二人目の転校生
「えー……昨日、生徒がまた一人亡くなっていることが判明しました」
朝の爽やかなはずのホームルームは、一転して暗く重たいものとなる。しかし、その知らせを受けて絶望に悲観する者は少ない。
なぜなら、これで五人目……いや、俺と海音を除けば、七人目なのだから。亜久留 兵八、歩乃咲 結可里に続き、俺はあの後三人のクラスメートを殺した。
だがこの三人は、公園で溺死させた亜久留 兵八とも、首を絞めて絞殺した歩乃咲 結可里とも違い、俺が直接手を下したわけではない。前者二人は、思えば大胆な殺し方だ……いくらこの手で殺したかったからって、足がつく可能性は高い。
だから、後者三人は、交通量の多い交差点や、電車が過ぎる寸前のホーム、歩道橋の階段からそれぞれ突き落とし、殺した。
人が多ければ誰が押したか、そもそも自殺か他殺かさえも判断がつかない。逆に、人通りがあまりに少ない時間帯であれば、歩道橋という場で行為に及んでも見られていないものだ。
だから、だろうか。クラスの約三分の一が減っても、学級閉鎖にならないのは。この七人全てが他殺であるならともかく、自殺や事故死の方が多いのだ。ここに繋がりを見つける奴は、いないだろう。
「えー、悲しい事件が続きますが、皆気をしっかりと持って……」
この教師の話を、それだけが真面目に聞いているのか。
ちらりと、辺りを見回す。中には、恐怖に震える者もいるにはいる……が、その仕草さえ演技である可能性もある。
この中で一番堂々としているのは、いじめの主犯格である白田能勢 亡。俺ももちろん、直接いじめられていた。亜久留 兵八が死んだことを聞いても、死因を担任に聞いて顔色一つ変えなかった男だ。
もう一人……気になるのは、驚きからか口を押さえて、目を見開いてい緋美也 来音。この女に関しては、以前放課後の屋上で愛の告白……という名の狂気を目の当たりにしてから、もうなにも信じられなくなっていた。
しかもあの女に関しては、『協力者』になってくれと申し出を受けてから、彼女からの接触はない。その目的も不明のままだ。
危険人物として認定している人物は、とりあえずこの二人だ。危険人物だからこそ早めに殺しておくか、それとも後に残しておくが……
「えー、ここで皆に新しいお知らせです。今日からこのクラスに、転校生が来ることになりました」
ざわざわ……
「仮刀に続いて二人目の転校生だ、皆仲良くするように。入ってきなさい」
転校生、か……俺が言えた台詞じゃないが、この時期に珍しいな。
しかし……転校生ってことは、このクラスでなにが起きているかはともかく、なにが起きていたかは知らないわけだ。
復讐の対象外か……面倒だな。
ガラッ
扉が開き、転校生が入ってくる。その瞬間、クラスがざわついた。俺も、思わず目を奪われてしまったくらいだ。
「はじめまして。琴引 綾平と言います。皆さん、これからよろしくお願いいたします」
教師の隣に立つのは、長髪を金髪に染めた、肌の白い女。驚くほどに顔は整っていて、髪が黒ければ、日本人形と言われても不思議ではないほどに美しい。
それに、こういうときってのは大抵、歓声があがるものだと思っていたが……少しざわつく程度だ。あまりの美しさに、みんなあっけにとられているのだろうか。
んん……あの顔立ち、誰かに見てるな。もしや、モデルかアイドルに似てるから、こんなにも美しいと感じるのだろうか?
「あー、じゃあ自己紹介も済んだところで……仮刀の隣が空いてるな。琴引、あそこに座ってくれ」
「はい」
この場にいる誰もがあっけにとられる中、それでも時間は進んでいく。転校生……琴引 綾平が、俺の隣の席へと座る。
その際に、ふわっといいにおいがした気がした。うおぉ、美少女ってのはいいにおいしてるもんなんだろうか?
「よろしくね。えっと……」
「仮刀……仮刀 神威だ。よろしく」
「神威くんか、かっこいい名前だね! 私のことは綾平でいいよ」
なんだこの初対面からの超フレンドリーな性格は……いきなり下の名前という距離感。それも、笑顔のおまけ付き。こんなの、男を勘違いさせかねないぞ。
クラスの連中の視線が痛いが……まあ、関係ないことだ。
転校生が来たことは予想外だが、それでも俺のすることは変わらない。むしろ、転校生が来たことでクラスの空気が変わるかもしれない。
この先のことはわからないが……これを面倒ではなく、幸運と考えろ。何事も、ポジティブだ。
クラスメート残り三分の二……前向きに考えていかなければ、とてもこいつら全員を殺すことはできないのだから。




