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彼方の星のミソロギア  作者: このは
1st:来訪者! 彼方の星のファルステラ
3/114

3:2021年異世界の旅

「君、オレらの世界の"救世主"になりな」

「…………はい?」


 耳を疑うような言葉に、天宮(あめみや)(てらす)は思わず声を上げる。

 今こいつなんて言った? 救世主?

 いきなり唐突な……と照が思っていると、翼の鎧が詳細な事情を説明し始めた。空中に投影された映像が別のものに変わる。

 ……翼の鎧に曰く。


「今から三ヶ月ほど前のことです――――」


 突如、照のいた世界から見た異世界「ファルステラ」に、述べ十の黒点が生じた。その黒点は世界そのものを飲み込み肥大化していった。

 黒点より現れた何者かが、世界を思うがままに蹂躙したのだ。

 何者かは主要な国を滅ぼした後、自らが這い出た黒点へと帰っていき、以降沈黙を保っている。だが黒点は未だ消えず、何者かは気まぐれに姿を表しては各地に宿る精霊を捕らえては黒点へと持ち帰っている。

 その所業はまさに悪魔……人々はその存在を恐れ、そう呼んだ。


「悪魔の力には誰も勝てず、世界は滅亡の危機に瀕しました。獣達は黒点に飲まれ、地上には黒い雨が降り、今もなおファルステラは浸蝕され続けています。あの黒点の、悪魔の謎さえ掴めぬままに……」

「っ……」


 ぞっとしない話である。あまりにマンガじみた危機的状況。普通ならその時点で詰みと言えるだろう。諦めたほうがいいとまで思える。

 そんな世界を救えというのだ、この無機的な神様は。なんというか、私の思ってた異世界転生と違う……そう照は思った。

 さらにぞっとしないことに、話はそこで終わらなかった。


「やがて、黒点に飲まれた獣達は帰ってきました。……黒い紋様を携えて」


 黒い紋様を伴って現れた獣達は、みな何かに狂ったように人を襲い始めたという。人を襲ってもおかしくないような肉食の動物はもとより、羊や牛といった草食の動物さえも人を襲い喰らっているというのだ。

 今人間を脅かしているのは主としてその獣達であるとの話だった。


「こうなっちゃオレらにもどうにかするのは難しいもんさ」


 神々の力は信仰の力。その信仰を生み出す人間が減った今、神の力も減っている。そのため彼ら自身もまた動けずにいるという。


「そこでオレらは考えた。『キミらにやらせりゃいいじゃん』ってね!」


 つまり、彼らの言う境界(マージナル)での死者の魂を蘇らせ、力を与えることで世界の"救世主"に仕立て上げよう、と。

 照もまたその一人、転世者(ヴィジター)と呼ばれる存在なのだ……という話だった。


「なるほど、あんたらのとこで起きた問題をこっちに押し付けようってワケ」


 とまあ、要約するとこういうことになるのだが。正直な話、神様にできないことを人間ができるわけないと思いもする。

 ならばそこには別の狙いがあると見るべきだが……


「で、それ私に何かメリットあるの?」

「そうだね……君の言う"問題"を完全に取り除けた暁には、君の願いを三つ叶えてあげる……なんてのはどうだい?」


 と、少年のような鎧。試すかのような、挑発的な口ぶりだ。「どうせできないだろ」とでも思っているかのような。

 やはり裏がある、照はそう感じずにはいられなかったが、それは言わなかった。


「それは、どんなことでも?」

「このソフィアの名にかけて誓おう。君の願いは何だって叶えてあげよう」

「ふーん……なら乗った。救世主、やってやろうじゃん」


 にやりと笑い、照は答えた。

 叶えたい願いなど決まっている。現世に帰って、弟にもう一度会うこと。照にとってそれ以外はどうでもいい。ガチャが引ける魔法のカードでも大量にあれば嬉しいが、過ぎた欲だと照はその考えを打ち消した。

 少年のような鎧はすこし訝しげに照を見た。なにか不思議なものを見る目だった。


「よし、なら次の話だ。クラウン、こいつの霊魂解析を」

「畏まりました」


 少年のような鎧の合図で、翼の鎧は額の"眼"を開いた。"眼"が放つ光に照らされて、照は少々の不快感を覚える。何か魂の深奥を覗かれている……そんな気持ち悪さが照の体を走る。

 ある種の危機感を覚え、照は祝詞を脳内で唱える。

 すなわち、祓いたまえ、清めたまえ。守りたまえ、幸いたまえ、と。

 結局、何のこともなく光は照の体を走り終えた。……その後のほうが気分的には問題ではあったのだが。


「……ソフィア様、これは……」


 怪訝な顔で、翼の鎧は四色の弱々しい光に染まった額の"眼"を抉り出し、それを少年のような鎧に見せる。

 そして少年のような鎧の反応は、


「……………………ぷっ」


 これである。


「へははははははははは! 何だコイツ、魔力全然持ってないじゃん! エーテル体、アストラル体、メンタル体全部平均以下! コーザル体は普通持てないから当然として! ここまでくると傑作だね!」

