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彼方の星のミソロギア  作者: このは
12th:叩き込め! 光を灯す大反撃
54/114

54:神魔大戦(12/12)~青空に響く勝鬨

 悪魔クルーエルは、『反勇壮(アンチブレイヴ)』の"理"を持つ悪魔である。

 かの悪魔の持つ圧倒的な存在感。絶対的な力。即ち限りない膂力(りょりょく)。誰の目にも明らかなその尺度を以て、クルーエルは告死する。

 それがもたらすのは、絶対的な恐怖。押し潰されるかのような絶望感。心は凍り付き、身体はこわばり、武器を持つ手はぶれる。

 結果、クルーエルに対する攻撃はその全てが()()()()()()

 如何な強力な一撃でも、当たらなければ意味がない。

 即ちクルーエルは、どんな状況でも、たとえ本人の意識が無くとも、自身に向けられた攻撃が直撃することはないのだ。


 なんとなくではあるが、天宮(あめみや)(てらす)はこのことを理解していた。何度も何度も、これまでの打ち合いの中で実感していたからだ。

 こいつには攻撃が直撃しない。致命打を与えられない。

 それ故に照は二度もクルーエルを仕留め損ねたのだ。


 ……そして、絶望は今、目の前にある――――



   ・・・



 目前に迫る拳を打ち払う。

 あまりに自然に出た行いに、照自身も驚きを隠せない。


「…………!」


 思わず飛び退いて、悪魔と距離を取った。

 ゆっくりと立ち上がって、クルーエルを見据える。

 体中に力が満ちてくる。心が沸き立つ。だけどこれは、照自身の力じゃなくて……

 照の体にほのかに緑色の光が宿る。


「まだ立ち上がるか、境界(マージナル)の神性」


 苦々しげに悪魔は呟く。

 だけど照は、そんなことにはお構いなく。


「――――あんたは、そこまでして……」


 手を握り、開く。

 手を握り、開く。

 その感触で、なんとなく理解した。

 この力はハミルのものだ。

 ハミルの命の輝き。それが照に宿ったのだ。

 とはいえ全快とは言えない。あまり長くは戦えないだろう。

 それでも。


「お互いのことなんか、ほとんど知らないくせに……」


 向こうはどうかわからないけれど、こちらはハミルのことなど全く知らない。

 なんとなく嫌なカミサマが、流れで悪魔を倒すために共闘した……それだけの関係だ。

 ただ、それでも、分かったことはひとつだけあった。


「命を投げうってまで……私に全て渡してまで"勝ちたい"のか……」


 勝ちたい。その思いだけがひしひしと伝わってくる。

 納得できない運命に。抗いがたい絶望に。

 誰にも、何にも、負けたくない。


「……いいさ。だったら、あんたの想いは、私が引き継いてやる」


 だって、その"想い"は私も同じだから。


「終わりだ。境界(マージナル)の神性」


 拳が突き立てられる。

 死を告げるその拳が照を穿つその瞬間――――


 天宮照は、ただ一言呟いた。


「起動、アイテムクリエイション……!」


 驚くべきことが起きた。

 照の身体がクルーエルをすり抜けて、一瞬の内に照はクルーエルの背後に回ったのだ。

 当然クルーエルの拳は照には当たらず、空を切り裂き、巨大な砂埃を撒き散らしただけだった。

 この思いも寄らない出来事に、クルーエルはほんの一瞬だけ、その思考を空白にした。

 ……そして、それが仇となった。


「なっ……何だ今のは……!」

「はあああああああッ!!」


 クルーエルの背を尻目に、照は槍をぎゅっと握り、悪魔の頭に照準を据える。

 それは完全なる不意。照は石突でクルーエルの脳天を穿ち、昏倒させる。これがクルーエルに初めて入ったまともな一撃……直撃であった。


「うありゃあああああ!!」


 追撃に突きの乱打。最後に横薙ぎの一閃。

 地に叩き伏せられたクルーエルに、照は炎の楔を五本、四肢と頭に撃ち込む。

 楔は狙い過たず、悪魔の脳天と手首を地面に打ち付けた。


「はぁ……はぁ……!」


 ……やっと。やっとだ。

 今の今まで地に伏さなかった悪魔が、ついにその背中を大地に預けている。

 照はクルーエルの首元に穂先を突きつける。穂先が近付くだけで皮膚は焼け爛れる。それはクルーエルの"存在規模"からすれば微々たるダメージだろうが……


