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彼方の星のミソロギア  作者: このは
4th:洗礼! 赤首巻きの少年
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16:フィフス・エレメント

 その"女"が砲弾のごとく降ってきた時、予感がした。


 ――――この"女"についていくべきだ。


 エルタイルの心の中で、何かがそう訴えていた。

 それが何なのかは、当のエルタイルには説明できない。

 けれど、この滅びる間際の泡沫のような世界で、最後の刻になるかもしれない日々を、退屈なんかで終わらせたくはなかった。

 だからそれは、エルタイルにとって天啓に近いものだった。

 信心の薄いエルタイルではあったが、彼にもそう感じられるほどの何かが、その偶然にはあったのだ。


 今、エルタイルたちは学都ギーメルを脅かす黒紋獣(スティグマ)、"光の輪のギデオン"を討伐するためのちょっとした冒険に出ている。

 そして、その道中。


「そういや、どうやってギデオンを探すつもりなんだ?」


 エルタイルはふと疑問に思って聞いてみた。

 すると、天宮(あめみや)(てらす)が返した言葉は、


「ん、いや、黒紋獣(スティグマ)化した動物は人を襲うんでしょ? それに虫なら光に寄ってくるんじゃない?」

「は?」


 これである。

 つまりこの"アレフ村を救った神様"は、この黒い雨降るベート平原でただただ野営してればいつかは襲ってくるとお思いなのだ。

 エルタイルもこれには眉をひそめ、口を大きく開けた。


「んな悠長に構えてたら人類滅ぶわバカ!」

「だよねー……もうちょっと情報聞いときゃよかった」

「非効率にも程があんだろ……」


 あまりにも無計画である。当然、そんなことで本命にお目にかかれるとは限らない。だというのに、なんというか……マイペースがすぎる。

 思わず呆れ顔になるエルタイル。当の照は何を考えているやら、その背中からはまるで読み取れない。


「……ねえ、エルくん」

「何だよ」


 不意に照は立ち止まって、エルタイルに呼びかける。

 エルタイルは何事かと思い答えてみるも、


「疲れた。休憩しよ?」


 これである。


「あーなんか天丼食べたい」

「クソ……調子狂う……」


 このあまりにもマイペースな自称神様の調子にまんまと乗せられているような、そんな感覚をエルタイルは覚えた。

 これなら退屈な方がマシな気がしてくるというものである。「オレの第一印象返せ」なんて……口に出しはしないがぼやきたくなった。


「あっ」

「今度は何だよ……」

「メガロマンティスが好む匂いの香料もらってきてたんだった~」

「……このクサレヘッポコ女もどきが……」

「もどきはやめてよー。ツイテナイヨ?」

「それどう証明するんだよ。ふざけんな」


 ああもう嫌だ。疲れた。

 エルタイルは肩を落とし、大きくため息を吐いた。


 そんなわけで雨除けを張り、しばらく休むことになったわけだが、照はすぐに暇をこじらせたようだ。「ゲームやりたい」など、エルタイルにとって訳の分からないことをぼやいている。うるさい。

 やがて照の矛先はエルタイルに向き、照はいろいろな話をふっかけていた。

 その多くは取るに足らないくだらない内容だったが……、


(……やっぱコイツ、世界のことまるで知らないらしいな)


 というのは、話した感触でエルタイルにはわかった。

 世界の成り立ちや歴史……そうした諸々はエルタイル自身もよく知らない上にどうでも良かったし、照にとってもそんな情報は余分三兄弟だ。両者ともにそういう認識だったので、そういうことは話していない。

 では何を話したのかといえば。


「五元素?」

「そ。世界を構成する五つの元素のこと。仙術、魔導、霊術、神威……ようは"魔術"の素みたいなもんだよ」

「へー。どんなのがあんの?」

「マテリアル、エーテル、アストラル、メンタル、コーザルの五種類。……なあお前ちゃんと聞いてるか?」


 エルタイルが指を折り一つずつ数えながらした説明を、照は興味あるんだかないんだかといった様子で聞いている。

 なんかだいぶ教えがいがないな。こいつ放っときゃ自分で解決するんじゃないか? そういうやつってだいたいこうなんだよな。

 そもそもこいつカマかけてんじゃないか? いやカマなんだろうが……あれ、なんか混乱してきた。やめよう。これ以上は危険だ。

 エルタイルは絡まりつつあった思考の糸をいったん解くことにした。


「聞いてる聞いてる。魔導はアストラル体を使う……だっけ?」

「お……おう。エーテルを使うのが仙術とか気功とか言われるもので、魔導はアストラル体。んで魔導ってのは結構体系化されててな――――


 っと、いけないいけない。これ以上はドツボだ。こういうのを話すのは楽しいが、それ故に喋り出すと止まらなくなる。

 魔導の発動のために"コーデックス"という構文をアストラル体に刻むとか、

 そのコーデックスは少しミスると正しく動作しないとか、暴発するとか、

 即興で組むのは至難の業だから出来合いのものをストックしてメインに使う数種類のみに絞ってるとか、

 そんな魔導士あるあるを色々と語れるのだが、聞き流されるだけだろうな、とエルタイルは思った。

 自制し、頭を振り、話を遮る。


「んっ……、神の力を借りる"加護"や精霊の力を借りる"巫術"はメンタル体、お前ももうお察しだろうが"神威"はコーザル体を使うってわけ」

「エーテルだかアストラルだかの違いは?」

「さあね。アストラル以外は専門外だし。ただ――――


 エルタイルは袖を捲り、腕の肌を照に見せる。それは今でこそ何もないただの二の腕でしかないが、彼が少し意識を集中させると、黄白色に光る紋章の羅列が浮かび上がる。

 魔導士が魔導術を使う際に構築する"コーデックス"だ。こうやってすぐに起動できるよう、自身のアストラル体に刻んでおくのが一般的な魔導術の使用法となる。


「こうやって励起させないとマテリアル以外は目に見えないってのは共通」


 五元素の励起光はそれぞれ違う色を発する。エーテル体は橙色、アストラル体は黄色、メンタル体は緑色……といった具合に。

 黄白色の励起光を、照はまじまじと見つめている。


「……ふーん。目に見えない、ね」


 何やら意味深い様子で呟く照だが、その姿がエルタイルには妙に引っかかった。


「何だよ。何かあるなら言えよ」

「いや。実際のとこどうなのかなって思ってさ。君達の目に見えてる獣達って、()()()()()()姿()()()?」

「……そりゃどういう――――


 言い終わらない内に、急に何かに弾かれたように視界がブレた。


 

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