52:神魔大戦(10/12)~飛べ、火の鳥
王都ヘール北部の上空にて、雷光と獣がぶつかり合う。その余波で撒き散らされる衝撃波を避けつつ、天宮照は獣の悪魔クルーエルに突進する。
「はあアアァッ!」
迎え撃とうとするクルーエルに対し、別方向から"栄光と雷の神"ハミルが狙う。
その手に雷の光を以て、ハミルは解放の言葉を唱える。
「穿て、貫け、無限雷光!」
炎の槍と雷の雨がクルーエルを襲う。対してクルーエルは咆哮を上げる!
クルーエルの咆哮に呼応するかのように地面が隆起し、雷の雨を遮り、隆起した地面を縫うようにして飛ぶ照の斬撃も躱される。
咆哮だけでこの威力。遠くの山をも一撃で砕くその膂力から放たれる一撃一撃が当たれば必死の痛打となる。
その膂力を以て、この獣はしかし油断することもなく、確実に照達を狙ってくる。その様は恐怖としか言いようがない。
「見事! その攻撃、評価に値する! だが温い! 我を斃すには些か足りぬ!」
獣が放つその言葉も、嘘偽りなど微塵もない。ただあるのは、己の力に対する絶対的な自信のみ。
獣は角を伸ばす。螺旋を描きそれは照とハミルに向かう。
照は下へ潜り込んで回避し、ハミルは片腕でいなす。ただ避けただけではない。それは攻撃への布石だ。
照は槍の穂先をクルーエルに向け、照準する。
ハミルは左手を同じようにクルーエルに向ける。
そして、放つ。
「我が輝きを受けよ!」
「吹き飛ばせ、雷風撃!」
炎と雷がクルーエルに向かう。
巨体に似合わぬ素早さで獣は炎と雷を避け、ハミルに接近し、拳を振るう。
照はその拳を槍で払い、そしてハミルの前に出る。
「アメミヤ・テラス……!」
「うらあああァ!」
交わり合う槍と拳。
雷光もまたそこに加わった。
度重なる攻撃は、未だ見えぬ勝機を掴むために。
暇を与えるな。休ませるな。動かし続けろ。チャンスは必ず来る。絶対逃すな。そのためならどんな手でも――――
だが、無情にも攻撃の波は途切れることとなる。
クルーエルは照の槍を避け、その穂先を掴んだ。にやりと笑い、手が燃え上がるのも厭わずにクルーエルは照に殴りかかる!
「――――――」
だが、そこにハミルが割って入った。
横からの殴打によりクルーエルの軌道は逸れ、照は暴風に晒される。
「ッ、貴様……!」
「ハッ。情けないねェ、アメミヤ・テラス!」
……確かに情けない。今のはハミルがいなければ掠っていた。認めるのも癪だが、照はハミルに助けられた。
それはわかっていつつも、否定せずにはいられない。
「誰が! 避けられたよ今のくらい!」
「どうだか!」
暗雲立ち込める空で、三つの光が軌跡を描く。
赤と、緑。そして灰。それぞれの光が闇を裂いて交差する。
「まさかアンタと共闘するなんてねぇ、アメミヤ・テラス!」
などとハミルの言。だが言葉とは裏腹に、その行動はとても協力とは呼べない。
だってさっきから、コイツはこちらの動きに便乗しかしていない……!
「どの口が! 利用してるだけだろ、私もあんたも!」
「よくわかってるじゃないか!」
ああそうだ。勝つためなら利用もするし、されてやる。今は、今だけは悪魔を倒すことが最優先だ!
だって――――
「私達はッ!」
照が、
「私はッ!」
ハミルが、
「勝つためにここにいる!!」
同時に叫ぶ。
炎と雷の同時攻撃。左右の拳でそれを受け止め、宙に浮かせた後、クルーエルは旋回して尻尾による殴打を見舞う。
「ツッ……!」
「ゴ……ッ」
そしてクルーエルは追撃にと拳で衝撃波を放った。
「墜ちよ、神性!」
「がぁはっ……!」
「ブガッッ――――」
二色の星が地に落ちた。
瓦礫を押し退け、照は立ち上がる。笑う脚を何とか黙らせ、空で瞳を光らせている悪魔を睨んだ。
……恐怖。さっきからそればかり感じて仕方ない。
飲まれてはいけない。この冷たい水が背筋をゆっくりと伝うような感覚に囚われてはいけない。勇気だ。勇気を振り絞れ。
勇気は恐怖を振り切るエネルギーだ。次なる行動への原動力だ。
……だけど、その逆もある。
恐怖は勇気を蝕む羽虫であり、足に付いた枷だ。その歩みを止め、体を縮こませるもの。
まるで目の前の化け物は、その体現のようで――――
……いや。いいや!
