真夜中の話し合い
「こんばんは、神威くん。こんな時間にクラスメートと会うなんて、なんだか緊張しちゃうね」
待ち合わせ場所にたどり着くと、すでにそいつ……緋美也 来音はそこにいた。ベンチに座り、のんきにスマホを弄っている。
これが、これから殺人計画を話そうって奴の態度かよ。
「ねえねえ、どうかな」
ベンチから立ち上がり、緋美也 来音はその場でくるっと回る。どうかな……とは、今着ている服についてだろうか。
制服では、ない。ひらひらとしたミニスカートを揺らし、今話題になっているおしゃれTシャツを着ている。おしゃれについては、俺にはよくわからないが。
いつも学校で見るのとは違う、私服姿。ぶっちゃけ、似合っている。
「……あぁ、いいんじゃないか」
こんな状況でなければ、手放しでそう言えただろうに。
「へへー、ありがとう。神威くんは、制服なんだね」
わざわざ、着替えるまでもない。そう思っていたのだが……まさかこいつ、着替えたいから待ち合わせを夜にしたんじゃないだろうな?
……ダメだ、こいつの考えはわからない。深く考えない方が、いいだろう。
「それより、とっとと済ませよう。殺す奴の詳細と、どう殺すかを教えてくれ。考えてあるんだろ?」
「もー、もうちょっとお話したいんだけどな」
「あぁ、だから殺し合いのお話してるだろ?」
「そういうんじゃなくてぇ」
わざわざ殺しに協力してほしいと言ってきたんだ。もう大抵のことは、考えているはずだ。
問題は、それがちゃんと実行できるものか、だ。この女は狂っているからな……無茶な要求も、普通に言いそうだ。
……ったく。クラスメートを殺すために一分でも一秒でも時間を使いたいっていうのに、なんだってわけもわからないおっさんを殺すことに協力しないといけないんだか。
「じゃ、もう一度確認するね。殺してほしいのは、私をストーカーしてるおじさん。もー気持ち悪くてさ、学校から帰る途中も、家に帰ってからも、あの視線が離れないの。それに、お風呂でも視線を感じることがあるんだよ。それに、無言電話なんかもあるんだよー」
「……それを警察に言わないのは、まだ実害は出てないから、だったか。それにしても無言電話か……それなら、証拠に……」
「公衆電話から非通知でかけてくるんだよ? それに、イタ電くらいじゃ動いてくれないって。あと、私一人暮らししてるから、親にも頼れないんだよね」
……警察に話すより、そのおっさんを殺すことを考えるより……家族に報告した方が、よっぽど現実的だと思うが。やはり、この女の考えていることはわからない。
まあこいつの事情など知ったことではないが……今は、協力してやる。
「で、どう考えてんだ? 殺すと一口に言っても、そう簡単なことじゃないぞ」
問題は、ここだ。この女にとってストーカーでも、俺にとっては見ず知らずの人間。手をかけることに心が痛まないわけじゃないが、それよりも大きな問題は……殺しの、方法だ。
俺に手伝ってと言うからには、すでに頭の中に構想が出来上がっているはずだが。
「ふふ、そう難しいことじゃないよ。まずは、私がおじさんを、人気のないところまで誘導する。いわゆる囮ってやつだね。で、二人きりだと思い込ませたところでおじさんの後ろから、神威君が殴るかなんかして気を失わせる。で、手足を縛る! 逃げられない! これで完璧でしょ?」
……はあ?
「……はあ?」
おっと、思わず声が漏れてしまった。
「あれ、ダメ?」
「ダメってか、その……」
あまりのそのバカバカしさに、返す言葉が見つからない。こいつは、人を殺すということをホントどう考えているんだ……そんなんで、成功すると思ってるのか。
ぶっちゃけ、ありがちな方法だ。一人が気を引いといて、もう一人が後ろから……なんて、このご時世そんなことで成功すると本気で考えてるのは、よほどの自信家かバカだけだ。
「相手はストーカーでも大人だ。殴ったくらいで気を失うかよ」
人は、思ったより頑丈なのだ……それは、これまでに嫌というほど体験している。
「じゃあ、いっそその場でぶすっと?」
「もっと無理だ」
こいつ、やはり……いろんな意味で、狂ってやがる。
もしこの案を本気で採用するなら、ストーカーのおっさんじゃなくてお前を刺してやるよくそったれ。




