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彼方の星のミソロギア  作者: このは
17th:虚界の真実! 魔族の女王との邂逅
71/114

71:地下都市アインにて

「着いたぞ。ここが我が国、魔族たちの地下都市、アインじゃ」


 地下の大空洞を抜け、トンネルを潜ると、天宮(あめみや)(てらす)の目の前には大都市が広がっていた。 

 照たちは辺りを見渡す。所々修繕が間に合っておらず破壊されたままの場所が見受けられる。

 こんな地下深くにまで黒紋獣(スティグマ)が現れるとも思えない。これは恐らくは悪魔の手によるものだろう。

 それでも地上の有り様よりはましと言えた。何せ地上には都市と呼べるものは残り二つしかなく、うち一つは壊滅状態なのだから。


「ここが……」

「なんというか……」


 エルタイルとルゥコは口を大きく開けて辺りを見渡している。街並みそれ自体に不思議なところは無いが、その状態の良さには驚くのだろう。

 ただ、エルタイルの場合はそれ以上に何か感じるものがあったのだろう。そのことを感じてか、


「イメージと違う、か?」


 とアリスティアは訊いてきた。


「え、ああ……なんか、もっと素朴な感じかと……」


 この問いにエルタイルはしどろもどろになりながら答える。


「にゅあはは、気を遣わずともよいぞ少年よ。要するにアレじゃな、妾たちはもっと野蛮だとでも思っとったのじゃろう?」

「うっ……それは、まあ……」


 どうやら照の見立ては正しかったようだ。

 ただ、エルタイルのその様子もわからなくはない。伝え聞くところによると、魔族というのは千差万別、姿形から精神性に及ぶまで十人十色で、まとまりが薄いように思えていたからだ。大都市を築いて生活するような文化が発生するとは思えない土壌に思えたのだが、現実はこんなものか。


「よいよい。そんなに間違ってはおらんしな」


 と、照が考えていた矢先にアリスティアのその言葉。

 照は気になって、その言わんとするところを探る。


「と言うと?」

「この地下都市アインは一から築き上げられた都市ではなく、妾たちは既にあったものを使ったにすぎんのよ。今ある文化も人間の後追いに過ぎんしな」

「既にあった……?」


 照は表通りを眺める。往来には大勢の人……亜人種の姿が映る。活気のある市場だ。魚を捌いて売るサメ頭の男、パフォーマンスに湧く群衆、新聞を売るヤギ頭、井戸端会議に花を咲かせるウツボカズラみたいな顔した主婦たち。色とりどり……というか、カオスである。

 なるほど、見れば見るほどなんというか、バラバラだ。こう言っちゃ何だが、随分とバリエーションに富んでいて、多様性ここにあり、みたいな……。

 この文化が人間の後追いというのも、半ば頷ける。


「先代もここまで統一するのに百年もかかったと言うておったわ」


 このアリスティアの口ぶりから察するしかないのだが、その先代とやらの苦労は如何ほどだったのか。そこには照たちの想像もつかないような戦いがあったのだろう。

 とはいえそれは本題ではないので横においておくとして。


「じゃあこの街、古代都市の遺跡? この全部が?」

「そういうことになるな。見てみろ」


 アリスティアは天蓋を指差す。つられて天蓋を見てみると、珊瑚のような塊が地面から伸びているのがわかる。

 その珊瑚のような塊は、鈍く光を放っている。


「このアインは元々は巨大な移動都市じゃった。それが今や機能停止し、永い年月の末に土に埋もれてしまったというわけじゃ。この都市を作った者たちが今どこにおるのか、はたまた滅んでしまったのか、それはもう誰にもわからん」

「古代の叡知、その残り香、か……」


 それを先代が見つけ、定住の場として使うことにしたのだとか。

 どうもそれ以前の魔族は決まった場所に腰を落ち着けることはせずに、各地にアリの巣のように張り巡らされたコロニーを転々としていたらしい。そんな生活だったからか、常に食糧不足にも悩まされていたらしく、時折共食いなども起こっていたそうだ。それがエルタイルの伝え聞くような"野蛮な魔族"の正体らしい。

