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彼方の星のミソロギア  作者: このは
9th:備えよ! 来たる嵐と黒い影
42/114

42:嵐が来る

 黒い森に怒号が鳴り響く。

 鈍く、低い音。それは肉を切り裂く音ではなかった。

 ……刃はマルサネスとルゥコを貫き通ることはなく――――


 第一使徒(デミウルゴス)は地に伏せた。


「な……んだ、今のは……?」


 倒れ伏した第一使徒(デミウルゴス)の背後から姿を覗かせたのは、一瞬前までルゥコの傍らにいたはずのマルサネスだった。


「あっけねえ幕切れだな、第一使徒(デミウルゴス)さんよォ」

「何故、貴様が私の後ろに――――


 何が起こったのかを理解する間も無く、第一使徒(デミウルゴス)は意識を手放していく。

 崖縁に手を掛けたその指が一本、また一本と外れていく中で、第一使徒(デミウルゴス)は問いかける。

 ……それに答えたのはマルサネスではなかった。


「――――量子果実(クリュソミリア)。これが私の能力(チカラ)。どこぞの嫉妬深い神様の、貞節を象徴する果実」


 ゆっくりと立ち上がりながらルゥコが語る。

 マルサネスがルゥコを見る。ゆらりと立ち昇る青い魔力の励起光に気付いたのだろう。


 ……量子果実(クリュソミリア)。その手に触れたものの"存在情報"を保存して、現在の任意の情報と"入れ換える"力。

 保存した情報は黄金の林檎を象った"質料(ヒュレー)"として現れる。

 その情報を呼び出すことで、瞬間移動のようなことができたり、傷や病気を「受ける前」の状態に戻すことができるのが、この力である。……ただし、量子果実(クリュソミリア)の発動に使う魔力だけは置換できないが。


 混濁した意識の中の第一使徒(デミウルゴス)に対して、ルゥコは更に突きつける。


「あなたの敗因は、私がいたことだよ。第一使徒(デミウルゴス)さん」

「っ…………」


 何かを言う間も無く、第一使徒(デミウルゴス)は気絶する。

 そして彼の存在の敗北は、他の信徒達に衝撃を与えたようだ。


「で、第一使徒(デミウルゴス)様が倒された……!?」

「う、狼狽えるな。我々だけでも――――


 混乱の色を滲ませた彼らに対して威嚇するように、マルサネスは地面を踏み鳴らす。

 銃弾が放たれたかのような音がして、その直後にマルサネスが啖呵を切る。


「あぁ? やるってなら付き合ってやるぜ。だがその場合……分かってるよなァ?」


 彼らの表情に浮かぶ色が、あっという間に恐怖へと変わった。


「ひっ……」

「失せな雑魚共。てめぇらに用はねえよ」

「ひ……ひえぇぇぇ……!」


 身を翻し、脱兎の如く逃げ出していく神官達。つまづき、地面を舐めながら、マルサネス達から遠ざかっていく。

 その無様な姿を見て、マルサネスはため息を吐いた。

 ふとマルサネスのその体が光り出して、引き剥がされるように二つに分離する。ひとつの光はマールの姿に、もうひとつの光はサーネスに。

 マールはルゥコに向き直り、目配せした。


「……さて。どうしましょうか、この人。とりあえず拘束して王都に――――


 そんな時である。

 天宮(あめみや)(てらす)から持たされた端末から振動と音。

 それは誰か――恐らく照達――からの着信を示していた。


「もしもし、ルゥコちゃん?」


 端末を通話状態にして耳に当てると、カンマの声が聞こえた。

 何やら切羽詰まった様子に聞こえるが――――


「カンマ君、何――――

「今すぐ戻ってきてほしい! 全力で、急いで!」

「え、ちょ……何があったの!?」


 いきなりで理解できない。

 だが、緊急事態だと言うことはわかる。

 そしてこの世界においてその状況にふさわしい存在といえば――――


「……来る」

「っ、それって――――


 決まっている。


 奴ら(・・)だ。


「悪魔だ。奴らがもうすぐ、王都に来る!」


 

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