第11話 リアル肝試し
夏休みが始まり、宿題をコツコツと終わらしていたある日のこと、別の学校に進学した隣町に住む美香から肝試し大会の案内が届いた。地域の人たちが主催しており、実際の神社で行われる本格的な肝試しだ。面白そうなので、里奈を連れて参加することにした。
「肝試し……幽霊を見て怖がった女子が主人公に抱きつくあれですね」
「そうそう。賽銭箱の前におかれたお札をとって、スタート地点に戻ればいいみたい。終わったら、お札をスタッフの人に渡すと、お菓子の詰め合わせが貰えるんだって」
「……ところで、幽霊の何が怖いんですか?」
「だって何もないところから人が見えたら怖いでしょう」
「……そうですよね、異世界でした。私たちの世界では魔法を使えば視認できるんで、幽霊退治とかアンデッド退治があるんですよ。だから幽霊を見てもそう驚かないというか、『追加報酬GETだぜ』『キッチンに現れるG』みたいな感じで驚かないんです」
「いや、Gは驚くでしょ」
「この世界でもGは居るんですね……この家ではみたことないですけど」
幽霊を黒いG扱いにするのはどうかと思うけど、異世界の風習の違いなのだろう。ここ最近、異世界の話に慣れたかなと思っていたけど、まだまだ違いが合って面白い。「留守番する?」と聞いてみると、幽霊はともかく肝試しには興味があるみたい。
というわけで、里奈を連れて肝試し大会の会場へと向かった。近くには警備の人が建っており、夏祭りのようにいくつかの屋台が並んでいる。あれ、地味に高いし美味しくもないのに何故か買ってしまう魔の魅力があるんだよね。
「里奈、肝心のイベントはまだだからって買いすぎじゃない」
「焼きそばにチョコバナナ、綿菓子。あとはかき氷で行ってみたい異世界の屋台コンプリートです」
「全部食べ物ね」
「異世界の料理って味付けが濃いですけど、慣れたら美味しいから困ります」
「そう? 日本の料理ってうす味が多いと思うけど」
「あれでうす味とかないです。考えてください、味付けが塩かビネガーくらいの世界を」
「ビネガーって酢のことよね。毎日、酢ものと塩味……飽きるわ」
「でしょう。私は王族なので、コショウやスパイスの香辛料を手に入れやすかったですけど、それでも希少なものなので毎日の料理に出されるようなことはありませんでした」
「王族でも食事はそんな感じなんだ。今、思い出したけど里奈ってお姫様だったね」
「『だった』とはなんですか!? 『まだ』姫ですよ!」
「普段の態度のせい」
「ぐぬぬ……」
里奈が言い返せずに悔しそうな表情をしている。だけど、かき氷の屋台を見つけた途端、ぱっと明るい表情に戻り、ブルーハワイを頼んでいた。昔から思っていたけど、ブルーハワイってなんでブルーハワイ味って呼ぶんだろうね。何味って言われると困るけど。
「頭が、頭がぁぁぁぁ!?」
(知ってた。あんなにガツガツと食べたらそうなるよ)
頭がキーンとなっている里奈を座らせて、頭痛がおさまるのを待った。しばらくすると、頭痛がおさまった里奈は同じことを繰り返すまいとゆっくりとかき氷を平らげた。
「あれは巧妙な罠ですね。毒なら分かりますが、あれは避けようもありませんでした」
「いや、あれはアイスクリーム頭痛って言って普通に起こる奴だから」
「では、向こうでも起こってしまうと。これは気をつけないといけませんね」
うんうんと頷いて、空の容器をゴミ箱に捨てる。そして、今日のイベントの目玉である肝試し会場へと足を踏み入れる。そこには私たちと違って着物姿の美香が居た。
「美香、久しぶり~」
「愛華も元気にしてた? その子が妹の里奈ちゃん?」
「はじめまして、美香さん。里奈といいます」
「きれいな子だね。肝試し大会なのにお祭り会場みたいになっているけど、毎年のことだから気にしないでね」
「ああ、そうなんだ。ここでの肝試しって初めてなんだよね」
「へ~、じゃあとびきり怖い幽霊をみせてあげるよ。うらめしや~」
「美香が幽霊でも全然怖くないよ」
「そう? 番号札は貰っておいたから、もうじき順番が回ってくると思う」
