予想もしなかった出来事
次の日から、学校は……というか、このクラスが登校は禁止になってしまわないが、そんなことはなく。
むしろ、クラスメートの八人が自殺をした以上、学校にいた方が安全ということになったらしい。誰かに、殺されたわけでもないのだから。
……と、これをあくまでも説明されたわけではなく、なにやら理屈っぽいの固めて話していた教師の話をまとめると、こういうことになる。
まあ実際、登校禁止にして、昼間一人になる奴も多いだろう。そこで、なにをしでかすかわからない。ならば、人の目がある学校ならば、自殺なんて止められるというわけだ。
これが、自殺じゃなくてもだ。何者かによる殺人だったとして……というか俺はこっちの方を考えているが……それも、人の目があるところでできやしないだろう。
そういうわけで、次の日も変わらず登校だ。俺にしてはそっちの方がありがたい……昨日登校してなかった奴も今日は登校しているし、謎の犯人を見つけやすくなるってもんだ。
「……ん?」
周りの連中を、観察する……中で、ポケットの中ではスマホが震える。何事かと画面を起動すると、メッセージが届いている。差出人は……緋美也 来音だ。
あの夜の話し合いの別れ際、連絡先を交換することになってしまったが……連絡が来るのは、実は初めてだ。俺から連絡するはずもないため、あいつからの連絡を待つしかない状態なのだが……
いや、待つってのは言葉のあやだな。全然待ってない。
とはいえ、きてしまったものは仕方ない。メッセージを開き、目を通す。
『お昼休みに屋上に来て』
「……はぁ」
まあ、教室でいきなり話しかけられるよりはマシだが……あいつには、親衛隊とやらがついている。まさかそいつらも着いてくることはないだろうがな……おそらく、あの話のことだし。
おそらくもなにも、俺とあの女の間にある接点はそれだけだしな。接点、ってのもおかしな話だが。
あいつが勝手に話しかけて巻き込んできただけだし、な。
「仕方ない……」
いつもの時間、いつもの授業……とはさすがにいかない。まだ休んでいる奴はいるし、教室の空気は暗い。当たり前か。
何人が、果たして真面目に授業を聞いていたことか。そんな時間が、あっという間に過ぎ……昼休みの時間が、やって来た。こういうときは、時間もあっという間に過ぎてしまうもんだ。
「神威くん、一緒にご飯……」
「わり、ちょっと用事が」
せっかくの綾平からのご飯のお誘いを、断り俺は屋上へと向かう。本当なら、あんな狂気にまみれた女よりも、フレンドリー転校生と飯を食っていたいよ。
だが、あいつを放っておくとなにをしでかすかわからない。なにせ、俺の秘密を知っているのだから。
「あ、来た来た!」
俺よりも先に屋上に来ていた緋美也 来音。周りに親衛隊は……いないな。あのしつこい連中も、この女に着いてくるなと言われれば素直に従うってことか。
ま、一対一であるのは俺にも都合がいいってことだ。
「ヤッホー神威くん」
「……」
こいつは……仮にも、クラスメートが八人も一気に死んで、なんでこんなに笑っていられるんだ。やはり、正常じゃないな。
緋美也 来音は、屋上端の鉄柵に、寄りかかっている。もう、鉄柵がぼろぼろで間違って屋上から落ちた……って感じにならないだろうか。それなら、立派な事故だし。
考えても、そんな都合のいい展開が起こるわけもなく。
「で、なんの用だよ」
「もう、わかってるくせに。あ、の、こ、と」
緋美也 来音の側に近づきつつ、俺は問いかける。それは意味のない問いだ……こいつの用は、例の『ストーカー殺し』のこと3しかないのだ。
「……殺してくれってやつか」
「うん、そうそう! クラスであんなことが起きちゃったけど、それでうやむやにされるわけにもいかないし!」
うやむや、ねぇ……クラスで異常が起こっているこの状況で、こんな奴の私用にますます付き合っていられないんだが。
それでも、ヤらないとこいつから解放されない、か。
「……お前じゃないだろうな」
「え? あはは、やだなぁ、するわけないでしょ、そんな得にもならないこと!」
自己申告……とはいえ、この女の言葉に嘘偽りは感じられない。普段ならば疑うところだが、この女の言葉は信じたくないのに妙に信じられるのが変な話だ。
この女じゃない……なら、誰が……
「そんなことより、ほら! 私、いい方法思い付いたの!」
と、腕に絡み付いてくるこいつを振り払う。そんなことより、なんてとんでもない言葉だな。俺にとってもクラスの連中はどうでもいいから、別にいいけど。
いい方法か……正直、こいつの考えたいい方法ってのはまったく期待できないんだが。聞くだけ、聞くとするか。
「とにかく話せ。あとあんま近づくな」
「もう、つれないなぁ。じゃ、話すからよく聞いといてよ? あのね……っ」
「……ん?」
やたらいい笑顔で、殺人の計画を話そうとする緋美也 来音……の口が、止まった。直前に、耳を塞ぎたくなるような嫌な音が聞こえた気がして。しかしそれは、俺にとって馴染みのあるものとなった音で。
……これは、人体を刃物で突き刺した時の、音だ。
「……え?」
緋美也 来音の口から、血が流れる。あの、狂気に染まった笑みを浮かべていた女が、驚愕に目を見開き、なにが起こったかわからないといった表情を浮かべている。
それは、緋美也 来音にとって予想外の事態であることを示していた。緋美也 来音の胸から、刃物が突き出していた……背後から刃物を刺し、それが胸にまで貫通してしまっている。
緋美也 来音の刃物に、誰かがいて……そいつが、緋美也 来音を……
「ぁ……かはっ……!」