「グゥぅ……貴様ッ……何を、した……!」

「知りたい? なら教えてあげるよ」


 冷たい声が小さく響く。

 感情の乗っていない、低い声。


「ちょっとしたアイテムクリエイションの応用だよ。壁抜け(トンネル・エフェクト)ってやつさ。……まあ、今みたいなのは一回しか通じないだろうね」


 ……『反勇壮(アンチブレイヴ)』の"理"は、心に恐怖を呼び起こし、凍らせる。

 それに対抗する手段は二つある。

 一つは()()()()()()()()()()こと。それもただ凍り付かせるのではない。何者にも揺り動かされない、完全に静止した()()()()()()()まで。

 心は冷たく、されど身体は燃え上がるように。

 口で言うほど簡単な芸当ではない。それには高度な精神修行が必要となる。ともすれば魂の変質すら伴う危険な行為だろう。

 だがそこまでしてできるのは"理"を無力化することのみ。だからどうしても、確実に隙を突くための手が必要だった。

 戦闘中の激しく動く敵に対しての壁抜け(トンネル・エフェクト)など、成功するだけで奇跡。

 だが、その奇跡にさえ縋る必要があったのだ。


「絶望も奇跡も超えて、ようやく……ようやく、お前を捉えたぞ!」


 照は穂先をクルーエルの胸へと向けて――――力任せに突き刺す!


「はああああああああ!!」


 ()()()()()()()。ならば後にやるべきことは、決まっている!


「お前への攻撃は全部逸れてしまう。だったら、()()()()()()攻撃すればいい!」


 『反勇壮(アンチブレイヴ)』への対抗手段、その二つ目。

 それはクルーエルの内側から攻撃すること。

 内から外へと攻撃すれば、いくら逸れたところで結果は変わらない!

 ……虚界悪魔(ディアボロス)とは世界そのもの。その存在の規模は計り知れない。見かけの大きさとは裏腹に無尽蔵とも思える体力を有する。

 だが。


「お前の"存在"の規模がどれだけ大きかろうと! 世界まるごと焼き払えば関係ないッ!」


 クルーエルの内部からの攻撃にはもう一つの利点がある。

 それはクルーエルの防御を無視できることだ。

 自らの内からの攻撃は、どんな生物であっても無力。照の最大火力で以て、内側から攻撃できさえすれば!


「覚悟しろ虚界悪魔(ディアボロス)ッ! お前に一つ教えてやるよ!!」


 槍の穂先から溢れんばかりの焔をクルーエルへと注ぎ込む。

 そして、感情と顔色の戻った照は、肺が潰れんばかりに叫ぶ。


「神様怒らせると、怖いってことをぉッ!!」


 膨大な熱と光がクルーエルの胸の傷から噴き出す。それはまるで火山の噴火……いや、それでは生温い。

 もっと巨大な暴力的な炎が、クルーエルの内部で暴れ回っている。

 まるで太陽の中にいるかのような熱量と圧力に晒されたクルーエルの身体は、その変化に耐えきれず――――


「グ……オオオオオオオオ!! 我が、我が敗れる、だとオオオオオ!?」


 膨張し、破裂し、崩れ落ちる間もなく、燃える肉片が辺りに飛び散り、空気を燃やし、灰となる。


「消え去れ、爆散しろ! 虚界の悪魔!!」

「オォォォォォンノォォォォォレェェェェェェェ!!」

「でゃあああああああああ!!」


 空気を震わせる断末魔を響かせて、首都そのものを飲み込みかねない規模の爆発が巻き起こる。

 その爆風は天を衝き、世界に覆い被さる暗雲を払い、空高くそびえる黒点にまで届く。

 強烈な爆風により弾き飛ばされた空気が吹き戻されて、強い風とともに瓦礫が舞う。

 爆心地にいる照もまた、無事ではなく――――


 ――――立っていた。


 ただ立っていた。

 槍を杖にして、もたれかかり、力なくうなだれて。

 倒れそうになる身体を必死に支えながら、照はやっとの思いで取り戻した青空を仰ぐ。


 ――――きれいな空だった。


「……った…………」


 一歩、二歩。ほんの少しだけ歩いて――――


 勝鬨を上げる。


「勝ったぞおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉッ!!」


 だけど、意識を保てたのはそこまでで、程なく照は倒れ込み、意識を酩酊させていった……。


 

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