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彼方の星のミソロギア  作者: このは
7th:強き新たな戦士! 王都での出会い
32/114

32:切り開くための

 天宮(あめみや)(てらす)が突きつけた炎の槍は、とてもカンマに届いているとは言い難い距離ではあった。

 カンマの光刃もまた、照の首の皮を捉えきれていない。

 結果としては、それは引き分けと言える。……いや、まだ決着は付いていない。

 だが――――


「ウソ、今の対応すんの……?」

「どうする? このまま続けたら、確実に殺し合いになるよ」

「……やめとく」

「懸命だ」


 もう止めたほうがいい。

 それに関しては、両者の見解は一致していた。

 カンマが構えを解いたのを見ると、照もまた神衣の变化を解いた。

 息をついて、ルゥコは照達に歩み寄る。それらの動向を見て「戦いが終わった」と判断したエルタイルは、展開していた黄白色のドームを解除した。


「"見える"とは言っても完璧じゃないらしいね」

「いや、完璧だよ。おれの頭が付いてこないだけ」


 この受け答え。もはや確定したと言っていいだろう。

 直接相対した照は、カンマの力を充分に分析できていた。

 というか、カンマもルゥコも自らの"能力"を照に「見せるため」に戦っていたように見える。本気でやるなら「悟られない」戦い方もできたはずだ。

 ただ、エルタイルはそれを理解できてはいなかったようで……


「お前らさっきから何言ってんだよ。見えるとか見えないとか――――


 まあ、戦ってはいないのだから不思議ではない。実感もなければ理解もできないのは当然のことだ。


「カンマくんはね、未来が"見聞き"できるんだよ」

「……いや、意味分からん」

「ルゥコちゃんなんか凄いよ。量子果実(クリュソミリア)って言って……」

「あー、その話は後にして欲しいかな」


 ルゥコの言葉に、カンマは渋々下がった。

 正直な所、照はカンマの"未来視"の能力やルゥコの能力について気になることが山ほどあった。……のだけど、「後で説明してくれるというならまあいいか」と考えてもいたので、特に何も言わなかった。

 カンマはルゥコの顔をちらと見る。ルゥコが頷くのを確認すると、喋り始めた。


「じゃあ、おれの能力を知ってもらったところで、改めて」

「…………」


 言葉に出さず、ただ答えを待つ。


「今からする話は、おれが見た未来の話だ」


 固唾を呑む。

 文脈から察するに、それはとても"良くないこと"だ。

 その内容も、何となくだけどわかる。


「これから近い内、いつになるかは分かんないけど……この町に三体の悪魔が来る。その悪魔達に、おれ達は――――

「殺される……?」

「このままなら、ですけどね」


 確信を持ったルゥコの口ぶり。

 それもそのはず、カンマの"未来視"はカンマ曰く"完璧"なのだ。本人は「頭がついていかない」と言っているが……その精度に関しては信頼できるのだろう。

 にしても、"自分の死"を見ているというのはどんな気持ちなのだろうか。気にはなるが触れるのも気が引けた。


「……もしかして、私も?」


 二人は頷いた。

 なんとなく予想はできていたが、改めて聞くと気が滅入る。

 だけど、知れてよかった。

 なぜなら――――まだ()()()()()()()()からだ。


 世界とは箱庭のようなものだ。

 ありとあらゆる条件を与えられ、演算を行い、その結果を出力するシミュレータ。

 人間も動物も、照をはじめとした神々も、森羅万象あらゆるものが、言ってしまえば箱庭の中の"条件"だ。単なるオブジェクトでしかない。

 箱庭の中の条件は、組み込まれた計算式に従うだけだ。彼らは計算式(うんめい)には逆らえない。

 だが結果を知る者……"観測者"に関してはこの限りではない。

 そう。未来を知る者は――――


「――――よく、わかったよ」


 天を仰ぐ。暗雲立ち込める黒い空。

 王都の周囲を囲む城壁に沿って張られた《守護光陣(ゾーハル・キール)》によって黒い雨からは守られているものの、それでも鬱蒼とした気分が呼び起こされる。

 三体の悪魔の襲来。状況は絶望的。

 だが。


「三千世界の大洗濯、か……」

「天宮さん……?」

「あぁいや、まぁ、予言なんてろくでもないものばっかって話」


 そも、予言など素直に従う気は毛頭ない。

 悪いものならなおのこと。

 カンマとルゥコの顔をじっと見つめて、照は宣言する。


「未来を変えよう。私達の手で!」


 一筋縄では行かないだろうが、やると決めた以上はやってやる。

 照が右手を差し出すと、カンマとルゥコは各々の手を照の右手の上に置いた。


「はい!」


 薄暗い空。広場を照らす街灯。散っていく人だかり。

 その中で三人は、自らに降りかかる未来と戦うことを誓ったのだった。

 ただ――――


「オレ、忘れられてないか……?」


 一人だけ場の空気に入り込めない少年がいたのは、まあ、別の話である。


 

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