表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーティーメンバーに婚約者の愚痴を言っていたら実は本人だった件  作者: ぷにちゃん
第一章 悪役令嬢、死なないため冒険者になる!
1/67

1:嫌われ悪役令嬢に転生したようです

新作です、楽しんでいただけますように~!

よろしくお願いします。

 鳥のさえずりが耳に届き、目が覚める。しかしその鳴き声は、クルルル、キュ~など、なんとも耳に馴染まないものばかり。

 この東京の住宅街で、なんとも不思議なものだ。ペットショップから大量に脱走したのだろうか。なんて考え、目を開け――フリーズした。


「え……?」


 ベッドから体を起こすと、見知らぬ部屋にいたから。


「いったいどうなってりゅの? ……りゅの?」


 自分の口から出た、少し舌ったらずな言葉。どうやら、何やら予期せぬことが起こっているようだと考える。


「……えっ!? あわ、あわわっ」


 慌ててベッドから出ようとして、シーツに足が絡まり転んでしまう。床におでこをぶつけてしまい、額をさする。

 そして気づいてしまった。



 ぷにぷにもちっとした、自分の小さな手に。

 そろりと壁にかけてある姿見を覗き込むと、三歳ほどの愛らしい少女が映っていた。

 リボンのナイトキャップをかぶった内巻きの黒髪ボブに、ぱっちりとした赤色の瞳。レースをふんだんに使ったネグリジェ姿は、まさにお姫様と言っていいだろう。



「おぉぉぉ……可愛い」



 ではなく。

 いったいどういうことだろうかと、首を傾げる。

 自分は何をしていた……? そして蘇るのは、最後の記憶。


「発売したゲームをそのまま二徹でクリアして、仕事に行こうとして――」



 階段で滑って転んだ。



 ……あっ、察し。


「なりゅほど、私はどじって死んだんだ。それで、これはよくある……転生したっていうことなのかな?」


 改めて、鏡で自分の顔をまじまじと見る。

 黒髪なのでぱっと見は日本人かも……と思ったけれど、目が赤い。赤い目の人種なんて、そうそうお目にかかれるものではないけれど……。


「ハーフっぽい顔立ちだけど、私はいったい何人に生まれ変わったのかちら?」


 ただ、部屋は豪華なので貧しい国や地域ではなさそうだ。その点にはほっとしつつ、しかし調度品を見ると、ヨーロピアンなイメージを受ける。

 それから、いったいどう使えばいいかわからないものもある。


(電気のスイッチがないんだよね)


「とりあえず、カーテンでも開けようかな」


 窓まで行き外を見ると、息を呑んだ。

 視界に飛び込んできたのは、大自然だった。壮大な山々と、優雅に空を飛ぶ大きな鳥。澄み切った空は、どこまででも見渡すことができるだろう。

 そして何より驚いたのは――庭の広さだ。


「えっ、ひろ、ひっろ!!」


 窓から見た先には、小さな噴水とベンチがある。家庭菜園もしているのか、ちょっとした畑もあった。

 そして、二階建ての建物があり、その先に森が広がっている。


「森の中にあるお屋敷かちら……?」


 そう考えてみるも、出入口がない。普通は、たとえ山の中に住んでいても街へ行く道などが整備されているのではないだろうか。


(まあ、考えても答えは出ないからおいておくとして)


 問題は、今の自分が誰か、ということだ。

 両親がいて、もしかしたら兄妹だっているかもしれない。自分は生まれ変わったこの女の子のことが、何もわからない。

 そう、名前すらも。


 どうしようかと頭を抱えていると、ノックの音と「失礼します」という声が耳に届いた。


「――っ!!」


 作戦を考える前に、誰かが来てしまったようだ。

 どうしようどうしようどうしよう、頭の中でぐるぐると考えを巡らせるが、何もいい案が思い浮かんでくれない。


(うわーん、私の頭がぽんこつすぎる!)


 無情にも、人が入ってきてしまった。

 ロングスカートの落ち着いたメイド服に身を包んだ、十代半ばくらいの女の子だ。一つにまとめられた明るい栗色の髪と、たれ目がちな青い瞳。


「おはようございます、ロゼッタ様。朝のお仕度をさせていただきますね」

「! あ、はい」

「――、失礼します」


 メイドは一瞬だけ驚いた表情を見せたけれど、すぐに真顔になってしまった。

 お湯を用意されて顔を洗い、ドレスに着替え、髪を整えられる。お姫様が、さらにお姫様になってしまった。

 その後、メイドはベッドメイクをして「失礼いたします」と部屋を後にしてしまった。


 この間、一言も会話はなかった。


「え……どういうこと?」


 わかったことといえば、自分の名前が『ロゼッタ』だということだけ。


「もちかちて、嫌われてりゅのかしら……」


 むむむむんと顔をしかめつつ、どういうこったと鏡を見る。自画自賛になってしまうけれど、こんな可愛い女の子に冷たくしなくてもいいではないか。


「艶のある黒髪に、ぱっちりした赤い目……可愛い」


 自分の姿だけれど、うっとりしてしまう。

 そう、ちょうど二徹でプレイした乙女ゲームに似た容姿のキャラクターが出てきていた。彼女みたいだなと、そう思った。


「たちか、名前はロゼッタ・フローレス」


(――ん?)


「あれ?」


 さっきのメイドが呼んでいた、自分の名前はなんだっただろうか。


 ――ロゼッタ。


「同じ!!」


 そして容姿も同じ。

 というか。


「回想シーンでちょっとだけ出てきたロゼッタじゃにゃい!!」


 ひえー!

 つまり、自分は――ロゼッタは、ゲームのキャラクターとして転生してしまったということだ。



 ロゼッタ・フローレス。

 ファンタジー乙女ゲーム『フェアリーマナ』――通称『マナ』のヒロインのライバル――悪役令嬢。

 ロゼッタは闇属性を持って生まれた、公爵家の令嬢だ。

 しかし、この世界で闇属性というものは忌避されている。そのせいで、ロゼッタは子どものころから家族から愛情をもらうことなく育った。

 公爵家の力で王太子の婚約者になるけれど、正直なところ……疎まれているとゲーム中では描かれていた。



 ついさっきまでプレイしていたので、ゲームの内容はよく覚えている。もちろん、このロゼッタのことも。


「やだ、このままだと……死亡エンドになっちゃう!」


 実は、悪役令嬢の死亡率が高すぎるのだ。というか、死しかない。開発チームに悪意があったとしか思えないほどに、よく死ぬ。


(ゲームの設定上、闇属性が嫌われているから……助けてくれる人がいなかったっていうのもあるだろうけど)


 とはいえ、死にすぎるのだ。


「とりあえず、うっかり死ぬことはないように……レベル上げよ」


 そう、このゲーム世界は――ファンタジーだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『私、魔王。――なぜか勇者に溺愛されています。』コミカライズ連載中!
魔王を倒しに行った勇者が、魔王に一目惚れしてお持ち帰りしてしまうお話です。

コミカライズページはこちら

私、魔王。―なぜか勇者に溺愛されています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