13:地毛が最高
「はああぁぁ……」
「なんだよ、そんなにため息ついて」
「だって、闇属性だってバレたら殺されるかと思ってたんだもん」
ロゼッタが頬をふくらめながら言うと、ルイはぶふっと噴き出して笑った。どうやら、ロゼッタのように考えている人間は本当に少数派のようだ。
(つまり、貴族の習性が最悪なだけじゃん)
がっくり項垂れると、ルイが「思い出してみろよ」と言う。
「ギルドにだって、黒髪の人間はいただろ?」
言われてみれば――確かに、ギルドではちらほら髪が黒っぽい人を見かけた気がする。どうやら、本当に平民は気にしていないようだ。
がっくりうなだれたロゼッタを見ながら、ルイが続ける。
「まあ、確かに一部では過激派もいるけどな。正面切って冒険者にちょっかいかける奴はいないだろうよ」
「それを聞いて安心したよ~」
公爵令嬢のロゼッタは危険だけれど、冒険者のロゼリーは闇属性でも問題なく過ごすことができそうだ。
(いっそ、将来はロゼリーになって冒険者として旅に出てもいいかもしれない)
むしろ、それが一番平和で、生存率も高そうだ。
(冒険者も楽しいし)
きっと、悪役令嬢よりも冒険者の方がロゼッタには合っているのだろう。
先の未来のことを想像して、ちょっと心が軽くなった。
「属性のこと言い出せなくてごめんね、ルイ。ありがとう」
「気にすんなよ。案外、本人の方が難しく考えてることもあるもんだな」
「そうかも」
ルイの言葉に、ロゼッタは苦笑する。
「でも、これでウィッグもつけてなくていいかな」
「そうだな」
同意してもらえたので、ロゼッタはつけていたウィッグを取った。
すると、サラサラの黒髪が姿を見せる。綺麗に手入れがされており、天使の輪が浮かび、思わず見惚れてしまうほどだ。
ウィッグを付けることもあって、髪は肩より短いボブにしてある。ヘアアクセはウィッグにつけていたリボンをそのまま使い、斜めに結んだ。
「は~すっきりした!」
やっぱり地毛が一番楽だ。
ロゼッタがぐぐっと背伸びをすると、ふとルイの視線に気づく。めちゃくちゃ黒髪をガン見されていた。
「る、るい……?」
「あ……っ、ごめん。想像以上に見事な黒髪だったから、びっくりした」
どうやら、闇属性の黒髪はいるけれど、ロゼッタほど見事な黒髪はそうそういないようだ。
「そうなんだ」
「でも、そっちの方が似合うな」
「ありがとう。受け入れてもらえて安心したから、これからはどんどん魔法も使っていくね」
「頼もしいな」
なんの懸念事項もなくなってので、ガンガン行こうぜ――!
ということで、ロゼッタは容赦なくモンスターに魔法を撃ちこんでいく。早いときは、ルイがモンスターと対峙するよりも先に。
スライム、フラワーラビットは一撃だ。複数で出てきたとしても、範囲魔法があるのでロゼッタの独壇場だ。
「おいちょっと待て、ロゼリーってEランクになったばっかじゃなかったか!?」
「え? そうだけど」
「強すぎるだろ!!」
本当にEランクか? 嘘をついてるんじゃないか? と、ルイが訝しんでくる。
「ちゃんとEだよ。……ちゃんとっていう言い方もあれだけど、闇属性は攻撃魔法が強いみたいだよ」
こればかりは、魔法の特性のようなものだろう。
「確かに、闇魔法って見る機会がほとんどないしな。攻撃特化か」
「というわけで、援護は任せて!」
「援護、援護なのか?」
(援護というよりただのメイン火力……)
「あは、あははは! あ、ウルフの森が見えてきた! 行こう!」
「あ、誤魔化したな!?」
目的地が見えたので、ロゼッタは森へ向かって走り出した。
そのまま突撃してウルフ討伐――ということはせずに、森の前で一度作戦会議だ。初めてのパーティなので、狩りスタイルなどを決めておく必要がある。
「私は初級と中級の闇魔法が使えるよ。ただ、物理には弱い……!」
「まあ、魔法使いだしな。俺は剣でウルフを相手にするけど、余裕を持てるのは二匹までだな。三匹以上出てきたら、対処が遅れることもあるかもしれない」
「了解。二匹まではルイに任せて、それ以上増えないようにほかのウルフを先に仕留めるね」
自分が現状でどれくらいモンスターと戦えるかという情報は、大切だ。戦闘中に優先順位などを決めやすくなるからだ。
「マナの回復もあるし、休憩はちょくちょくはさんでいこう」
「うん。一応マナポーションも持ってるから、何かあったときは使うね」
「わかった」
回復アイテムの有無の情報共有も忘れない。
ピンチになった際、仲間がポーション類を持っていることを知っていたら余裕が生まれる。
「目標はウルフ三〇匹の討伐。最初は森の奥に行きすぎず、様子をみよう」
「オッケー!」
こうして、ロゼッタとルイは森へ足を踏み入れた。
踏み入れたのだが――
「闇の妖精よ、黒き疾風を【ダークストーム】!」
ロゼッタの力強い詠唱のあと、風の刃を受けて消えるモンスター。そして残るドロップアイテム。
その様子を見て、ルイは頭を抱えた。
「え? なんなの? 前衛いらなくない?」
「いやいやいや、ルイがいるから安心して魔法を使えるんだよ!」
月夜の炎の杖のおかげもあり――ロゼッタの魔法で、あっという間にウルフ三〇匹の討伐が終わってしまった――。





