浦島太郎
彼は夢を抱きながらも
それを半ば諦めながら
生まれ故郷で
平凡な毎日を送っていた
パッと目を引く容姿ではないが
優しく穏やかな恋人もいて
いずれは家庭を築き
ありふれた幸せに
埋没するはずだった
そんなある日
偶然の出会いが
彼の運命を変える
彼の夢の先にいる
第一人者が
彼の才能に目を留めたのだ
『こんな田舎で
頑張っても先が知れている
本気で才能を伸ばしたいなら
都会に出てみるべきだ』
憧れの人のその言葉に
彼は生まれ故郷から
旅立つ決意をする
『俺は必ず成功して
ここに戻ってくる』
行かないで欲しいと
泣いて引き止める恋人に
そう告げて彼は
都会へと出て行く
夢を追いかける日々は
苦しくとも
充実した毎日
更に都会の
華やかな生活は
彼に故郷を忘れさせる
そしていつしか
見ていた夢は現実となり
走り続けてきた彼は
ある日ふと立ち止まる
思い出すのは生まれ故郷と
そこに置いてきた恋人
『そうだ
今こそ帰ろう
そして彼女を迎えに行こう』
決心して故郷に帰った
彼が見たのは
知らない男と
平凡だが幸せな
家庭を築いている
彼女の姿だった
彼女は懐かしさと
幾ばくかの苦さを湛えた瞳で
彼を見つめて言う
『私にもあなたにも
同じだけ時間が流れているの
いつ果てるとも知れない
待つだけの日々は
私には長すぎたわ』
彼女の言葉に
彼は初めて
故郷を離れてからの
時間の長さを知るのだった