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彼方の星のミソロギア  作者: このは
3rd:決意の時! 幼き子と交わす誓い
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11:彼ら彼女らの事情

 瓦礫と焼け跡と、獣の死体だらけとなった村。天宮(あめみや)(てらす)は乱暴に倒された樹木に腰掛けて、作業に勤しむ村人を眺めていた。

 アレフ村のひとまずの危機が去ったとは言っても、まだまだ問題は山積みだった。


「村人の供養に獣たちの死体の処理に瓦礫の片付け……食料も重要だし村の安全のことも考えないと……いろいろ大変だなあ……」


 ざっと確認してみただけでもこれだけの量の仕事がある。はっきり激務と言っていいほどだった。

 特に重要なのが、食糧と村の安全のこと。


「食料はー……まあ、高台の塔に保存食があるらしいし大丈夫か。畑とかも大きな被害はないみたいだし、心配ないか」


 どうやら、あの黒い紋様の獣たちは人にしか襲いかからないらしい。出火し燃え広がった分以外は特に被害もなかったそうだ。

 だからといって人が襲われては身も蓋もないというものだ。

 十中八九、別の場所から流れてきた獣達が村を襲ってくるだろう。その状況が変わらなければ、安心なんてできやしない。


「うーん。手持ちの札でなんとかなるかなあ。アサかサカキか、その辺にあればいいんだけど……異世界だしなあ……」


 とはいえ「適当に似たのを見繕えばいいか」とも思うので、簡単に流しておく。問題はそこじゃない。

 ともあれ、現状を整理しているというのが今の照である。

 声に出してみたほうが頭の中で整理できるだろうということで、独り言は恥ずかしいのだが敢えて口に出しているところだった。


 そして、照にとって重要な事柄がひとつ。

 暇でやることがないので、照はそれに関する実験を時折試みている。今もまた。


「クリエイションスモーク、展開……コンディションセット、ウェポン……起動、アイテムクリエイション……!」


 紫色の煙に右手を突っ込み、その中にある何かを掴んで引き抜く。

 すると、照の右手はやたら細い木の枝を持って、空間に再び現れた。


「ハ……またか。やっぱ普通にやるとこうだよね」


 照は"アイテムクリエイション"の使い道についていろいろと検証していた。

 傍らに積み上げられた無様な"失敗作"の山を見て、照はため息をつく。今その山の上にまた一つ、薪にもなり得ない木の枝が乗った。


 なぜこのようなことをしているのかと言えば。

 犠牲者や生存者の確認、瓦礫の撤去……それらについて、照が手伝えることなどないのである。照は肉体的には非力で、邪魔になるだけなのである。


「作業は我々が行いますから、テラス様は獣達が現れた時のために待機していて下さい」


 厄介払いみたいな言い方だ。少なくとも、照はそう感じたのだった。

 しかしこのゴミスキル、本当にどうにかならないものか……と照は考える。


「お尻拭く紙すら作れないんじゃ産廃もいいとこだよね。運営に上方修正訴えたくなるレベルだよこれ」


 創造術式の理論や利用法など、事細かな仕様がスキルを選ぶ時に渡された本には書いてあった。……のだが、照はそれをロクに読んでいなかったのである。

 とはいえ、今までの検証から大まかな仕様は把握済みだった。その上で照が出した結論は、「やはりゴミ」というものだった。

 その仕様というものを照がまとめたところによると――――


 まず、最重要な仕様として、術式に与える条件と魔力量で創造できる物質は変わる。そして創造できる物質は完全ランダムとなる。いわば"ガチャ"だ。

 そして"コンディション"と呼ばれるステータスが創るモノの大枠を決める。

 ある程度は勝手に分類されるようで、例えば"ウェポン"を選択すれば棒状の物質が生成される。"ウェポン"は大きい分類で、ここから細かい分類をすれば弓や鉄球なども出てくるようだ。

 要は潤沢なリソースがあり、かつ条件をうまく与えられるのであれば、知識のない人間にも扱える優良スキルではある。

 しかし、どこまで細かく条件を与えても結局はガチャである。最後のところで運任せなので使いにくいにも程があった。


 更に"マニュアルモード"というものもある。コンディションセットを"マニュアル"にすればこのモードとなる。どうやら一から分子構造を構築するモードらしく、このモードではいわゆる"ガチャ"は無い。