「流石に、これは私にも擁護しかねます……」

「こっ、これで救世主サマ目指すって、バッッッッッッカじゃないのォ? へはははははははは!」


 ……何だ、この一方的に笑われて、かつ憐れまれてる状況は。そうでなくともこっちはわからないことだらけだっていうのに。

 なんて怒りを向けてもどうにもなりそうにないことがわかるので、照は続きを促す。


「で、次何するのさ」

「ん? あぁ、まあいろいろとやるよ? 向こうの基礎知識とか、能力をキミの魂に刻み込むんだが、まぁキミたちが最低限戦えるようにね? でも正直キミに合いそうなモノがひとつもない。いやあ残念だ、残念な救世主サマだ」

「うぜえ……」


 この煽り全一クソ鎧、ほんとに殴ってやろうか。

 ああ、不快だ……。

 照の頭の中でイライラが駆け巡る。そのせいか対応が段々としょっぱくなっていってるきらいがあった。それはまあ、無理もないが。


「じゃあそんなのいらない。自分で何とかするから」

「へえ、できるの、キミに? でも、そうだね。一応『そういう決まり』だからボク達の力……"贈り物(ギフト)"は受け取ってもらうよ。クラウン」

「承知。境界人(マージナルマン)用に拵えた書です。お読み下さい」


 翼の鎧は備品の机から一冊の本を取り出し、照に渡す。照がそれを開いてみると、何やらよくわからない用語の羅列、奔流がそこにあった。


「そいつは転世者(ヴィジター)に与えられる神々の力"贈り物(ギフト)"を系統別に分けたものでね、転世者(ヴィジター)はこの中から一つ、自分の力にできるわけさ」


 よくある話だ……などと照は思ったが、そこで文句を言っても仕方がない。適当にパラパラとめくって良さげなものを選ぶことにした。

 その本には長々とギフトの仕様が書いてあった。……が、照はほとんど読んでいない。本を渡された時の心象でさえ「いやマジで心底どうでもいい」だったのだ。

 そもそも、決まりだからと半ば強制的に渡されるものなのに、そのどれもこれもが魔力を使うらしいというのはどうなのか。

 特に照は魔力がないらしいので、ギフトに意味は殆どないはずだが……


 なんてことを考えていると、照は"アイテムクリエイション"というギフトを見つけた。

 吟味するのも面倒なので、適当に目に映ったそれを選ぶことにした。


「ん……じゃあこれで」

「……へぇ~。このハズ……いや万能スキルをねぇ……?」

「おい今何つった?」


 言った。

 ハズレと確かに言った。


「……いや。確かにコイツは万能だけどもね? 自分の魔力値考えたほうがいいんじゃないのぉ? あとアタマ使うよ? アタマ使うよ? キミにできるかなぁ? でっきるっかなぁ? でぇきないよねぇ~~~?」

「うっせえ。うぜえ。ていうか他のもだいたい魔力だかなんだか使うじゃん。変わんないならいいよ何でも」

「ふーん。まあいいや。じゃあクラウン、後の手続き任せた。オレ次の魂ひっ捕らえてくるから」


 翼の鎧が何かを言う前に、少年のような鎧はその身を光の粒に変え、この部屋を抜け出していった。それを見て、翼の鎧はため息を吐く。

 改めて翼の鎧は照に向き直ると、謝罪とともに胸に付いた紋章を右手で取り外し、少し距離を取って照に向けた。


「これより贈り物(ギフト)を授与致します。失礼をお許しください」


 紋章から両刃の剣が飛び出し、照の目と鼻の先でその切っ先が止まる。突然のことに照は少し体を縮こませた。

 その切っ先から放たれる光が照の体になじんでいく。ただ、何か芽生えたという実感はなかった。


「さて、次は――――」


 それからの事務的な種々の手続きは驚くほど円滑に進んだ。現地の言葉は彼らレーヴ十神による統一言語で、容姿や性別なんかも好きに変えられるという。ようは不都合はないという……聞き流していい部分だった。

 ……などなど、なんとなくぼんやりしている内に一通り終わり、程なくして照は暗雲立ち込めるファルステラの大地へと放り込まれた。


「あなたの歩まれる道に、レーヴ十神の導きあらんことを」


 その一言が照の最後に聞いた言葉で、星空に包まれて綺麗なわりには備品はレンタル臭いその部屋での記憶は途切れた。


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