不測の事態
転校生が現れ、なにかが大きく変化する……わけもなく。転校生の恒例行事とも言える、休み時間になる度にクラスの連中から質問攻めを受ける、も転校生琴引 綾平は、笑顔で対応していた。
あの人数を、よくもまあ常に笑顔で交わせるものだ。
「ねえ神威くん、教科書見せてくれる?」
「あ、あぁ」
綾平は、俺に教科書を見せてと距離を近づけてくる。それは隣の席だからという理由があるにしたって、なんだか距離感が近いように思えるんだが……
そんで、それによって周りの男連中の視線が痛い。
「あー、ここ前の学校でやったとこだよー」
聞いてもいないのに、よく話す奴だ……なにがそんなに楽しいんだろうか。
授業中でも、授業が終わってからも関係ない。綾平は、よく話しかけてくる。いや、単に隣の席だし、他の奴らとも話してはいるんだが……
「綾平ちゃーん、またねー」
その日が終わるうちに、綾平はクラスの連中の大半……特に女子と、仲良くなっていて。
「いやいや綾平さん、部活に興味ない? 運動部」
「いやいやここは文化部でしょ!」
これも転校生の宿命というべきか……人数確保のために、クラスの連中からの部活勧誘。これは、俺も苦労したもんだ。
とにかく人手がほしいのかわからないが、やたらとうっとうしいんだよな。結局俺は、入らなかったけど。
で、綾平はというと……
「うーん、いっぱい部活あるんだねぇ。でもごめん、私部活はしないって決めてるんだ」
特に悪びれた様子もなく、断りを入れる。そこに嫌みはなく、むしろ清々しくさっぱりしている。
それからも、うまく連中をかわしながら結局、部活の見学にはいかずに一人の女子へと声をかける。
「お待たせー、来音ちゃん」
「人気者だねー、綾平ちゃんは」
緋美也 来音……クラスのアイドル的存在で、親衛隊までいる。くわえて、俺に迫ってきた狂気の女だ。
迫ってきた、というのはもちろん、ピンクの意味でではない。
どうやら、転校生の綾平はクラスのアイドル緋美也 来音と一番仲良くなったらしく、一緒に帰る約束をしていたらしい。
ちなみに緋美也 来音はなんらかの部活に入っているらしいが……なんだったか。文化系のなにかだった、とは思う。
「圧倒的にクラスに溶け込んだなぁ、あの転校生」
「だな。それにかわいいし、スタイルいいし、おっぱいも結構あるしな」
「変態か」
あははは……
そんな会話が、聞こえてくる。やれやれ、本人がいないときにするのはまだいいが、どうせなら聞こえないように言ってほしいものだ。
……俺も、帰るか。今後どう動くか、予定を練らないとな。
クラスの連中に、ありきたりな挨拶を告げ、教室を去る。俺の行動パターンは、だいたい決まってきている……学校が終われば家に直帰、復讐のやり方を練る。
こんな毎日で、正直頭がどうにかなってしまいそうなこともあるが……これも、俺が望んでいることだ。文句はない。
「……まだまだこれから、だな」
何人かクラスメートを手にかけたとはいえ、残っているのはまだまだいる。それに、まだそこまで大きな騒ぎになってはいないが……大事になってしまう前に、事を進めていかないとな。
ただ殺すだけでなく、いかに効率よく殺すか。なぁに、俺ならうまくやれる……やってやる。そのために、この体に生まれ変わったのだから。
不確定要素も少なからずあるが、問題はない。それらが、復讐の障害になるまでにはいかないだろう。
また数日、様子を見てから実行に移す。俺の復讐は、必ず完遂させてやる! その気持ちは、揺るぐことはない。
それまで、あのくそったれな空間で過ごすことになるが、今しばらくの辛抱だ。耐えて、耐えて、耐えて、全員を殺せば、俺はようやく進むことができる。この先へ。
復讐の人生。そして、復讐を完遂したとき、俺は第二の人生を歩んでいく! そのために、もしも復讐を邪魔する奴がいれば、そいつも殺す。
まずは、一週間だ。それだけの日を置いて、今度は複数殺す。このままチマチマやっていてもラチがあかないし、効率よく、手際よく、殺していく。
だから……
「えー……悲しいお知らせです。……昨夜、萩野宮が、亡くなっていたとの報せがありました」
その三日後、予想だにしなかった言葉が教師から告げられ、俺の中で練った予定は、崩れていく。
 




