろロゼリー」
「バカじゃないの……」
「え――」
スリープバードの攻撃を防いだのは、ルイの剣だった。さらに、カインの弓矢がスリープバードを仕留めていた。
二人の突然の登場に、ロゼッタは目を見開く。
「嘘、なんで……」
こんなタイミングで助けに来てくれるなんて、まさに乙女ゲームのヒーローみたいだ。そんなことを、思ってしまう。
ロゼッタの疑問に答えたのは、ルイだ。
「門から出てくロゼリーを偶然見かけたんだ。Eランク冒険者が夜にモンスター狩りなんて、早すぎんだろ」
「俺は、酒場での借りがあったからね」
どうやら、たまたま街で見かけた自分のことを心配して追いかけてきてくれたようだ。
「ありがとう、二人とも。……死ぬかと思ったよ」
「スリープバードとか、無茶すぎ」
「うん……自分の魔法を過信しすぎてたよ」
ルイに叱られ、ロゼッタは眉を下げる。
しかし、カインが「そうでもないみたいだよ」と、スリープバードのドロップをとってきてくれたネロを撫でながら告げる。
「俺の弓で攻撃したけど、瀕死だったからね。もう少しレベルが上がれば、ロゼリーの魔法なら一撃で倒せるようになると思う」
「本当!?」
それはよいことを聞いたぞと、ロゼッタは燃える。
むしろ、今の一匹でレベルが上がって、魔法の威力が上がっているかもしれない。
――いや、それよりも。
「二人とも、時間ある!? 三人でレベル上げしようよ!」
「「えっ!?」」
『わう?』
急遽、レベルアップ大作戦が始まることになった。





