情報収集とパオラ
探索者ギルドの大きな建物を後にしたオレは、その足で隣のきれいな建物の商業ギルドに向かう。
商業ギルドはいつも人が混んでいる。オレは金を下ろす手続きだけをして、探索者ギルドに戻る。
金を預かってくれるのは便利だが、実際の金のやり取りに時間がかかる。そのため待ち時間を有効活用するため探索者ギルドへ行く。
探索者ギルドに戻ってからは情報収集だ。ボードや併設された酒場で情報を集める。
「どこどこの店にかわいい娘が入った」というくだらない情報から「ゼレンカ王が異界エリアに出没している。」という噂に「ゼレンカの姫が攻略を始めた。」という噂。王族が一番ダンジョン熱の症状がひどいらしい。
中には、「平原エリアにユニークモンスターが出た。」という有益な情報もある。
ユニークモンスターとは、普段そのエリアに出ない特別な魔物だ。
ダンジョンの魔物は毎日リセットされる。
真夜中のある時間になると、ダンジョン内にいる探索者は強制的に広場にワープさせられる。そして、早朝まで入れないのだ。
そのダンジョンに入れない時間に、その日倒した魔物は復活するし、採った薬草や鉱石も元に戻る。このおかげでダンジョン資源は枯渇しないと言われている。
ただし、ユニークモンスターは復活しない。いつ出現するかわからないし、場所も種類もバラバラで希少価値が高いのだ。そのため倒せれば、いい金になる。その代わり、かなりの強敵だ。
あとは、「閃光の一撃がまた地竜失敗した。」の情報もすでに流れていた。山岳エリアの1パーティーにすぎない「閃光の一撃」の情報が流れていたことを少しうれしくおもう。
「そこのエンチャンターがクビになって新しいパーティーを探している。」という情報を付け加えておいた。スカウトがくるかもしれない。
クランというものがある。ダンジョンに潜れるパーティーは6人までだが、地上にはそれ以上の仲間がいてもいい。つまりパーティー以上の集まりをクランという。
何十人も集めて、最高の6人をバックアップしたり、複数のパーティーを競い合わせたりする。
クランは洞窟エリアの先の異界エリアで主に活動している。異界エリアに潜っている探索者は、ほとんどどこかのクランに所属している。
「漆黒の狼クランが洞窟エリア以下でのスカウトを活発にしている。」なんて噂もあったのだ。
異界エリアに行くまでクランは関係ないと思っていたが、そうでもないらしい。
商業ギルドでの取引の時間になったので、商業ギルドのきれいな建物に行き、預けていた金を受けとる。
これで預金はなくなった。早急に稼がなければならない。
さっそく明日からでも平原エリアに行こうと思った。
家に帰る前に、大家のパオラさんの家へ寄る。家賃を渡すことと体調の悪いパオラさんを診るためだ。
コンコン
「ザパタです。パオラさん、いますか?」
家の扉をノックして呼び掛けて、待っているとエルザが扉を開けてくれた。
「こんばんわ、これはお土産と家賃。パオラさんの調子はどう?」
エルザに帰る途中屋台で買った
お土産と家賃を渡し、尋ねる。
「ありがと、あんまりよくない。」
エルザがうつむいて、答える。
その後ろからパオラさんが腰に手をあてながら、ゆっくりあらわれた。エルザと同じ赤髪の妙齢の女性だ。
「あらあら、わざわざ悪いわね。どうぞ、あがってちょうだい。」
テーブルに座り、もらったお茶を飲みながら尋ねる。
「エルザちゃんに聞きました。調子が良くないそうで、どうしました?」
「あら、恥ずかしいわね。少し腰をひねっただけよ。」
「施療院には診てもらいましたか?」
「そんな大げさなもんじゃないけど、診てもらったわよ。ひねった際に魔力がどうとかいってたわね。ラグシーナの貼り薬で治るらしいのよ。」
ヒトの体には魔力が流れている。その魔力の流れが、ある拍子で異常を起こし、痛みがでる症状である。打ち身やひねったときの痛みは、治癒魔法の《ヒール》などで治るが、この症状には効果がない。
魔力の流れの異常を正す薬が必要なのだ。その薬草がラグシーナである。
「ああ、そうだったんですか。ラグシーナならダンジョンの平原で採れますから、安心ですね。」
「あら、それがね、施療院には今ないって言われて困ってるのよ。最近、品切れらしいわ。」
「貴重な薬草でもないのに、珍しいですね。探索者ギルドで調べてみますね。」
「あらあら、悪いわね。」
「いえいえお世話になってますし、ついでに治癒魔法もかけておきましょう。《ヒール》《キュアー》《コンディチャント》」
「あらあら、ありがとう。」
《ヒール》と《キュアー》は、エンチャンターでも使える初級の治癒魔法だ。
《コンディチャント》は、エンチャンターが使う支援魔法である。《ヒール》との違いは、即効性はないが持続的にキズと体調を回復させるというものだ。
「あらあら、少し楽になったわ。治療代はおいくらかしら?」
「いえいえ、いつもお世話になってますので。長居してしまいましたが、これで失礼しますね。」
治癒魔法の押し売りみたいなまねはできないので、さっさと退散することにした。
「ザパタさん、ありがとう。」
エルザが扉まで見送りにきて、そう告げる。
「ラグシーナは早めに見つかるといいね。おやすみ」
「うん、おやすみなさい。」