順番が私たちの番に回ってくる。参道の横に配置されたお化け役の人が「うらめしや」と言って墓のオブジェの後ろから現れ、私たちはキャーと言って互いに抱きつく。
(……どこが怖いのか分かりません)
「里奈ちゃんは怖くない?」
「はい。肝試しって本物の幽霊もいるんですね」
「……本物?」
「そうですよ。あれとかあれとか、他にも本物の幽霊は居ますよ」
里奈が指さしたのは一つ目小僧や火の玉など、肝試しには定番の妖怪たちだ。中身が人間と思われる幽霊役も不審に思ったのか一度振り向いたが、「誰かのコスプレ」「手の込んだイタズラ」と思ったのか前の人たちを驚かしている。
「もしかしてシャドウ?」
「どうでしょう? 原生の幽霊という可能性もあります。どうします、退治します?」
「向こうから手を出さないなら良いよ。変に面倒事に巻き込まれたくない」
「ねぇねぇ、なにこそこそと話しているの」
「別になんでもないよ。あの幽霊なんなのって聞かれたから、答えていただけ」
「なるほど。それにしても今年の幽霊はみんな、ハイクオリティだね」
(そりゃあ、モノホンがいるわけだからね……)
私が心の中でそう思いながら、先に進むと境内でお札を配布している頭部が山羊の頭蓋骨のいかにもボスキャラ風の男性が低い声で、子供たちにお札を渡していた。
「何やっているんですか、リッチーさん」
「これはこれはリィナ姫。いえ、今は里奈でしたかな」
「もしかして知り合い?」
「知り合いも何も黒騎士さんの部下で16人将と呼ばれる幹部、死将リッチーです。当然戦いましたとも」
「ワシはリッチーですからな。万が一、敗れた場合に備えてバックアップ体を作っておくのは基本。といってもオリジナルは滅んだことで、今のワシは全盛期ほどの力は出せん。お主だけでも討伐されてしまうかもしれん」
「そんなリッチーがなんで町内の運営スタッフに?」
「この街に魔王様が住んでおるからに決まっておる。あいにく魔王様は多忙の身、ワシがこうして手伝いをしておるわけじゃ。人手不足と嘆いておったから、ワシの部下も参加させておいた」
道中で出会った本物の幽霊や妖怪はこの人の部下だったのか。どおりで人を襲わないわけだ。だって上司が人を襲う気がないもの。
「リッチーさん、暖かい飲み物置いておきますね」
「かたじけない」
リッチーが紙コップに入っている熱いお茶を飲み始める。なじんでいるのは魔法のせいだとしても、熱い寒いとかリッチーにあるの?と戸惑った。
「用が済んだなら、さっさと帰れ。後ろがつかえておる」
「すみません」と謝って、何かこそこそと話している美香と里奈の手を引っ張ってスタート地点へと戻る。
「いや~、本当、今年も来れて良かった」
「私もここで肝試し大会があったなんて知らなかったよ。また、来年もこようね」
「そうだね、また来年も……一緒に行こう」
また離れ離れになるからって、涙を流すほどでも無いのにと思いながら、私は手を振る。バスはすでに終点を超えているので、電車で帰路についた。
それから数日後のある日、美香と同じ学校に通う友達から連絡が来た。
『ねぇ、美香が交通事故にあって数日間生死を彷徨っていた話、聞いた?』
「そんな話、一度も……」
『私もついさっき、聞いたんだけど8月×日に飲酒運転のトラックに轢かれたんだって』
(えっ、その日って確か……)
その日の翌日、美香は私たちと一緒に肝試しをしていたはずだ。少なくとも怪我をしているようには見えなかった。じゃあ、あのときの美香はいったい……
困惑している私に追い打ちをかけるように友達は話し続ける。
「しかも、峠かもしれないと言われた夜に急に回復したらしいよ。本当、奇跡みたいだよね」
奇跡……それを起こせるような人物は目の前でポテチをむさぼり、アニメを見ている。友達との話を終え、里奈に話しかける。
「里奈、ありがとう」
「何の話ですか?」
「ううん、なんでも」
「変なお姉さま」
きっと里奈にとっては美香を助けたのは当たり前のことなのかも知れない。彼女の性格なら、困っている人が目の前にいたら、すぐ助けると思うから。でも、友達を失わずに済んだ私はだれも知らないところで、誰からも感謝されずに助ける里奈を誰よりも愛しいと思った。