 そんな状況を終わらせたのがアリスティアの先代、という話だった。


「さあ、余計なおしゃべりはこれくらいにして、先を急ぐぞ」


 表通りを歩く照たちだが、道行く先々で、アリスティアは声をかけられることになる。

 例えば、こんな風に――――


「あっ、魔王様、おかえりなさいませ!」

「魔王さま、今度うちの店の料理食べに来てくださいよ! 魔王さまの舌を唸らせてみせますから!」

「魔王様!」

「魔王さま!」


 わらわら、わらわら。池に餌を撒いたときのコイのように集まる魔族たち。それぞれ口をパクパクさせているところなんかもうそっくりである。

 ……なんていう感想は魔族にとってあまりにも失礼だと思ったのだが、照の抱いた感想はまさにそういうものだった。


「おいおいお主ら、あまり妾の邪魔をするものではないぞ」


 エルタイルもルゥコも、(恐らく未来視でこの光景を見ていたであろう)カンマでさえも、その光景に唖然としている。


「ん、どうしたお主ら?」

「ああ、いや。なんというか……」

「親しまれてるんだな、って」


 エルタイルとルゥコの言葉に、アリスティアはまんざらでもなさそうだった。それがどういった意図で出た言葉なのかはこの際考えないことにする。


「ああ、そんなことか。当然じゃろ、妾、悪魔を撃退しとるし」


 ……と、ここで聞き捨てならない言葉を聞いた。


「はい?」


 えっと、今、何と言ったか……?

 悪魔、悪魔を……


「いや、じゃからな、悪魔をな、一度退けとるんじゃよ、妾。ほら、テラス、お主と戦ったあの獣。確かクルーエルといったか。あいつをな?」


 クルーエル……その名を照はよく覚えている。

 何せ自分と一戦交えた相手だ。あの強さは忘れるわけがない。

 あの戦いを終えてしばらくした今でも、どうやって勝てたのか不思議なくらいだと照は思う。それほどの敵だった。

 それを、退けている、と言ったか。


「うわーまじかー……」

「そ、それは……すごい、ですね……」


 と、開いた口が塞がらない。

 いや、あのカミサマたちを倒したということからかなりの実力者であるのはわかっていたが、それほどまでとは。

 しかしだとすれば心強い。正直に言えば、今まで回ってきた場所にあった戦力は小粒なものばかりだった。黒紋獣(スティグマ)相手ならそれでもいいが、悪魔と戦うには力不足感が否めなかったのも事実。それがここに来て大物に当たるとは。


「まあ妾も無傷ではなかったし、力も大分消耗してしまったがな。体まで小さくなってしまいおったし。そのおかげで……」


 ふと見ると、アリスティアの周りに子供たちが集まっていた。


「あー、魔王さまだー!」

「魔王さまー、一緒に遊ぼうよー!」

「……とまあ、こんな感じじゃ。あーもうわかったから腕を引っ張るでない!」


 アリスティアは子供に路地裏に連れて行かれてしまった。

 照たちは顔を見合わせる。


「……まあ、これもひとつの信頼の証、かな?」

「ナメられてるように見えるがな」


 照たちも路地裏に向かうと、ボードゲームで遊ぶ子供たちの姿に混じってアリスティアがそこにいた。


「妾の番じゃな。賽を振るぞ。……9。妾の収穫は……麦か。誰か粘土は持ち合わせてはおらんか? ……いない、と。よし、ではカードを引く。妾の番はこれで終了じゃ」

「……天宮さん、これって……」


 気の抜けたルゥコの声。

 これは、明らかに開拓者である。一体どこの誰が持ち込んだのか、今アリスティアと子供たちは、誰がどう見たって開拓者であった。


「カンマくん、これいつまでかかるかな」

「1時間。でも1ゲーム終わった瞬間に引っ剥がさないと延々続くよ、これ」

「まじかー」


 ……まあ、こういうゲームの良いところであり、悪いところかな。なかなか中毒性が高いんだ、これが。

 本来ならばこういうことに割く時間はなさそうなものだが……


「まあいいんじゃない? おれたちも少し休もうよ」

「……だね」


 と、照たちはしばしの休息の時を得るのだった。


 

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