44号室
この学園に寮は東に天の寮が、西に地の寮がある。
学生たちは基本この二つの寮に割り当てられ実力順に組まれた部屋割りで同室の者たちとパーティーを組むことになる。
「俺は地の寮か」
学園長からもらった紙を確認しつつ歩いて行く。
『ドゴォッン!!』
突然地面が揺れた。
「なんだなんだ?」
地震のようだったが、第二波はこないようだ。
「そこの君、大丈夫だったかい!?」
声がかけられる。
寄ってきたのは優しそうな青年である。まともそうな人だ。
いかんいかん、失礼なことを考えた。王都に来てから会う人会う人濃すぎて麻痺してきてる。
「あなたは?」
「ああ、僕は三年で地の寮の寮長をしてる、タクトって言うんだ。よかった。大丈夫そうだね」
「今年から入学するフェイです。よろしくお願いします」
「うんよろしく。そうだ!早速だけどさ。寮、案内しようか?」
この学校は寮の他にも図書館やら研究機関もあるらしく、結構広い。
先輩が案内してくれるなら迷う心配もないだろう。
「助かります」
「今日から新入生が来るからね。出来るだけ三年生の手の空いてる人がここにいるようにしてるんだよ。部屋番号を教えてもらってもいいかな」
「はい。44号室です」
「はいはい44号室ね、・・・44号室っ!?」
凄まじい勢いで肩を掴まれる。
「えっと、43号室や45号室の間違いじゃないかな?」
「44号室です」
「よく見て。きっと4号室だよ」
「44号室です」
「よく見て。きっと11号室とか14号室とか41号室とかにゴミが付いてるから」
「これどうぞ」
らちがあかないので学園長から渡された紙を見せる。
先輩はひったくるようにそれを受け取った。
「大丈夫大丈夫大丈夫!いくらあの学園長だからってあの部屋のことを忘れたわけじゃないはずだ!」
穴が空くかと思うほど見つめたあと、今度はひたすら紙を叩き始める。
「落ちろ!落ちろよ!くそっ!なんで落ちないんだこのインクの染み!」
無茶なことを言い始めた。
ああ、最初の印象がガラガラと音を立てて崩れていくようだ。
こんなんじゃないと王都で生きていけないんだろうか。来てまだ一日もたってないのにすでにここでやっていける自信が削られていくんだが。
「あのー」
「くっ!ダメなのか。やはり彼は、あの部屋なのかっ!」
「44号室のなにがそんなにまずいんですか?」
「あ、ああ驚かせてしまったかな。気にしないでくれ。いい学園生活を送れるよう祈ってるよ」
新生活の充実を祈りながら優しい目でこちらを見てくる先輩。
しかし俺はこの目を知っている。
俺の親の評判を田舎で聞いて回った時、なんの返答もされずにただこの目で俺を見つめ、彼らは俺に美味しいものをくれたものだ。
そう、屠殺場に連れて行かれることが決定した家畜を見る目である。
「いや本当になにがあるんですか!?」
と言うかあそこまで取り乱しといて隠し立てできるわけもない。
「それもそうだね。どうせ遅かれ早かれきっとあの部屋のことは君の耳にも入ってしまうだろう。なら今教えてあげるべきだね」
ゴクリ。
「全員オカマになっちゃうとかですか?」
「うわっ!剣が喋った!」
「このタイミングで邪魔すんなこのばか剣っ!」
フェイは消音機能を使用した!
しかし剣は黙らなかった!
「じゃあじゃあ、全員そっちの方に食われちゃうとか!」
「おい本当やめろお前!あと何でお前そんなに興奮してんの!?消音機能が効かないんだけど!」
ありったけの魔力を込める。
「アァァアァァァァ、、、、」
なんか魔物が封印されるみたいな声で静かになった。
「け、剣が喋った」
「先輩すいません。あれはただの喋る剣です。気にしないでください」
「あ、ああそうか。ウオッホン。
よし、もう大丈夫だ話を続けようか」
「お願いします」
「あの部屋の住民は毎年全滅してるんだよ」
・・・あいつが喋ったせいで場の空気が完全に白けてしまったようだ。
「あんまり驚かないんだね」
「まあ、そんなことじゃないかとは思ったんで」
そういうと先輩は少し驚いたような顔をしたが、すぐに頷いた。
「先ほどの剣といい、どうやら君は普通の新入生と違ってだいぶ場慣れしてるようだね」
「まあ、色々ありまして」
「聞かれたくないなら深くは聞かないよ。そう言う人もここにはたくさんいるしね」
めっちゃ気を使ってくれてるけど俺あの剣拾っただけだし別にそこまでじゃないと思います。
だが先輩は勝手に納得してしまったようだ。
「それなら君の同室の人間たちも実力者ということかな。一年は勇者を天にとられたからダメかと思ってたけどこれは意外といけるかな?」
「何の話ですか?」
「ああっと!ごめんね。今はまだ君には関係ないよ。機会が来たらわかると思うけどさ」
「勇者を天にとられたって」
「ああ、そうだね。今年は勇者がいるんだ。しかも同室のメンバーもいるらしい。つまり比肩する存在がいるわけだ。今年の天の寮の新入生は一味違いそうだね」
「はあ」
「まあでもうちも負けてないはずさ!って今の君には関係ないか」
そう言うと先輩は思い出したかのように今度はおれの方を叩く。
「そうだ、頑張ってくれよ」
「新生活ですか?」
「それもあるけどさ。君のような実力者たちが集まるなら、きっとあの部屋の全滅の呪いなんて噂も払拭できる気がするからね」
「俺はそんな大した存在じゃないですよ」
「そうかい?僕の感は結構当たるんだけどね。まあ個人的に期待してるんだよ。だから、頑張ってね」
少し寂しそうに先輩は言った。
寮長にすれば自分の寮の一室がそう言われるのは悲しいのだろう。
「まあ、頑張ります」
「うん!さて、話してたら到着したね。ここが44号室だよ」
部屋の扉についているのは『44』のナンバープレート。
この部屋に宿る全滅の呪い、俺とは無関係だがここに決まったのもまた一つの災いなのだろうか。
上等だ。どうせ俺のクラスのこともあるのだ。このくらい乗り越えてやろうじゃないか。
俺は、いづれ襲いかかってくるであろう災いに覚悟を決め、新たな仲間たちへの期待を胸に扉を開いた。
「あの、部屋がないんですけど」
「あれぇっ!?」
扉の向こうでは少年と鎧と部屋の残骸らしい山があった。
扉の開く音を聞いたのかこちらを向いている。
「おや、どなたでしょう?すいません。今は部屋を私が吹き飛ばしてしまったので私たちの今日の寝床について考えてるところ為、あまり構えないのですが」
「ふむ、見たところ貴様も同室かな?ではともに頭をひねろうではないか」
「ええぇ・・・」
おれの新しい住まいは、どうやらすでにお亡くなりになっていたようだった。