この世界は、狂っている
ちょいといじめシーンから入りますんで、苦手&お嫌いな人は次ページへ行っちゃってください。展開が展開だけに、連続投稿してます
ここはあくまで、導入みたいなもんなので。とはいえ、できるだけきつくならないように書いたつもりですので
この世界は、狂っている。
「やめろ! やめてくれ!」
この世界は、狂っている。
「ぎゃはは、うるせーよお前! なに言ってんだか……おとなしくしてろ!」
「そうそ、うっざく絡んできやがって! 変な奴だよな」
「あのまま続けとけば、気に止めることもなかったのによ!」
この世界は、狂っている。
「ぶごご! ぶっ……!」
この世界は、狂っている。それを訴えたくても、それを訴えるための口が使えない。なぜなら顔を水に突っ込まれているから。僕の意思とは関係なく、頭を掴まれて水の中に顔を突っ込まれている。
それも、便器の中の水だ。衛生的なことは、この際言っていられない。息が続かない。このままじゃ死ぬ。
「ぶぐっ…………ぷはっ! はぁっ……」
「はぁーい、もう一回」
ドプンッ……息継ぎのためだけに水から出され、かと思えば再び水の中に顔を突っ込まれる。もう何分も、この繰り返し。いや、何十分か? もう、時間の感覚すらわからない。
この世界は、狂っている。
「……おっ、もうこんな時間か。ほら、行くぞ」
苦しみしかない時間……そこに、突然の終わりが見える。
どうやら、チャイムが鳴ったらしい。僕をこんな目にあわせているクラスメートは、律儀にも授業を知らせるチャイムによって僕への行為を止めた。
この世界は、狂っている。
「げほげほ! ぇっ……うぇ!」
「あーあー、きたねぇなぁ。そんな格好で、教室に戻ってくるんじゃねえぞ?」
「終わったら、また戻ってきてやるからよ。逃げんなよー?」
力なく僕につばを吐き捨て、クラスメートはこの場から去っていく。僕は個室に残され、顔どころか全身びしょ濡れにされている。
苦しい、痛い、冷たい、汚い、悲しい、臭い……様々な感情が沸き上がってくるが、そこに幸の感情はまったくない。負の感情だけだ。なんで、僕がこんな目にあわなきゃいけない。
この世界は、狂っている。
「う……み、ね……」
無意識のうちに口から出た「うみね」という言葉……いや、名前。……榁途 海音。それは、僕の友達の名前……そして、もうこの世にはいない人間。
同じクラスメートだった彼女は、ほんの数日前まで同じクラスで、同じ授業を受け、同じ生活を過ごしていた。だけど、彼女はもうこの世にいない。
この世界は、狂っている。
「うみ、ね……ごめ、んな……」
声を出すのも苦しい。なのに僕は、もういないクラスメートに向けて、謝罪の言葉を告げていた。
どうして、こんなことになったんだろう。どうして、海音は死ななければならなかったんだろう。
……きっかけは、海音へのいじめだった。それも少人数ではない、クラス規模によるものだ。クラスの全員が、海音に対していじめを行っていた。男子も女子も、関係なしにだ。
いじめに至る経緯は、なんだっただろう。海音は人見知りだった……それが誰かの気に触ったのかもしれないし、もしかしたら海音が悪いことをしたのかもしれない。とにかく、僕が気づいたときにはいじめは始まっていて。
当時の僕は、それを見て見ぬふりしかできなかった。机に落書きされるのも、靴を隠されるのも、教材を捨てられるのも。今の僕のように、トイレに連れ込まれることだってあった。
いじめはどんどんヒートアップし、殴られることや服を脱ぐことを強要されることさえあった。それを海音は、黙って受け入れるしかなかった。味方なんて、いなかったから。
海音の味方をすれば、次は自分が標的にされる……その気持ちが、誰をも動かさなかった。直接手を下していないとはいえ、僕だっていじめていた奴らと同じだ。
だが、それも限界が来た。それまで見て見ぬふりを続けていた僕は言ったのだ、やめろと。海音にひどいことをするのは、もうやめろと。黙って見ていた自分に、お別れを告げたのだ。
『……はぁ? 今さらなに言ってんだお前』
勇気を振り絞った僕の言葉は効果なく海音を救うことはできず……結果として、数日後に海音は自殺した。僕は、救いたかった海音を。いつも一人だった僕に、話しかけてくれた唯一の人だから。それなのに……
彼女が自殺した理由は語られていないが、先生からおとがめがなかったことから、いじめが原因ではない……と思われたのだろう。そもそも、先生たちがいじめを認知してたのかすら疑わしいが。
海音が死んでからは、いじめの標的は僕に移った。理由は、あの時海音のいじめをやめるようにと言ったからだろう。いじめの理由なんて、そんなもんで充分なんだ。
親や先生に助けを求めろって? 実は僕も、海音にそんなことを思っていたが……される側になったら、わかる。こんなこと、誰にも言えやしない。報復が怖いとか、周りに迷惑がかかるとか、身内ですら信じられなくなるとか……理由はいろいろある。
結局僕は、海音が死んでから何日もの間、クラスのみんなから壮絶ないじめを受けた。詳細は省くが、こんなこと……とても、耐えられるものではない。
「……この世界は、狂っている」
僕がこう思ったのは、ほんの数日前のこと。海音が死んでからだ。クラスの連中、海音が……クラスメートが死んだというのに、笑っていた。そして、すぐに次のいじめ相手……いや玩具を見つけ、いじめる。
これは、海音を助けられなかった自分への罰だ。だけど、なんで僕だけがこんな目にあい、あいつらはへらへらと笑っていられる? なんで、あいつらは悪びれもなくいられる?
なんで……
「よーう、戻ってきたぜー」
「へへっ、ホントに逃げなかったのか。偉い偉い」
「じゃ、続きを始めようぜ」
なんで、こいつらはのうのうと生きていられる?
こんな奴ら…………死んだって、誰もコマラナイノニ。
「そういや俺今度試合なんだよなー、練習しとくか」
「サッカーのだろ? けど顔はやめとけよ? やるなら……」
「わかってるよ。服で隠せるところにだ、ろ!」
ドゴッ……!
「ぐはっ!」
ベチャッ
腹に足がめり込み、胃液が逆流する。口から胃液が、血が、吐き出される。意識が……
「うわっ、きたねえんだよ!」
ドゴッ! ドッ、ドッ! ゴッ! ベゴッ!
意識が、朦朧としてくる。これからも、ずっとこんなことが続くのだろうか。殴られ蹴られ、水をかけられ虫を食べさせられ、服を脱がされ汚されて……
「……かっ、は……」
こいつら……絶対、に……コロ、シテヤ、ル……
…………これは、僕が死ぬまでの記憶。そしてこれからが、死んでから俺がこいつらに復讐するための、物語。
いじめ描写は自分自身得意でない…というより嫌いな部類なので、なるべく深く掘り下げずに書いたつもりです。ならなぜ書いたし、とは言わないでお願い
次回からは、そんな描写ともおさらば…のはずです
あ、最後の「僕」と「俺」の表記は間違いではありませんので!




