再会
「ふむ、とりあえず自己紹介でもするか?」
「そうですね。私たちもまだよくお互いのこと知りませんし」
「・・・えーっと、その前に君達にこの状況の説明を求めたいんだけど」
勝手に話を進めようとした2人に待ったをかける先輩。
「貴様は?」
「三年で寮長をしてるタクトって言うんだ。よろしくね」
「む、先輩だったか。これはすまない」
「なるほど、寮長でしたらこの状況の説明を求めるのも当然ですね。じゃあ私が説明します」
そう言うと神官風の少年は語り始めた。
私はつい先ほどこの寮に到着し、部屋の前で案内をしていただいた三年の先輩と別れ、部屋に入りました。するとそこには魔族かと思うほど禍々しい圧力を持った存在がいました。私は条件反射的に攻撃しました。
部屋がなくなりました。
「以上です」
「う、うーん。まあなんとなくわかった気がするよ。で、その禍々しい存在っていうのは」
「おそらく我のことだな」
「ああやっぱり。ぶっちゃけ僕も魔法を打ちかけたからね。でも部屋が吹き飛ぶなんてどんなのを打ったんだい?」
「すいません。威力を考える余裕がなくてつい」
「うん、いやそれはまあうん。分かったよ。でもそれなら君の方は大丈夫だったの?」
惨状から逃げ場がなかったと予想されるこの部屋でしかし鎧には傷ひとつ付いていなかった。
「この鎧は良いものだからな」
「あ、そう。うーん。まあいいや。部屋の申請とかちょっとしてくるから、君達は一旦この部屋で待っててくれるかい?」
先輩は急いで走り去っていった。
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「で、とりあえず自己紹介でもするか?」
俺は部屋に入りながらそう提案する。
「あの先輩が帰ってくるまで少々の時間がかかるだろう。いいんじゃないか」
「そうですね」
とりあえずみんなで車座になる。
その時だった。
『ガシャガシャ!』
残骸の山が動く。
「んー!よく寝たっ!」
そして少年が這い出てくる。
それからあたりを見まして一言。
「・・・えっと、これどういう状況?」
「「「お前もしかしてずっと寝てたの?」」」
「君達って同室の人?」
「あ、ああ」
「そっか〜。俺この部屋来た時誰もいなくてさー。することもないから寝てたんだよね」
どうやら彼は真っ先にこの部屋に来て、そのまま布団で寝ていたそうだ。その後鎧が来て、少ししてあの事件が起きたらしい。
ちなみに彼は部屋が吹き飛んだことすら気づいてなかったらしい。
「・・・なんとも豪胆な男だな」
鎧がつぶやく。
いや、部屋ごと自分を吹き飛ばしたやつと談笑してたお前も相当だと思うよ。
「ではこれでこの部屋は揃いましたね。早速自己紹介しましょう」
神官風の奴が話を進めようとする。
ただ、俺は一つ言いたい。
「お前、薬屋にいた奴だろ」
「おや、そういうあなたは・・・ああ!喋る剣をお持ちの剣士さんですか!」
「んー喋る剣?ああ武器屋にいた人だー」
今度は寝ていた方が喋り出す。
ああ、よく見れば彼は武器屋でヒノキを求めていた奴か。
「なんだ?貴様ら顔見知りか?」
で、この鎧男の着てるのはあの防具屋にあったやつ。
つまりこいつがあの時お姉さんと喋ってたやつか。
「ふむ?薬屋、薬屋。ああ、あの半額セールのところの奴か」
「んー?あー、俺も君に安くしてもらった気がする」
2人が言う。
こいつらはきちんと割引されてたのか。
なぜ俺だけあんな高い金を要求されたんだ。そしてなぜ俺は払ったんだ。
「ふむ、剣士さん。落ち込んでるところあれですが、みなさん払ってる金額は同じですよ」
「あ!じゃあ君にお礼言わないとね。ありがとねーおばあちゃんがセールに気づいてないの教えてくれて」
「いえいえ。あの人もあなたたちのような若い人と関われば少しは潤うでしょうしね」
そらあのばあさんも潤うだろうよ、懐がな。
「ただそのあとお金が浮いたのにそれ落としちゃったんだよ」
「それは大変でしたね」
「うん、せっかく剣買おうと思ったのにお金が全然残ってなかったんだ。いっぱい持ってたと思うんだけどな」
「どうやらこの街は王都というだけあってなかなかの腕ののスリがいるようだ」
「どういうこと?」
「2人揃って落とすということはないだろう。我が気づいた時には財布こそあったが中身が抜かれていた。防具はタダだったから良かったが、な」
・・・まさかこの2人、未だに気づいてないのか!?
神官が声を潜めて話しかける。
「てかお前あれ普通にアウトだろ」
「ノンノン。アレはここの学園からやるよう言われているのですよ」
「どういう事だ?」
「薬屋は金勘定を、武器屋と防具屋ではそれぞれのものを見る目と、各々の能力を。そして何より冒険者にとって必要な事前準備を疎かにしていないか。そういうものを見ることになっているのです」
なるほど、これも学園の授業の一部ということか。
「じゃあ薬屋のに気づけなかったら?」
「それはありがたくもらっていいことになってます。そういう経験も必要ですから」
「おい」
「その代わり基本学生は割引が入りこれからは安くなります。まあですからその分の補填に充てられるわけですね。これもまた王都の洗礼ですよ」
「じゃあ他の薬屋や警備団とかに訴えられたらどうするんだ?」
「薬屋はどこも同じですよ。ただまあ訴えてきた人たちは気付いたということできちんと説明した上で、」
「うえで?」
「払っていただきます」
「結局払うのかよ!」
「ええ、まあでもこれから学園に入れば利用するうちに最終的にはそちらにお得になりますよ。誠に残念ですがね」
まあ、認められているなら、俺がいうことは何もないか。後最後の言葉は聞かなかったことにしよう。
「さて、脱線してしまいましたが早いところ自己紹介しましょうか。あなたからで構いませんか?」
「ああ。すまん脱線させたのも俺だしな。分かったよ。えっと、俺の名前はフェイ・アスタリア。クラスは」
こいつらにも伝えるべきだろうか。
・・・まあ伝えるべきだよな。
これから少なくとも3年間は一緒に行動するんだしな。
「クラスは、『尤者』だ」