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第3話 入学する妹

 この休みは大人びた妹(異世界の姿)ができるわ、魔物と遭遇して戦闘になるわと心休む暇がなかった。そんな休日を過ごしても学校に行かなければならない。

 私が花園高校の制服を着ていると、里奈が例のラノベ『ドキ学』を持ってやってきた。そして、制服を着ている私をみて、電撃でも受けたような表情をして手に持っていたラノベを落とす。


「そ、それは『ドキ学』に出てくるジャスティス学園の制服!? ほら見てください。ほぼ同じです!」


 キャーキャーと喜んでいる里奈が指をさしているラノベの表紙を見ると、私たちの制服にそっくりな服を着た男子が女子たちに囲まれている。


「どれどれ……まあ、セーラー服だからどこも似たようなものにはなるけど、言われてみると首周りのデザインは似ているわね」


「ええ。これは預言の書に違いありません。ちょっと着替えてきます。コール、ゲート」


 里奈が異世界に通じるゲートを開いて、押し入れの向う側でドッタンバッタン大騒ぎしながら学校の制服(偽)に着替えてくる。すごくうきうきしているけど、私が学校には連れて行かないよというと、里奈はこちらの頭が痛くなるような返事をする。


「大丈夫です。魔法で学校の人らをせん……説得しておくので問題ないですよ」


「いろいろと問題だよ!」


 里奈は聖女ではなく悪魔ではないかと思い始める。すごく良い笑顔にしているけど、やっていることは魔王とか悪魔とかやってそうなことだからね。普段からこうなのか勇者が来てからこうなったのかできれば後者であってほしいとおもいながら、家を後にした。



「ジャスティス!昨日は映画の撮影があったらしいが、見に行ったか。俺は見に行ったぞ。今日は新しく入ってくる子を紹介する」


 私のクラスの担任でジャージ姿の熱血漢、本田正義(ほんだまさよし)。その謎の掛け声と名前から通称ジャスティス先生と呼んでいる。そして、「入ってきていいぞ」とジャスティス先生の声と共に現れたのは満面の笑みを浮かべる里奈。


「すげー美人。モデルさんか?」


「俺、アイドルのことは詳しいけど、あんな人見たことないよ」


「というより外国人? ハーフ?」


 里奈に対して好印象の感想が多い中、一人だけ机に突っ伏している女生徒が居た。倉井真央、休み時間の間は一人で教室の隅で読書を呼んでいる真面目だけど、付き合いの悪い女の子だ。


(なんで、ここに彼女がいるのよ――!?)


 そんな彼女がぶつぶつと何か言っているが、声が小さすぎて隣の人も聞こえていないようだ。そして、里奈は自己紹介を始める。さすがに文字は慣れていないのか、黒板には「ソラノリナ」とカタカナで書かれていた。それを見た先生は、その横に「空野里奈」と注釈を追加した。


「空野里奈です。空野愛華とは姉妹で、私が妹です」


「どうみても外国人だよね。それに愛華に妹っていたっけ?」


「質問はあとに……」


「別に構いませんよ。姉妹と言っても養子なので、血のつながりはありません。それに最近までは諸事情で外国で暮らしていたので、私のことを知らなくてもおかしくありませんよ」


 嘘はほとんど言ってない自己紹介に驚いた。もっとひどい言い訳とか魔法によるごり押しをするかと思っていたからだ。

 私がそう思っていることを知らない里奈は倉井さんの隣へと座り、「よろしくお願いしますね」と声をかけられると真央は魂が抜けたような表情で、「コチラコソヨロシクオ願イシマス」と片言で喋っていた。


 そんなこんなで朝のHRが終わり、1限目からの体育の授業に移る。更衣室で服を着替える際、やはりというか里奈のボインボインな胸に皆の視線が集まる。そんな中、平野英子が後ろからエイッともみ始める。


「ひゃん!?」


「良い胸もっていますな~、その胸半分寄こせ!」


「肩こりがするから渡したいけど、渡せませんよ!」


「その圧倒的な強者の余裕……無い胸を代表してこの私が修正してやる!こちょこちょ……」


「くすぐったいです!」


 里奈のツボが見つけられたのか、英子のくすぐり攻撃で里奈はヒーヒーと言っている。さすがにかわいそうになってきたので、英子を止めに入る。


「もうやめなさい」


「た、たすかりました……」


「ちぇ、お姉さん登場なら仕方ない」


 聞き分けだけは良い英子はくすぐりをやめて、さっさと体育着に着替える。今日は女子がソフトボール、男子がバスケをする日だ。互いに礼をした後、里奈がバッターボックスに入る。昨日の騒動を見ていた私からすれば、ホームランを量産するんじゃないかと心配に思っていた。


「ストライク!バッターアウト!」


 ふらふらとしたスイングであっけなくアウトになった里奈を見て、私は小さく声をかける。


「昨日、あれだけ活躍した身体能力はどこに行ったのよ」


「あれは魔法で身体能力を上げていただけですから、今は普通の女の子の力しかありません。戦場ならともかく異世界のスポーツで魔法を使うのはやはり反則だと思います」


 私は異世界でもそういったフェアプレーの精神があることに感心した。私の心配事は消え失せ、回が進み逆転のランナーを置いた状態で本日ノーヒットの里奈が最後の打席に入る。そんなとき、センター上空をぐるぐると巨大な黒い鳥が空を飛んでいた。


(あれはブラックイーグル。今は獲物を見定めているようですが、一度定めた獲物は死ぬまで追いかける厄介な魔物。試合中ということもあって、誰も気づいていないようですが、私がここで騒ぎだてればブラックイーグルはどこかに行ってしまいます)


 見たこともない鳥を見た私は里奈がなんとかしてくれることを祈っていた。そして、里奈は小さく「コール、セットアップ」とつぶやき、着ている体育着と同じ服を戦闘服として使用する。

 そんなことを知らないピッチャーが1球投げる。レフトに大ファール。


 2球目、打球が後ろに行きファール。


 3球目、外に外れたボールを見る。4球目は内側、のけぞらなければ当たっていかもしれないほどだ。


(こいつ、どうなっている。私たちのボールが見切られている。次は低めに……)


 ピッチャーが首を横に振る。


(いいえ、ダメよ。この子はこの打席、本気を出したように見えるわ。なら私の持つ最高の球で迎え撃つしかない)


(ふっ、打たれても知らんぞ)


(フォアボールで後悔するよりかはマシよ!)


 ピッチャーが思いっきり投げた球はど真ん中のストレート。この場にいた誰もがこれは打てないと思うほどの速い球をバットの芯でとらえる。


「これが私の必殺、ホォォォォォムラン!」


「小川、急げ!」


 里奈が打ち返した球は青空に溶けるかのようにぐんぐんと伸びていく。やや前進していた小川が急いで後ろに戻っていくが、ブラックイーグルに直撃するとすとんと手前に落ちる。小川が急いで、ホームに返球しようとしたが、逆転のランナーがホームを踏んでおり、ゲームセット。


「山本さん、すみません」


「小川、気にするな。バードストライクがあるなんて誰も思わないさ。鳥の死骸はどっかに行ったみたいだがな」


「私のせいで……」


「ウチのエースが本気を出しても、打たれた。それだけだ。次はワガママに付き合わないからな」


「わかってるよ。ああ、そうだ」


 小林さんが里奈のところに行き、「次は負けねぇからな」と言って握手する。スポーツを通じた美しい友情に感動すると同時に急に出現した魔物に不安を隠せないでいた。

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