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悪魔のような女



「……は?」



 今俺は、なにを言われたのかいまいち理解できなかった。それはそうだろう……だって、それが本当であるならば……


 冗談とは思えないその言葉は……聞き間違いかもしれない。だって……



『殺してほしい人が、いるんだ』



 こんなことを、クラスのアイドルに言われて、真に受けろという方がどうかしている。きっと、なにか別の言葉を聞き間違えてしまっただけに違いない。


 その願いを込めて、俺は……



「えっと……なん、だって?」



 もう一度、言葉を聞くために問いかけた。どうか聞き間違いであってくれ……



「もう、神威くんったら二回も言わせるの? 仕方ないなぁ……あのね。殺してほしい人が、いるの。その人を殺すのを、手伝って?」



 ……残念ながら聞き間違いではなかったし、それどころかより明確な台詞が付け加えられた。殺したい人を殺すのを、手伝ってだと?


 一つ幸いだったのは、殺す行為を俺に丸投げしたわけではないということだが……いや、それにしたって……



「えっと……ごめん、いろいろ混乱してる……」


「そうだよね、ごめんねいきなり。でも、私が言った言葉以上の意味はないよ」



 そう言うと、緋美也 来音はゆっくりと近づいてきて……



「ね、お願い。私を手伝ってくれるだけでいいの。殺しのお手伝い」



 その気になればキスできてしまうんじゃないかというほどの距離にまで顔を近づけ、無垢な笑顔でとんでもないことを言いやがる。


 とてもかわいい顔があるというのに、言葉の内容のせいで素直にそう感じられない。



「殺しって、そんな物騒なこと……やめとけよ。それに、なんでわざわざ俺に言うんだ。親衛隊とかもいるだろ……」


「物騒、か。確かにそうかも。でも、キミには言われたくないかなぁ」



 こんな物騒なことを他人に言う意味が、まず信じられない。俺なら、人を殺すなんてことは、自分の胸の内にだけ潜めておく。


 しかし、この女はそんなことはしない。それどころか、物騒と言う俺に対して、俺には言われたくない、だと?


 いったい、どんな意味が……



「誰にだって言わないよ、キミだからだよ? だって…………クラスメートのみんなが死んでいってるのって、キミが殺してるからだよね?」



 …………は?



「は……?」



 ……思わず、考えていたことが声になって出てしまった。だって、今の言葉はそれほどまでに、衝撃的なものだったから。


 クラスメートが、次々と死んでいるのは……俺が、原因だって? なんで、俺だと? そもそも、なんで殺しだとわかった?



「……なにを、言ってるのか、わからないな」



 だが、ここで動揺を見せてはいけない。さっきは、不意をつかれたが……もう、下手は打たない。


 確証はないんだ。ならば、認めるな。とぼけろ。なに食わぬ顔で、自分はなにも関わっていないのだという態度を、貫き続けろ。


 こいつがどうしてそんな答えに至ったのかは知らないが、平常心を崩さなければ……



「ふぅん、とぼけちゃうんだ。ま、それもそうだよね。でも、わかるよね? キミはクラスメート殺しの人殺し……だから、私のこの気持ちも打ち明けたんだよ? キミなら、私がなにを言っても、引いちゃうことはないでしょ?」



 ……いや、なにを聞いても引かないことは、ないけどな。現にこの間の狂気染みた告白は、震えた。怖かった。


 だが……そういうことか。話す相手が誰でもよかったんじゃなく俺を選んだのは、俺がすでに殺人を犯していると踏んでいるから。


 すでに手を汚している俺であれば、自分が企む殺人計画に巻き込んでも、問題ないってことか。



「悪いが、言ってることがさっぱりわからない。今のは忘れるから、そんなバカなことを考えるのはやめて……」


「ふふ、そんなこと言っちゃって。いいんだよ? もし断ったら、クラスメートを殺してるのがキミだって、言いふらすから」


「!?」



 ……この、女……なんてことを、言いやがる!


 協力しなければ、俺が殺人を犯しているとバラすだと? それがたとえ本当でも偽りでも……その言葉がクラス中に広がるだけで、その効果は絶大だ。


 馬鹿馬鹿しい話だ。だが、クラスの連中は心のどこかでこう思うだろう……こいつに気を許してはいけない、と。


 当然だ、たとえそれが本当でなかろうが……殺人犯だと言われる男に、気を許す人間なんてそうはいない。そうなれば、俺がこの先、クラスメートを殺して回るのはこれまで以上に、難しくなる。



「お前……!」


「嘘だって、神威くんは言うよね? でも、クラスのアイドルの私と、転校して来たばかりの男の子……どっちを、みんな信じると思う?」



 こいつ……自分の立場も、しっかり理解している。どちらが信用されるか、そんなのはっきりしている。


 だから、逆に俺が緋美也(あけみや) 来音(らいね)の殺人計画をバラしても無駄だ。緋美也 来音が嘘だと言えばそれまで、俺はとんでもないホラを吹く人間として、距離を置かれるだろう。


 こいつが、俺が殺人を犯していることを話した時点で、俺はアウト……ってことに、なってしまう。



「……わかった、話を、聞かせてくれ」


「ふふ、そう言ってくれると、思ってた」



 俺がクラスメートを殺したという情報を掴まれた時点で、この女の勝ち、だ。まるで悪魔のような、この女の……

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