照は咳き込みながら、震えて音を鳴らす体を抑える。
それでも、口をすり抜けて出てくる弱音は止めることができなくて。
「かはっ……げほ、げほ……、クソ、あいつどんだけ強いんだよ……! もうあの嫌な感覚も認識のズレも無いのに……!」
照に付きまとう力の消失。それは他の悪魔の消滅を意味している。
つまり、他の皆はやったのだ。
残るはこの悪魔だけ。それでこの戦いは終わる。
なのにその光景が全く見えない。怖い。
くそったれだ。こんなんじゃとっておきの技も使えない……!
「……おい、アメミヤ・テラス。何か策はあるのか?」
ハミルが声をかけてきた。何だ藪から棒にと照は思ったが、そこは特に気にするべきではない。
あくまで最優先は対悪魔。このカミサマといがみ合ってる場合じゃない。
……策。今ちょうど考えていたところだ。だが……
「そっちこそ。勝算なしに割り込んできたわけじゃないだろ?」
自分だけ答えるのは釈然としない。人に聞くならまず自分からだ、カミサマ。
「敵にそんなの教えるものかよ」
そう思っていたら返事はこうだ。ある意味ブレない。
「だったらこっちも教えないよ」
「は、良い返事だ」
もはやお互い言ってるようなものだった。照とハミルは目配せし、共に悪魔クルーエルを睨め付ける。
何はともあれ、この申し出は願ってもない――――!
「ちゃんと合わせろよ、カミサマ!」
「そっちもね!」
同時に飛び立ち、悪魔に肉薄する二柱の神。
切り結び、拳を響かせ、ただ一つの機会を待つ。
――――呉越同舟。敵対する神と神は、同じく敵対する悪魔に対して、この時ばかりは共に立ち向かう。
そして、その時は訪れる。
「ぜぇやッ!」
「ヌゥ……!」
照の斬撃を腕で払ったクルーエルに対して、その遠心力を利用して照は石突で打つ。そうして右の防御が外れたところへハミルの雷撃が向かう。
「もらったッ……無限雷光!」
雷撃は狙い過たずクルーエルへ直撃し、クルーエルは狼狽する。
しかしそれだけでは効果が薄い。
「なんの。これしきで――――
だが、一瞬の隙はそこに生じた。
そしてその一瞬こそが、二柱の神が狙ったものだった。
「勝利よ来たれ、神雷と共に!!」
自らを雷と化して、ハミルは悪魔へと突撃する。
照もまた、全てをかけた大技を発動させる。
……仕込みは済ませていた。
本来トラップとして使用するために街の各所に仕込んでおいたものだが、個別に使うのではまるで効果がないことは実証済み。
ならば……一斉発動させればよい!
「起動、アイテムクリエイション!」
照が起動の言葉を発した途端、街が炎で燃え上がる。
クリエイションスモークに本来使用しないコーザル体を付与して、炎の棘を産み出すグリッチ、モーニングスター。その同時発動。
同時発動したモーニングスターにより生じた炎の棘は、隣接する炎の棘と連鎖反応を起こし、やがてその姿は巨大な火の鳥に変貌する。
これこそ、この機会を逃せば二度はない、一回限りの大グリッチ。
だからこそ、確実な隙が必要だった。
悪魔を確実に仕留めるために!
「なっ……貴様、これ程の力をッ……!」
「ハッハァ! 良いじゃないか! さあぶちかましてやろうか!!」
火の鳥が、雷光が、悪魔クルーエルへと向かう!
「喰らえ、悪魔! 羽ばたけ、火の鳥! 未来を、変えるんだああッ!!」
天に昇る雷光と火の鳥が悪魔と交わり、街には光が満ちる。
轟く爆豪。駆け抜ける爆風。街は破壊され、瓦礫が舞う。生じた吹き戻しが爆心地へと向かう。
……その嵐が去った頃には、その区画は瓦礫の一つすら無い更地となっていた。




