止まらない死
結局その夜、いい案は浮かぶことはなく、解散となった。その際、お互いの連絡先を交換してから。
……俺は、すごく嫌だったが。
自らをストーカーされていると言い、それだけならまだしもそのストーカーを殺す手伝いをしてくれと……緋美也 来音は言った。あいつは狂っている……俺が言うのもなんだが。いや、狂ってる俺が言うくらいに、狂っている。
ああいう人間だとは思わなかった。人というのはわからないものだ。本当ならとっとと殺してしまいたいが…………
とりあえず、様子を見よう。そう思い、帰ってから眠りについた。
「おっはよー、神威くん!」
……翌日、やけにフレンドリーに話してくるのは、あの女ではなく……琴引 綾平。俺に続いての転校生であり、隣の席になった女子。
俺にとって、復讐の対象者ではない……今のところ、邪魔でしかない女だ。
「あぁ、おはよう綾平」
とはいえ、狂女緋美也 来音と接したばかりだからか、とてもいい。なんというか、心が満たされていく感じだ。
あんなのとばかり話していたら、精神がすり減ってしまう。ただでさえ、俺の復讐は負担が大きいものだというのに。
「今日は、なんだか人が少ないね?」
「え、あぁ……そうだな」
指摘されて、気づく。元々クラスの連中なんてどうでもいいが……教室を見渡すと、まだ約半数以上の生徒が来ていない。
もうすぐ、始業の時間だというのにだ。クラスの人間はもう何人か死んでいるとはいえ、それにしたって……
もしや、相次ぐクラスメートの死を恐怖に感じ、学校を休んでいるのか? まあ、それが普通な気もするが……
そう考えているうちに、始業のチャイムが鳴る。直後、担任教師が入ってくる。
「えー、皆さんおはようございます……」
その口調は、どこか重い。その理由はなんであるか……考えるまでもなく、教師自身の口から語られる。
「……」
……要点を纏めよう。昨夜、またもクラスの人間が亡くなった。それも、一人や二人ではなく……その数は十に迫る勢いだという。まだ正確な状況把握は出来ていないが、ほぼ全員が家の中で首つり、飛び降りなどの、自殺に近いもので即死だと。
中には、外出中に何者かに刺殺された者もいる。そのすべてが、生き残ることなく死んでいる。
特に、刺殺された人物は、身体中どころか顔にも何度も刺した痕があり、顔の判別がかろうじて可能なものばかり。
……ちなみに、刺殺されたのは三人らしいが、そのすべてが、海音のいじめに積極的に関わっていた奴ら。俺が殺そうと、後にとっておいた連中だ。
一夜で、こんなにたくさんの人間の死。これがただの集団自殺でないことなど、刺殺された奴がいることを除いても、バカでもわかる。
「……誰だ」
誰かが、クラスの人間を殺して回っている。それも、俺よりもよほどの過激な行動派だ。
俺がこの手にかけたのは、亜久留 兵八と歩乃咲 結可里。他にクラスの中で亡くなった人間は、自殺をしたとされる萩野宮 馨子。ただ、今回の件があった以上、萩野宮も自殺であったとは言い難い。
それが、一夜にして八人の生徒が死んだ。加えて何人かは、俺の予想通り学校を休んでいるらしい。俺と綾平、緋美也 来音。亜久留が死んでも無感情だった白田能勢 亡や、萩野宮が死んで取り乱していた萩野先などを含めて、クラスには半数以上の人間がいない。
……誰だ、俺の邪魔をしているのは。俺の復讐の目的を奪っている。それに、こんな大々的に動けば、今のように学校に来なくなる生徒が一気に増える。それでは、やりにくいから一人一人を時間をかけてヤっていたというのに。
こいつは、手際がいいとか大胆とかそんなレベルではない。下手をすれば、俺の一番の障害になりかねない。
誰だ。このクラスの人間を狙うということは、外部の人間というのは考えにくい。単に見境のない愉快犯の可能性も……いや、それこそこの人数は、狙ってやらないとできない。
となると、犯人は……今、この教室に残っている人間の誰か? それとも、学校を休んだ人間の誰か?
……だが、一番怪しいのは……
「……!」
俺の視線に気付き、のんきに手を振っている緋美也 来音だ。あいつ、ストーカーだけでなくクラスの人間が死んでも、顔色一つ変えてない。
他の連中は、俺も含めなにかしらの変化が、顔に表れているのに。あいつの面の皮はどうなってんだ。
「えー、なので皆さん、ひとまず自習をして、こちらの指示を待つように……」
なにかを言っている担任の言葉なんて、耳に入らない。俺の邪魔をしている、何者か……そいつを、至急殺さなければ。
ほっといたら、なにが起こるかわかったもんじゃない。