 それは物質の組成に精通している必要はあるが――――逆に言えば、"科学者"ならこのスキルの本領を発揮できるということでもあった。

 そうなった場合、アイテムクリエイションは文字通りにチートスキルとなる。

 しかし当然、照にそんな知識はない。

 これでは宝の持ち腐れ。猫に小判、豚に真珠、馬鹿にSNSだ。


 そもそも「敵に物理攻撃は効かない」のだから、結論から言って役に立たないのは変わりがない。

 使えたところで、棒きれを生み出すのにリソースを空にするのでは効率が悪すぎるし。


「世界の危機だってのに、やっぱりあいつら頭湧いてるわ」


 とはいえ、もらったからには使いこなさなきゃ、その、ウソだろう?

 照はそんなことを思い、近い内に活用法を見出さなきゃいけないと漠然ながら考えていた。「別に創造目的で使わなきゃいいだけだから、やりようなんていくらでもある」と考えている節もあったが。


「あんの百々目鬼と煽リストめ、ゲーマーなめんなよ! ぜったい吠え面かかせてやるからな!」


 照は拳を作って、どこにいるともわからないカミサマに怒りをぶつけてみる。

 ……一抹の虚しさを感じた。

 さて、そんな検証も終わりの時が来た。客人だ。


「テラス様、あの、少し……よろしいでしょうか?」

「うん? どうしたの、マリアちゃん?」


 照に声をかけてきたのはマリアだった。その後ろには婦人や少女たちが数人ほど。みな困っている様子に見えた。

 何か用かと聞いてみれば、「塔に保管されていた食料についてなんですけど……」とマリアは答えた。どうやら、保存食関係で何かトラブルでもあったらしい。


 マリアに誘われて塔の地下保管庫を訪れると、そこに見えるはいくつかの棚と樽、それに封をされた壺の数々だった。

 照がそのひとつを覗いてみれば、中には堅焼きのパンやらビスケットやらのごく一般的な保存食。他にも種類がありそうだ。まあ、味には期待しないほうがいいだろう。

 ……何がダメかは、ランプで壺の中を照らしてみるとすぐにわかった。

 カビている。

 他にもちらほら、問題が見え隠れ。"保存"とはとても言えない状態だった。


「こりゃだめだ。だいぶ長い間、中身入れ替えてないんじゃないかな」


 あっちには腐臭を放つ肉の入った壺、あっちにはしなびた野菜。どれも加工がされていないものばかり。保管されていたものの内、ゆうに半分ほどがそうした生ものだった。


「ていうか、せめて乾燥させるとかさ……」

「それなんですけど、仙術に長けた人が用意したものなんじゃないかって」

「仙術?」

「えっと、私もよく知らないんですけど……体内とかに宿るエーテル体の流れを操るとか何とか」

「……なるほど。魔術で鮮度を保ってたってことね」


 照は唸った。それなら確かに、食品を長期間保存することもできなくはない。

 しかしだとしたら、一体誰がこんなもの用意したのか。


「ここって緊急時の避難場所だったんだよね?」

「ええ。でもかなり長い間、村は平和でしたから……昔は仙導師様がいらっしゃったとは聞いていますけれど……」

「で、魔術の効果が切れてこの有様、ってわけ」


 呆れはしない。平和ならば、ある程度仕方ないところはあるだろう。

 保存に魔術を使っていたから安心していたのかもしれないし、あるいは長年、誰も塔に近付かなかったのかもしれない。

 あるいは、管理者が死んで久しいのかも。


「それで、どうしましょう? だめなものは捨てるにしても、これじゃ思ったより保ちそうにありませんよ?」

「うーん……腐ったものをそのままにはしておけないしなぁ……」


 照は腕を組み、頭を捻らせる。

 このダメになった食料を「食べられる」状態にすることは神威の力でどうにかできる。まあ、味や気分とかについては保証しないが。

 マリアは照の顔を怪訝そうに見る。


「……テラス様?」

「ああ、ごめんごめん。ダメになった保存食だけど、とりあえずそのままにしておいて。それよりもさ、マリアちゃん達にお願いがあるんだけど、いいかな?」


 その申し出にマリアは了解したのだが、一方で不思議そうに首を傾げた。


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