表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼方の星のミソロギア  作者: このは
6th:手を伸ばせ! 祈りを紡ぐ人の願い
23/114

23:未知との遭遇(4/6)~邪悪の木

 それは、数刻前のこと。

 虚界悪魔(ディアボロス)マテリアによる学都ギーメル襲撃から時は遡る。


 ノース大陸北方の内陸部、砂漠の最中にある湖の上に建設された巨大都市タヴー。

 ウァレンティヌス魔導帝国の首都であったこの都市は、今や人の気配も、獣一頭、虫の一匹さえも見つけられない廃墟となっていた。

 ――――いや、もはや廃墟ですらない。

 人の叡智と息吹の結晶、文明の象徴たる建造物は何一つ見当たらず、その残り香さえも感じられない。僅かばかりの瓦礫と、乾いた風だけがそこにある。

 何もかもが黒き虚の影へと消えたのである。


 この地の空には今、樹があった。

 星にさえ届きそうなほど高くから天を穿つ巨大な幹と、ノースの大地を覆わんばかりの無数の枝。

 人間はそれを、"虚無の樹"と呼ぶ。


 世界樹が如き広大な樹を遡り行った、その根本。

 暗闇の中で、マテリアは彼らにしか理解できない"言葉"を紡ぐ。

 魔宴(サバト)の合図であった。


「――――虚列ノ十ガ招集。要求。"計画"ノ進捗報告ヲ」


 深く暗い闇の中に、青白い輪郭が浮かび上がる。

 異形。一言で言ってしまえばそう言い表せるその姿。見る者によっては狂気を呼び起こすだろううねりと艶めき。虚界悪魔(ディアボロス)マテリアである。

 一つ、一つと輪郭が現れ、蠢く。

 その数、十。

 世界に現れた黒点の数と一致していた。


 マテリアの呼びかけに、輪郭の内の一つが応える。

 呼応して、他の輪郭もまた。


「虚列の一が応じる。吾等、進捗は良好也。繰り返す。吾等、進捗は良好也」

「"樹"は順調。だが"実"を成すにはいささか足りぬ」


 輪郭の一つが唸りを上げる。それはまるで機械の駆動音が如き響きだった。

 それらが"天"を仰ぎ見れば、頭上に広がるは大樹。人間達の言う"虚無の樹"だ。大地に伸びる枝の合間に、更地となった湖上の巨都が見える。


 虚界悪魔(ディアボロス)は"虚数"の存在。彼らを支配するのは虚数の理である。実数世界(ファルステラ)の物理法則ではない。

 いかなる現象においても、それが実数ならば望まぬ干渉を受けない上に、重力にさえ従う必要はない。

 故に、このように大地を()()()()ことも可能なのである。


「やはり"苗床"は必要となるか」


 ざわめきが起こる。

 "樹"を育て、"実"を成す。彼らにとって、それは重要な案件であった。


「なれば今一度、神々を討ち滅ぼす時ぞ」

「事を急くな。愚神などいつでも滅ぼせるであろう」

「その通り。彼奴ら、自ら、証明、済」


 輪郭達は沈黙する。

 その静寂を破ったのは"虚列の十"……マテリアだった。


「閑話休題。憂慮スベキ事案ガ在ル」


 輪郭達は一斉にマテリアへと視線を向ける。


「何だ。申してみよ、我が同胞」


 十の輪郭の中で最も巨大な――実際のところはともかく――印象を受ける輪郭、自らが名乗るところの"虚列の一"が言うと、マテリアが答えた。


「コノ世界ニ現レタ神性。取ルニ足ラヌと放置シテイタガ……」

境界(マージナル)の神性……やはり障害になり得るか」


 彼ら悪魔が障害と見なした神性。それこそ、現世より招かれた太陽神の分け御霊、天宮(あめみや)(てらす)である。

 照の力は彼らにとって"取るに足らない"ものであったが、それはファルステラでの信仰がほぼ無い(・・・・)状態での話だ。

 その神性には成長の余地がある。

 自らの脅威になり得る存在、潰さなければならない……悪魔達はそう考える。


「であれば吾が――――


 "虚列の一"が言いかけると、マテリアはそれを遮る。

 その必要は無い、と。


「コノ役目、妾ガ請ケ負ウ。彼ノ神性ノ亡骸、妾ガ"苗床"ニ捧グトシヨウ――――」


 輪郭達が蠢いて、低い笑い声が闇の中で響いていた……。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