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彼方の星のミソロギア  作者: このは
21th:決戦前夜……嵐の前の一時
87/114

87:作戦会議

 旧ヘレニク王国、王都ヘール、その地下街。

 地下街に急遽拵えられた神殿の一室には、会議用の机が置かれ、その机がいっぱいになるほどの人々が席についていた。

 神妙な顔つきでただ待つ者、にやけ面を隠せずにいる者、様々な者たちが一同に会していた。

 その中にハミル派神団、マールの姿があって、マールは咳払いをした後、会議室中によく通るような声を出す。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます。私はヘレニク王国、王都ヘールはハミル派神団代行官、マールと申します」


 その名乗りに、ざわついていた会議室が静寂に包まれる。


「皆様のご協力もあり、この王都ヘールには世界中の戦力が集まりつつあります。西のアルミド族、ゲール族、そして精霊の皆様。東の人工精霊や、サメフ・メサの仙術使い(ハーミット)精霊使い(シャーマン)の皆様、そして魔王アリスティア率いる魔族(タルタロス)たち。……そして、一度は我々を見放した神々」


 神々のことを口に出す時、マールは一瞬だけ口どもった。神官であるマールの立場的には、神々のことを悪く言うのは気が引けたのだろう。

 マールは会議室の面々を見る。

 巫術に長けたアルミド族、その長。

 武勇に特化したゲール族、その長。

 西の精霊たち。

 東の人工精霊、その代表者アーティファ。

 サメフ・メサの仙術使い(ハーミット)精霊使い(シャーマン)を纏める祭儀長。

 地下都市アインの魔族(タルタロス)とそれを治める魔王アリスティア。

 そして、天宮(あめみや)(てらす)

 これが今の世界に残った戦力の全て、その代表者たちだ。


「これほどの勢力が集まったことで、ようやくこの話ができる」


 一旦言葉を置いて、マールは息を吸う。


「すなわち、悪魔にどう立ち向かうのか、という話です」


 マールのその言葉に、一同ざわつく。


「その辺の事情は把握している」

「ついに奴らと正面切ってやり合う時が来たとな」

「悪魔に我らが力、見せつけてやる時だ」


 アルミド族の長とゲール族の長が口々に言う。いかにも自信満々といった様子。

 これに対し、マールは答えない。神妙な面持ちで沈黙を返す。

 マールが照を見れば、照もまた呆れ顔を浮かべるのみ。

 まあ、これに関しては致し方ない部分もあろう。何せアルミド族とゲール族は、お互い結託して黒紋獣(スティグマ)を撃退してきた勇猛な部族だからだ。たとえそれが悪魔が興味を示さなかっただけという話でも、彼らは自信をつけている。自分たちの手なら悪魔をも倒せると。

 そう言えば、マールが交渉に行った時もこの二つの部族はまさに二つ返事で快諾したのだった。その勢いたるや、マールが詳細を説明する暇も無いほどに。


「さて、そううまく行きますかな」

「同感ですな」

「右に同じく」


 調子づく彼らに釘を差したのは、サメフ・メサの祭儀長。それに同意したのが、ギーメルの学長とパトス派神団のクライブ監督官。サメフ・メサの祭儀長はともかく、ギーメルの学長とクライブ監督官は悪魔の恐ろしさを直に体験していた。

 アルミド族の長とゲール族の長は周囲の空気を見て萎縮したようだった。さすがに空気を読む力はあったようだ。


「それを話し合うために集まったのではないか。のう?」


 と、述べるのはアリスティア。全くその通りだ、とマールは思った。


「ええ。我々は悪魔に、自らの生存をかけた戦いを挑む所存です」

「して、策はあるのか?」


 マールの言葉に疑問で返すアリスティア。正直な所、マールはアリスティアの存在に助かっていた。何せこのまとまりの悪い集団の前で円滑に会議を進めるのは至難の業。マール自身、萎縮していたところがあったからだ。

