協力者になって
予期していなかった、クラスメートの自殺。まあ、人の自殺なんてそう簡単に予期できるものじゃない。
それに、殺す手間が省けたのだ。ここはポジティブに、前向きに考えていこう。
「ねえ、ちょっといいかな神威くん」
その日の放課後……俺は、緋美也 来音に話しかけられた。クラスのアイドルに、にこにこと人畜無害な笑顔を向けられて、警戒心を抱く人間なんていないだろう。
……あの一件さえなければ。
『私の、協力者に、なってほしいの』
その後続いた、千文字にも届く告白。あれは告白は告白でも、愛の告白なんてものではない。いや、たとえ本人は愛のつもりだとしても、聞かされたこっちからしたらもはやホラー以外の何物でもない。ぶっちゃけ怖かった。
しかも、『協力者』になってくれという、肝心の内容……なんの協力をしてほしいのかは、聞けなかったし。
今話しかけてきたのは、前回親衛隊に邪魔されて話せなかった部分の続きを話すためだろう。もちろん、俺としても気にならなかったわけじゃないが……
「……」
また、あんなことが起こるかもしれないと思うと、素直にうなずけない。
とはいえ、ここで誘いに乗らないわけにも、いかないだろう。それに、クラスメートが自殺したというこのタイミングで話しかけてきたということは、なにか関係があるのかもしれない。
「わかった」
「ふふ、ありがと。じゃあ、ついてきて」
緋美也 来音の言葉に従い、俺は彼女の後ろへと着いていく。相変わらず、見た目だけはかなり良い。後ろ姿だけでも、気品があふれ出ているかのよう。
彼女が向かっているのは……この道は、屋上への道だ。どうやら、前回と同じく屋上で話をするらしいな。
「うーん、いい風」
予想通り、屋上へとやってくる。前回と同じシチュエーションだが、前回よりも強い風が吹いている。彼女のスカートが、ひらひら揺れる。
ところで、屋上で話をするにあたって、前回と同じように、親衛隊に邪魔されないかと先ほど問いかけたが……「先に帰らせたので大丈夫」とのことだ。
ああいう連中が、おとなしく帰るかは疑問だが……いや、だからこそ、素直に緋美也 来音のいうことは聞くのかもしれない。
なんたって、来音様だもんな。
「ね、神威くんもそう思わない?」
「……用件を、言ってくれ」
なびく髪を手で押さえ、話しかけてくる彼女はまさに美少女。そんな相手と一対一のシチュエーションなど、こちらが緊張してしまいそうだ。
……確かに、緊張はしている。だがそれは、緋美也 来音に対しての甘酸っぱい青春のものではない。ただただ、純粋な恐怖だ。
いくら美少女でも、あんなホラー見せられた相手にドキドキできるほど、俺の神経は太くない。
「あ、そうだったね。ごめんごめん神威くん」
……というか俺、まだ一度も名前で呼んでいい、なんて言ってないんだけどな。
「私、言ったよね。協力者になってほしいって」
「あぁ。で、内容を聞こうとしたら……」
「そうなんだー、ごめんねあの時は。途中で切り上げちゃって。でも、神威くんだってひどいよ? せっかく私のID渡したのに、連絡全然くれないんだもん」
……そういや、あの時去り際に、この女からラインIDを書いたメモを渡されたんだった。すっかり忘れてたぜ。
「ごめん、ちょっとバタバタしてて」
メモの行方は謎だし、言葉も嘘ではない。クラスメートを殺す計画立てることで忙しかったからな。
「そっかー」
なんとかごまかせたことで、本題へと移ろう。
これだけ引っ張ったんだ。正直、たいした内容でなかったら帰ってしまおう。
「それで、協力者ってのはなんの……」
「うん、それはね…………殺してほしい人が、いるんだ」
……たいした内容でなかったら……どころではない。そのぶっ飛んだ内容は、冗談ではないかと思えるほどのもの。
しかし彼女の、ハイライトの消えた瞳からは……とても、それが冗談だと笑い飛ばすことはできなかった。