 そこにアリスティアの言葉が潤滑剤の働きをしてくれる。それはマールにとって救いの手のように思えた。


「策? いらねえよ、突っ込んでってぶちかます、それだけだ」


 ほら、何せこの様子である。

 ゲール族の長の言葉にその場の全員がしかめっ面をする。


「いや、そういうわけにも行かないでしょう」

「ですから、その作戦を練るための会議です」

「全く、お主は少し黙っててくれんか。話が進まん」

「何だと?」


 総ツッコミを受けるゲール族の長。これは何と言うか、さもありなん。

 これにはさしものアルミド族の長もため息。


「はあ……これだから血の気の多いゲール族は」

「しかし、いくら作戦会議と言っても、叩き台がなければ議論すら初められんぞ」


 と、アリスティア。マールはまともに会議を進めているのが二人だけなのではないかと錯覚してしまう。


「そこはご心配なく。テラス様と話し合って用意してきましたので」


 そう言って、マールは地図を取り出し、テーブルの上に広げた。


「――――概略はこうです。悪魔の本拠地とされる黒い樹に向けて全軍を突撃させる。その後、悪魔を討ち、黒い樹を焼却する……といった流れです」


 とても簡単に、ざっくり言えばそうだ。

 結局の所、最後にはあの巨大な樹のところまで辿り着かなければならない。樹は向こうからやってきてはくれないので、こちらから行こう、ということだ。


「何だ、やっぱり突っ込んでってぶちかますんで合ってるじゃねえか」


 ……まあ、確かにそうなのだけれども。


「それをどうやるか、を作戦というのだ」


 と、アルミド族の長の言葉。さすがにゲール族の長の味方は辞めたらしい。


「じゃがそうなると問題は足じゃな。虚無の樹は海の向こう、ウァレンティヌス帝国跡地にあるのじゃろ?」

「それに関しては私から」


 そう言い、ギーメルの学長が挙手をする。マールが頷くと、学長は起立し、説明を始めた。


「ノース大陸へは、私どもが開発した魔導船……空を飛ぶ(ふね)にて参ります」

「空を……」

「飛ぶフネだと……?」


 その言葉に、マールと照、クライブ監督官、そしてアリスティアを除く全員が驚愕の声を上げた。……いや、精霊たちは「ふーん」といった感じだが。

 そう言えば精霊たちはさっきから言葉を発していない。こちらを品定めするような眼で見ている。それは人工精霊アーティファも同じだった。なるほど、彼らは彼らで人間に協力すべきかを吟味しているのだ。 


「かねてより、我々は飛行艦船の研究をしておりました。そして此度の悪魔の襲撃により、その研究は一時中断された」

「それを再開させたのは、そこにいる異郷の神だ。彼女は我らに言った。空を飛び戦える(ふね)が欲しい、と」


 マールがそのことを聞いたのは、各地に協力を仰ぎに行くよう照に打診した、その夜のことだ。マールも照と同じことを言おうとしていたので、話が一段階早く進んだと喜んだものだ。


「そこで我々は中断していた研究を再開させ、(ふね)を3隻、建造したのです」

「これに乗り込み、悪魔の本拠へ向かう」


 ざわつく一同。その中で、マールはただただ驚嘆した。照が(ふね)の建造を依頼してから多く見積もっても3ヶ月弱。その短期間で(ふね)を3隻建造するなど、元々研究していたことを鑑みても、恐ろしい技術力だ。

 だがいつまでも驚いてもいられない。マールは頭を振って、説明を引き継ぐ。


「道中、悪魔や黒紋獣(スティグマ)に遭遇することもあるでしょう。しかし、悪魔と戦える戦力は限られている。兵力も少ない。そこで、我々はこの3隻の魔導船による、一点突破を行います」


 黒紋獣(スティグマ)はともかく、悪魔は戦える人数が少ない。照の話によれば、「神やそれに準ずる者しか悪魔と戦う資格は与えられない」とのことだ。

 その貴重な戦力を分散させるわけにもいかない。それ故の一点突破。考えれば考えるほどに、それしか策が無いように思えた。


「悪魔と戦える戦力?」

「俺様だな?」


 アルミド族の長が反芻した言葉に、ゲール族の長が反応する。……この人は今までの話を聞いていなかったのか、疑問に思う。

 咳払いをして、マールはアルミド族の長の疑問に答える。


「……私の見立てでは、悪魔と戦えるのは、悪魔と戦い生き延びたテラス様一行、アリスティア様、私、そしてクラウン様とソフィア様の8名です」


 悪魔の姿は見た目通りではない。その内部に彼らの"世界"を内包しているのだ。それ故に彼らを滅ぼすということは一個の世界を滅ぼすことと同義であり、それだけの力は神やそれに近しいものにしか無い。

 それが故の、この選出だった。

 実のところを言えば、照の一行の中でも照以外は火力が足りないと思われるのだが、火力以外の能力を評価してのことだった。

 しかしこの中に自分を入れるのは、少し気恥ずかしい……とマールは思ったのだが、それは別の話。これはマール自身というよりマルサネスの戦闘力を考慮した上での結論なので、自分を過大評価しているわけではない……はず。


「ありゃっ」

「戦力外だとよ、ゲール族の」


 脱力したゲール族の長を、アルミド族の長が笑う。


「戦いの趨勢はこの8名を如何に無傷で虚無の樹へ到達させるかにかかっています。そのためには皆様のサポートが必須なのです」

「ちぇっ。サポートかよ」

「ご愁傷様」


 実際の所、虚無の樹に辿り着くまでに大量の黒紋獣(スティグマ)の襲撃が予想される。道中の戦闘の大半は黒紋獣(スティグマ)戦になるだろう。そこにこちらの対悪魔戦力を割くわけにも行かないため、サポートといってもその責任は重大である。


「サポートと言うが、具体的には?」


 アリスティアが言う。それにマールが答える。


「まず、船に接触した黒紋獣(スティグマ)への対処。それから、悪魔と戦う際には、先陣を切って戦う8名の後方からの援護です」

「艦には我々の新兵器、星辰誘導(アストラル・レール)(ガン)をそれぞれ6門、計18門装備してあります。既にその威力は実証済みです。対悪魔戦でも存分にその威力を発揮できるでしょう」


 マールの言葉を、ギーメルの学長が受ける。

 先に述べた通り、道中は黒紋獣(スティグマ)戦が大半になる。これに対応するため、(ふね)の兵力の全てを黒紋獣(スティグマ)に割く。そして、悪魔と戦う際に後方から砲撃での援護が主な内容だ。

 それは全て、悪魔と戦う八名の負担を軽減するための作戦だった。


「ん? 魔導ってのは悪魔に効かないんじゃなかったか?」


 と、ゲール族の長の言葉。

 そこにアルミド族の長がツッコミを入れる。


「お前、資料ちゃんと読めよ。砲手の魔力で弾を生成するから、メンタル体で弾を生成すれば悪魔に有効だって書いてあるだろ」


 と、アルミド族の長はマールが地図と一緒に皆に配った資料を叩く。これには一同、失笑を漏らした。

 クライブ監督官は咳払いをする。


「3隻の艦はギーメルにて待機中だ。作戦開始時にはギーメルに集合するよう、各員に通達してもらいたい」

「了承しました。続いて本作戦における侵攻ルートですが……」


 マールは地図を元に説明を始める。その最中、集まった精霊たちの顔を伺う。その顔ぶれは相変わらずで、こちらを見定めるような態度を崩さない。

 次いで人々を見ると、そちらの顔ぶれは様々な表情を見せていた。つまらなそうに話を聞いている顔、少しも理解できていなさそうな顔、眠そうな顔、あるいは真剣な顔。……さすがに真剣な顔のほうが多かったが。


 その会議は、一晩中続いた。



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